第153回 「Hats: An Anthology by Stephen Jones」展

英・ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で昨年開催された話題の展覧会「Hats: An Anthology by Stephen Jones」がスティーブン・ジョーンズと同博物館の協力により、ニューヨーク西86丁目にあるBard Graduate Center(バード・グラデュエート・センター)のギャラリーで開催されています。会期は2011年9月15日から2012年4月15日までです。 スティーブン・ジョーンズは、ロンドンでも有数の婦人用帽子デザイナーとして、ボーイ・ジョージ、故ダイアナ元英国王妃やウェールズ王女のような名士の帽子デザインを手掛けています。また、バレンシアガ、クリスチャン・ディオール、マーク・ジェイコブス、ジャン・ポール・ゴルチエなど多くの有名ファッションデザイナーとも仕事をしてきました。 今回の招待状はインパクトのある帽子を持つ彼の顔をメインに用いて、カードからも、その世界観が伝わってくるような内容です。 【 写真 1 】 【写真1】 この展覧会は3つのテーマで構成されています。一つ目は、はるか昔、12世紀のエジプトで使われていた繊細なフェズ紙で作られた帽子や、絹、金属糸を使った帽子、また、20世紀のヨーロッパとアメリカの帽子について幅広い作品例を展示しています。2つ目は抽象的な作品で、特に材料、技術、感性やテイストを中心に選ばれたもの、3つ目は、ミスター・ジョーンズによってデザインされた約80点の帽子を展示、過去10年間における彼のデザイン作品回顧展のような印象を醸しています。彼の作品には頻繁に視覚的なシュールレアリスム・トリックが取り入れられていて、駄洒落ともとれる作品も見受けられるのですが、人間の頭を利用して、ファッションとしてだけでなくオブジェとしてのアート装飾で個性を出しているのも特徴です。ミスター・ジョーンズはヴィクトリア&アルバート博物館での展覧会からニューヨークのバード・グラデュエート・センターのギャラリーで行うショーの為に内容を再構成しました。ベーブ・ルースのヤンキース・キャップとアンディ・ウォーホルのかつらなど、ニューヨークの街と縁のある帽子が追加で展示されています。また、帽子作りの仕事部屋 【 写真 18、19 】 の一つ 【 写真 20 】 では、ニューヨークの老舗デパート、バーグドルフ・グッドマンの顧客係であったマリタ・オコーナーに宛てたジャクリーヌ・ケネディーからの注文の手紙等も帽子の型と共に展示されました。合計約260点の帽子の内100点以上は、ヴィクトリア&アルバート博物館展から巡回した作品だそうです。   【写真2】 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】 【写真14】 【写真15】 【写真16】 【写真17】 【写真18】 【写真19】 【写真20】 ニューヨーク・ファッション・ウィークの期間中に行われた9月14日のオープニングでは、各々工夫をこらした帽子をかぶった女性が多く、そちらも展覧会と同じ位、目の保養になりました。私達は帽子というと、皇室のような優雅さを思い浮かべてしまいますが、この展覧会を見た後は、何となくケーキに装飾されたアイシングが思い出され、髪飾りとしてひと工夫してみたい様な、創作力が湧いてきました。これからのパーティー・シーズンに反映しそうな感じがします。 【写真21】   ・お知らせ 海老原が創立理事となって立ち上げた非営利団体IDNFでは、「Design Saves Lives」チャリティオークションへの出品作品を募集しています。このオークションは、日本とニューヨークの作家、デザイナーが出品する、東日本大震災の復興支援金を集めるためのチャリティプロジェクトです。 出品申込締切りは10月20日(木)。募集要項等の詳細は公式サイトよりご確認ください。 「Design Saves Lives」 公式サイト http://www.designsaveslives.org/ja 【写真22】 【写真23】 【写真24】 【写真25】 【写真26】 【写真27】 【写真28】 【写真29】 【写真30】 【写真31】 【写真32】

第144回 MAD 美術館の「LOOT」ジュエリー展示即売会

 ミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザイン(MAD)で2000年に始まって以来、2年ごとに開催され、今回で5回目を迎えるジュエリー展示即売会「LOOT」。MADがコロンバス・サークルに移転以降最初の展示会として、10月20日から10月26日まで開催されました。 審査員によって選定された1点もののコンテンポラリー・アート・ジュエリー。参加アーティストは世界15カ国60人以上で、2000点以上の作品が展示されました。「Visionaries」「Metaballl」「SOFA NY」と同じく、この「LOOT」も、Museumの基金集めとして大きなイベントです。   【写真1】  初日は4時半からオープニング・イベントが開催されました。$5000から$250までの特別チケットを購入した招待客が時間差で来館。直接アーティスト達と会話を楽しみながら、8時までショッピングをしていました。この日がやはり一番、売行きが良いようです。翌日の木曜日は夕方6時から拝館料が無料になり、夜9時の間まで、グループ見学など沢山の人で賑わいました。 最初の展示コーナーがオランダ・デザイナー・セクション、次はNYで活躍している著名デザイナ-、そしてNative American Artist(インディアン)自然石などを使った著名アーティスト、そして奥の部屋は各国のデザイナー達のブースが並びました。   【写真2】 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】  日本の作家では、長年出展している和田隆さんが前の方のブースに。今回はじめて日本から選ばれ出展となった坂雅子さん、一力 昭圭さん、そしてNY在住の横内さゆみさんの作品が選ばれ参加しました。 23日の土曜日には、学芸員の司会で、著名デザイナーのパネル・ディスカッション「自分の作品のLOOT」が3時から6時まであり、個々のジュエリー、アート、デザイン、クラフトの特徴、考え方などが、映像とパネル・ディスカッションで紹介されました。質疑応答もあり、日本の一般的ジュエリーの考え方との大きな違いあり、とても勉強になりました。 【写真14】    他にもいろいろな講習会、ツアーが企画されました。普段休館の月曜日も、この展示の日はオープンして、週末を楽しんでもらおうというものでした。他の美術館にはない、MAD 美術館の特徴でもある、2階の常設ジュエリー展示・ティファニールームと同じ2階で、この「LOOT」が催されている事も、ジュエリー愛好家には、見逃せないものだったようです。今Museumショップの中でも評判のMAD Museumショップにも、オリジナル・ジュエリーが多く、評判も売行きも良かったようです。 【写真15】  出展作家が多すぎるせいか、個々の展示ブースの小さいことが難点。それを除けばミュージアムがアートとビジネスと繋ぐイベントとしては、成功例といえる企画でした。 【写真15-2】 【写真16】 【写真17】 【写真18】 【写真19】 【写真20】 【写真21】 【写真22】 【写真23】 【写真24】 【写真25】 【写真26】 【写真27】 【写真28】 【写真29】 【写真30】 【写真31】 【写真32】 【写真33】 【写真34】 【写真35】 【写真36】 【写真37】 【写真38】 【写真39】 【写真40】 【写真41】 【写真42】 【写真43】 【写真44】 【写真45】 【写真46】 【写真47】 【写真48】 【写真49】 【写真50】 【写真51】 【写真52】

第130回 Slash: Paper Under The Knife「紙を斬る:ナイフを下に」

10月7日から2010年4月4日まで、MAD Museumの企画・素材・行程をテーマにしたシリーズ展の第3弾として、Slash: Paper Under The Knife「紙を斬る:ナイフを下(もと)に」が開催されています。MADの第1回の「ニッティング」、第2回の「レース・刺繍」に続くもので、第3回の紙をテーマのこの展覧会はナイフ、レーザー、新テクノロジー等を駆使し、イタリア、ドイツ、オーストリア、日本、中国、カナダ他16カ国のアーティスト52人が挑戦した紙の作品の展示です。紙がこの何年か大変注目されていて、今回MAD Museumが取り上げた作品の一部を紹介すると、まずロビーにはAndrea MastrovitoのColumbus Circleを意識した「Columbus’s Ship」を天井から展示した作品(写真1)があり、海の波が紙で表現された天井にまず目をうばわれます。3階にはChris Gilmourの「Triumph of Good and Evil」があり、イタリアで街中にある銅像を見ながら、段ボール箱のリサイクルで糊付しながらイタリアで作りあげた作品で、すでにNY市のコレクターが自分の館に飾るために買い上げた2メートル以上ある大きな作品(写真2)です。Andreas Kocks PaperworkはドイツのミューヘンとNYで制作していて、水彩で黒く塗った紙を切って、空間に合わせ重ねて構成していく作品(写真3、4)が迫力でせまり、Tom Friedmanの朝食のオートミールで有名なQuakerの箱35個を切り裂き、ラベルを水に付けてはがして用意し、コンピュータでのばした画像を見本にまた原型の円柱の箱に貼りなおしたというユーモアが際立つ細く長い彫刻の作品(写真5)もあります。紙を切って、こんなにも表現豊かな沢山の作品に、日本にももっと違う紙を見せたい夢がひろがりました。6階のワークショップのフロアーでは、12月5日2時から、女子美同窓会NY支部の有志2、3人がデザイナーの太田恵子さんを中心に、クリスマス・ラッピングとホリディ・カード制作のワークショップをする事が決まりました。はじめての日本人によるワークショップで今後、日本からの匠の技を見せるきっかけになればと願っています。 http://www.madmuseum.org/DO/Calendar/200912/think%20global.aspx 【 1 】 ロビーにAndrea MastrovitoのColumbus Circleを意識した「Columbus’s Ship」を天井から展示した作品 【 2 】 Chris Gilmour「Triumph of Good and Evil」 段ボール箱のリサイクルで糊付した銅像の紙作品 【 3 】Andreas Kocks Paperwork PHOTO CREDIT: Christoph Knoch 【 4 】Andreas Kocks Paperwork 【 5 】Tom Friedman「Quaker Oats」2009 Photo: Justin Kemp 【 6 】Ferry Staverman, Exhibition a Space Odesey in 2007, Weekendgallery Photo:

第129回 NYのArt & Fashion シーズンのはじまり。

ニューヨークは、毎年、夏のバケーションから、レーバーデイ(今年は9月7日)が過ぎると、とたんに秋の行事が動きはじめます。今年のアートシーンのはじまりは、9月2週目の木曜日である10日。シーズン最初のオープニングで、沢山のギャラリーで同時にパーティーが行われました。アートシーンがソーホーからチェルシーに移ってから久しく、この混雑は何事かと思うようなオープニング・シーンに出くわしました。 【 1 】 チェルシー25,26,27丁目ギャラリーが一斉にオープンした通りの賑わい。(写真1、2) 【 2 】 【 3 】Tria Gallery, (531 W. 25th St.) 【 4 】Doosan Gallery New York (533 W. 25th St.)(写真4、5) 【 5 】 【 6 】Doosan Gallery New York Artist- Myeongbeom Kim solo show “ONE”(写真6、7) 【 7 】 【 8 】Stux Gallery 前の混雑(25st.) この不景気に…と思うような、道を横切れないほどの混雑ぶりで、どうしてこんなに人気なのだろう、と同行した友人と首をかしげつつ、ウェストサイド川沿いに近い、27丁目、26丁目、25丁目の10番街と11番街の間に、軒なみ並ぶギャラリーのはしごをしました。 まず初めの、25丁目のチェルシー・アート・タワー1階のMarlborough Gallery(写真9~14)は超満員で、ペーパーマッシェのような素材でつくられた大きな花「A New Beginning」のWill Rymanとおめでとうの挨拶を交わしました。この通りは「Gagosian Gallery」等もある通りで、大変な人気でした。韓国のギャラリーのパワーも素晴らしく、大きなスペースを贅沢に使ったギャラリー続出でした。その一つ、「Arario Gallery」ではOsang Gwonという作家の、写真のプリントを一度分解したものをまた貼付けて人体をつくっている彫刻の展覧会がありました(写真15~18)。並びの26丁目の、銀座にもある「一穂堂ギャラリー」では、青木良太の陶器の作品展が開催されており、内田繁が内装を手掛けた茶室の前にも、青木良太の別の作品が並べてありました。(写真19、20) 【 9 】 チェルシー・アート・タワーとMarlborough Gsllrty(写真9~13) 【 10 】 【 11 】 【

第123回 Fashioning FELT ファッションするフェルト

この展示会は、テキスタイルの最初の技術と言われるフェルト、古代から存在する素材で、この2、3年大変人気のあるマテリアルでもあるフェルトを「ファッションするフェルト」と題してまとめたもので、3月6日から9月7日までCooper-Hewitt National Design Museumで開催されています。 フェルトの画期的な様々な新しい手法、ファッション、建築、プロダクトデザインそして装飾にわたる分野の70点以上の作品が展示されています。 展覧会はCooper-Hewitt National Design Museumがコレクションとして保存していた作品も多く、フェルトの歴史を取り上げる作品から始まり、ハンドメイドの画期的変化を捉え、使い捨てのウールとフェルトの再利用という近年のテーマ、サステナビリティーに絡んだ作品、またGaetano PesceからTom Dixonまで建築家やデザイナーたちの、幅広く網羅された最新のフェルトに至るまでを紹介するかたちになっています。手芸、クラフトになりがちな素材の展覧会が、ハーバート大学建築科教授の森俊子氏の展示設営で、すっきりとまとめられています。 展示会のハイライトは、今日のフェルト工芸を代表する2人の作家の作品で、一つは旧カーネギー邸だったこの美術館の温室ドームを、ジャニス・アーノルドが手掛けた、シルク・オーガンディーにレースのようにフェルトを組み込み、創作された布でドームを覆い尽くしたインスタレーションです。ジャニス・アーノルドは遊牧民のテント式移動住居、ユルト(テント)に魅せられた宮殿「ユルト宮殿」を創り上げました。 もう一人のオランダのデザイナー Jongstraは、彼女自身の飼育する羊の毛を使った、手製の毛の長いフェルトでよく知られていますが、この展示では大きな異なる半円スペースを創っています。 館長のPaul Warwick Thompson 氏は次のように語っています。「フェルトは遊牧文化において何千年もの間、重要な役割を果たしてきました。この展示会ではその原点を探り、今日に至るまでを緻密に紹介しています。また従来のものから、非伝統的なフェルトの長年にわたる使い方、の両面からみることによって、そのユニークな性質にスポットライトを当て、古代の素材の現代の姿を広範囲にわたって展示しています。」 フェルトは再生できる原料から出来ていて、その制作行程はごく簡素なもので、全く無駄がでず、羊毛を水に浸し、繰り返し擦り、繊維を圧縮することにより、強く暖かく保湿性があり、防音、防水、耐火にも優れた繊維が出来あがる行程もVideoやパネルの展示で見る事ができます。その混合法は、羊毛の束を手で地面に激しく叩き付けるやり方から、機械で摩擦する工業フェルトまで、様々で、ただ、どの方法でも、フェルトを縮めて固めるための、強い振動と圧力が必要です。 ウールから出来ている他の繊維、編む等の機織とは違い、フェルトには繊維の内部構成というものがないので、自由自在にカスタマイズして、完成したプロダクトにする事が出来、他の素材ではみられない万能性があり、例えば、柔軟性や透明感を持たせる事も、濃密に固くすることもでき、解れのない裁断や、立体に作り上げることもできる万能布地です。 その紀元が少なくとも新石器時代(9000B.C.)に遡るといわれるフェルトは、人類の作りだした最古の布地だと言われています。中央アジアやモンゴルの遊牧民の唯一の重要な素材だったフェルトはテント、衣服をはじめ、柔軟性のある、折畳式の移動住居の、ありとあらゆるものに使われていました。その素材の多用性、また歴史を通しての技術の進化を捉えるために、この展示会では動物のわな、カーペットや羊飼のマントなども展示しています。 環境への負荷が無く、100%リサイクル可能で、様々な分野で持続可能な素材として注目されているこのフェルトは今日、デザイナーに無限の可能性を与えてくれています。 今迄に開催されていそうで、なかったフェルト展、改めて話題を呼んでいる、この夏ニューヨークで、一押しの展覧会です。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第119回 セントラル・パークに出現したザハ・デザインのシャネル移動美術館

10月20日に、あの噂の「シャネル・コンテンポラリー・エアーコンテナ」がついに香港、東京の次の着陸地、ニューヨークはセントラルパークへやって来ました。この宇宙から舞い降りて来たような白いコンテナは、2年間に世界6都市を訪れる移動式美術館(モバイルアート)で、シャネルのアートディレクター、カール・ラガーフェルドのコミッションにより、建築家ザハ・ハディッドがデザインしたものです。 ココ・シャネルのキルト・ハンドバッグ“2.55”の50周年を祝うため、世界から選ばれた20組のアーティストが、このバッグのそれぞれのインスピレーションをもとに制作したといわれる作品が、展示されています。 オープニングパーティーは昼にも開催していましたが、夜に出席するチャンスにめぐまれ、セントラルパーク内のラムジー・プレイ・フィールドに招待状をもっていくと、厳重なゲストリストのチェックがあり、中へ入っていくと、そこには多数のカメラマンが立ち並び、セレブリティーが到着するシャッターチャンスを待っていました。 暗闇に光っているザハのこのモバイル美術館は、まさにUFOのようでした。招待客も行列待ちで美術館の中へ入るのですが、お洒落なオーディオセット、MP3を付けてくれます。フランス女優、ジャンヌ・モローの深い声が、突然現実から遮断し、これから体験する事になるアートの世界を語り、誘い込みます。 進み始めると、台湾アーティストのマイケル・リンによる、赤がベースのカラフルなタイル・モザイクで敷き詰められた床が出迎えてくれます。天井からは、ロリス・チェッキーニ(イタリア)のクリスタルの彫刻インスタレーションが目を引きます。 さらに進むと階段へつながっていて、大きな容器の中を上から覗く形になっているのが、日本のアーティストの1人、束芋によるビデオインスタレーション。井戸の中から巨大で怪しげな昆虫のような映像が浮き出てきます。 その他、ブルー・ノージズ(ロシア)による作品は、段ボールを覗くと裸の人間達が中でシャネルのバッグの追いかけっこする、というこれまた映像のインスタレーションが仕掛けてあります。オノ・ヨーコの作品は“Wish Tree”で願い事を書き掛けて、これが最後の作品で終わりになります。 コンテンポラリー・アートということですが、あまり主旨はつかめず、全体的にボリューム感があまりなくて、あっという間に終ってしまった、という感じがしました。次々に来場する、シャネルを身にまとうゲストらを観察する方に気を取られてしまったせいかもしれません。 その中でも、やはり当人の、カール・ラガーフェルド、ザハ・ハディッドが登場すると場が盛り上がりました。 美術館を出ると、もうそこはセントラルパークがパーティー会場になっています。パーティー屋内会場ができていて、中ではライブが行われ、皆酔い踊っていて、終わりの時間が表記されていないインビテーションでしたが、有名雑誌の元モデル、美女美男はもちろん、ファッション関係者で華麗そのもの。ケータリングもとても格好良く、モデルへの気配りなのか、ヘルシーなシーフード中心。座っていると、シャンパンはボトルでどんどん置かれていき…、多いに盛り上がりました。ニューヨークの夜はまさに尽きません。野外なので、トイレは仮設ですが、お洒落な空間になっていて、そこにはやはりシャネルの香りがする気配りも…。久々に派手なパーティーで、やはりファッション業界、NYのセレブの華麗なる夜を味わう一夜でした。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第94回 昨年SOHOにオープンした、話題の2つのフラッグシップストア

フラッグシップストアUNIQLO SOHO オープン ユニクロが、マンハッタンのファッション発信地SOHOに最初のグローバル・フラッグシップストア(旗艦店)を開きました。場所は、546 Broadway、Prince とSpring通りの間にあります。 2006年11月9日のオープニングは、3300平方メートルという巨大なストアー・スペースで、地下の一部を除く全館を使って行われました。最近NY一番のエンターテイメントとして、料理の鉄人 森本シェフが、長い刀のような包丁を使ってまぐろ1本をさばき、お寿司にしたりパンの上に乗せたりして、次から次と招待客にサーブしました。また、酒樽を割ってマス酒を振る舞うなど、今のニューヨーカーが求める日本を見せていました。 パーティーでも商品が買えるようになっており、超満員の招待客らは、おみやげの木箱入りカシミヤ・スカーフを手に、もう一度ゆっくり来店したいと満足して帰って行ったようです。 このオープニングに費やした費用は莫大で、翌日10日のストアー開店日にはマイケル・ブルーンバーグ・ニューヨーク市長がテープを切るという力の入れよう。NY市の経済活性化を期待しての応援のようです。 このスペースはSOHOの中で2番目に大きく、白が基調の3階建てで明るい雰囲気。通りを歩いているとガラス越しに、キチンとたたまれた色の揃ったカシミヤ・セーターが、カラー・グラディエーションのごとく見えて、つい吸い込まれそうな雰囲気です。 クリエイティブ・ディレクターは佐藤可士和、インテリア・デザイナーは片山正通、アートディレクターはNYのマーカス・キールステン、インターフェースを中村勇吾等が担当しました。日本のユニクロとは違ったスタイリッシュな新しいブランド・イメージを作り上げようという意気込みが感じられます。 昨年12月のBroadwayは、暖冬のせいか買い物客でごったかえし、歩道にも溢れるほどで、ユニクロの真っ赤なロゴ入りショッピング・バッグを持った人達が沢山目に付きました。 日本からのNY訪問者の中には、日本では見ることができない日本語のユニクロのロゴを珍しがり写真を撮っている人もいました。不思議な現象ですが、よく外国人が、日本語の入ったものを買おうとしても、そのようなものがあまりないと言ってましたが、ユニクロのロゴはNYで見れるというわけです。 米国には、ユニクロSOHO店の他に3つの店舗と2つのTemporaryストアーがあります。一つはEdison、ニュージャージー(NJ)のMenlo Park MallのUNIQLO、Rockaway、NJ のRockaway TownsquareのUNIQLO、Freehold、NJのFreehold Raceway MallのUNIQLO、そして、ロックフェラーセンター・プラザ内のTemporaryストアーとアップタウン・ウエストサイドの79/80丁目BroadwayのTemporaryストアーを展開しています。 ユニクロSOHOでうたっている「現代の日本」「機能美」「ベーシックを売る」そして、「ニューヨークでグローバルな最高級品を手頃な価格で」の一番の売れ筋は、モンゴル産のカシミヤを100パーセント使用したカシミヤセーターだそうです。次がSOHO店だけのオリジナル、「今の東京」と題してアーティストに依頼して作ったTシャツだそうです。 現代の日本の小売文化であるユニークな接待等の快い経験を、どこまで顧客に提供出来るか、これから、アメリカの従業員達に対する教育が鍵だと思いました。あちこちで不器用そうにみえる従業員が、買い物客が乱雑にした商品を、片端から教え込まれた、たたみ方で丁寧にそろえていくのを見ると嬉しくなり、良い習慣はどんどん世界中に広めてほしいと思いました。 日本での安いというイメージとは違い、今の日本ブランドを目指しているようで、ニューヨーカーの求めるお洒落で、気安く、思ったより手頃な価格が受けそうです。お隣のブロックにはBloomingdale、斜め前にはOld Navyのある競争のはげしいファッション発信地、この新鮮な日本のアパレルUNIQLOのこれからが期待されます。 Longchamp ロンシャン・フラッグシップストア ロンシャン・ストアー132 Spring St GreeneとWoosterの間、SOHOに、時間をかけた内装で昨年5月にオープンしたのがパリの高級バッグ・アクセサリーで有名なロンシャン・ストアーです。 あまり大きくありませんが、3階建て全てを使ったこのビルがフラッグシップ・ロンシャン・ストアーです。 この思い切ったフォルムで話題になり、あらゆる雑誌、機内誌で取り上げられ、昨年中、話題になっていました。 階段のベ二ヤと金属のつなぎ、階段に必要な手すりを透明で布が垂れ下がったような形で表しているPET樹脂ガラスなど、技術的にも大変な作業で、内装工事に1年以上かかってしまったそうです。 最近の話題はJeremy Scottデザインの腕にかけるお洒落な新製品ハンドバッグで、これをモデルのKate Mossをつかってキャンペーンしています。 ハンドバッグよりもインテリアを観に立ち寄る人も多いのに、店員の気持ちよい対応はお店の品格を表しているようです。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第81回 Wearing PROPAGANDA(ウエアリング・プロパガンダ)展

Wearing PROPAGANDA展 第2次世界大戦当時、身にまとうプロパガンダとしてデザインされたテキスタイルを展示するWearing PROPAGANDA(ウエアリング・プロパガンダ)展が、11月18日~2006年2月5日まで、The Bard Graduate CenterのGallery(18 West 86丁目 NY市)で開催されています。 日本、英国、米国から集められた、1931年から1945年の間にプロパガンダとしての役割を果たした衣服、スカーフ、アクセサリー130点が展示されています。 その頃の染色技術を駆使し、時代を反映したモチーフで、克明に描写されています。絽(ろ)の着物から織物まで、絹、木綿、ウール、麻などの素材になされた印刷は、シルク・スクリーンなのか写真プリントの手法も進んでいたようです。よく探し出したものだと思われる展示作品が多く見られました。 特に日本の着物の点数が多く、子供用の着物に描かれたその時代の子供の様子や、「兵隊さんありがとう」と右から書かれた文字や、男物の羽織りの裏の絵柄にも飛行機、国旗、軍隊の様子などが大胆に描かれ、歴史を垣間見る絵図が生活の中にあった事が伺えます。それに対し英国、米国の展示作品は、スカーフなど女性が着用するものに兵士の帽子やメッセージなどがデザインされているのが多く見られ、日本の子供用の着物に見られる軍隊のイメージは、文化の違いかインパクトを与えています。 展示品は日本から収集したものも多数 NYで骨董屋を経営し、プロパガンダの羽織りを身にまとった友人の宮本さんと、オープニング・パーティーに出席しました。すると、宮本さんの羽織りと同じ柄の布地が展示されており、彼女の羽織を目にしたキューレーターのジャクリーン・アトキンさんは、「本物の羽織りを探していた」と大喜びしていました。 ジャクリーン・アトキンさんはコロンビア大学で教鞭をとっている関係から、日本人生徒に協力を求め日本中あちこち捜しまわり、コレクションするのを手伝ったそうです。日本和装飾会会長の市田ひろみさん他、この展示会に貸し出した方達も、はるばる日本から出席されていました。 もし、この展覧会を日本が主催で企画すると問題になりそうなテーマですが、ジャクリーン・アトキンさんは2000年から展覧会を企画しコレクションを収集し始めましたが、米国で同時多発テロが起こった為に自粛し、開催が今に至ったとおっしゃっていました。 テンポラリーストアー (ソーホーに流行りはじめた期間限定ストアー) 毎年暮れになるとクリスマス・セールの臨時ストアーや在庫セールが出現しますが、今年はこれらとはひと味違う、本格的な店構えのおしゃれなテンポラリーストアーがいくつも出現し、目をひきました。 まず日本ではお馴染みのUNIQLOが、SOHOのど真ん中、GreenストリートのPrinceとSpringストリートの間に11月12日から来年1月末までという限定で店を構え、週末には満員になる人気振りで、SOHOをUNIQLOのショッピング・バッグをもって歩く人が目立ちました。 Wooster通りにはKODAKのOne Galleryが11月1日から27日の間オープンしていました。Galleryの会期中、広い会場内では、KODAKのフォトグラファー、Frederic LaGrangeの作品が展示されていた他、個人の持参したデジタル・カメラのメモリーカードやCDを入れるだけで、写真10枚まで無料でプリントしてくれるサービスやテクノ・ワークショップなど、毎日プログラムが組まれていました。 illy、TASCHEN、WIRESマガジンのショップ West BroadwayのBroomとSpringストリートの間にいつの間にかオープンしていたコーヒーのilly。てっきりお店を構えたのだと思っていましたが、9月15日から12月15日までの限定ストアーでした。入るとすぐ目につくシャンデリアは、デザイナーによるオリジナルコーヒーカップのコレクションで作られたものです。 UNIQLOの斜前にはアート系の出版で最近人気のTASCHENが、12月31日までテンポラリー本屋さんを開いています。TASCHENはこれまでNYに店を構えておらず、この場所を改築して春頃には本格的に開店するそうですが、その前の小手調べでしょうか、華やかなイラストで目立つストアーです。 その先GreeneストリートとHoustonストリートの角にはWIRESマガジンが、Wired Storeを11月18日から12月24日まで開いています。スニーカーからフラット・スクリーン、車まで、エレクトリック・エイジのWiredマガジン・ファンが喜びそうな商品を、カラフルな内装で展示販売しています。 TASCHENブックストアー(写真40~45)とWiredストアー(写真46~53) テントのショップUnion Squre Holiday Market 他にも取材しなかったいくつかのテンポラリー・ストアーがあり、今までになかったこの現象が流行りそうな気配を感じます。 今まで不動産屋は短く貸すのを嫌っていましたが、なかなか借り手のないスペースは長いリースの契約が決まるまで1~2ヶ月かかるので貸す事にしたり、ショップを開こうとする側も、本格的に店開きをする前に、多少高くついても、土地勘のマーケット・リサーチを兼ねてショートタイムで試してみたり在庫整理をしたりと、お互いに都合が良いのでは、と思われます。 こちらは毎年恒例の、テントのショップUnion Squre Holiday Marketが、14丁目Union Squreの地下鉄出入り口を囲むように設営されています。主にハンドメイドの商品のブースが多く、クリスマス前日までオープンします。同じエージェントによる、テントのホリデー・マーケットがコロンバス・サークルでも催されていますし、こちらも恒例の、グランド・セントラル駅内のホリデー・マーケットも、NYの慌ただしい年の瀬を感じさせる、風物詩です。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第69回 チョコレート・ショー

チョコレート・ショー ニューヨークで7回目になるチョコレート・ショーが11月11日~14日の期間、18丁目のメトロポリタン・パビリオンで開催されました。開催前日の10日は、DIFF(Design Industries Foundation Fighting AIDS)の為のギャラ・パーティーで2回目となるチョコレート・ファション・ショーが行われ、メディアを交えて超満員の人気振りでした。 ショーには、現在ニューヨークで話題のレストラン、NOBU, Payard, Brasserie 他のデザート部が多数出展しました。観客は味見をすることができ、ショーの前の盛り上がりも加わって、ファション・ショーに期待が膨らみます。 名店のチョコレートで制作された服やアクセサリー ファション・ショーは名店のチョコレートによって作られた服やアクセサリーを身につけたモデルがステージを歩き、最後はそれぞれのシェフやオーナー・デザイナーとのコンビで、舞台に上がるという、通常とはひと味違うものでした。11日の一般公開では、ファション・ショーで使用された品々が展示され、チョコレート・ムースをもじった大鹿の角も、近くで見ると本当にチョコレートだったので驚きました。 日本から出展した 「メリーチョコレート・カンパニー」が大人気 一般公開は入場料20ドルにもかかわらず、入場を待つ人が2ブロックをまたがる行列を作るほどで、その状態が夕方まで続く人気振り。連日、著名シェフのデザート講座やデモンストレーションが行われました。 私がのぞいた時間帯はちょうど、チョコレートのナンバーワン・シェフであるジャッキー・トレスがデモンストレーションを行っており、観客で満員でした。中は著名チョコレート店がブースを出していて、味見、サンプルの陳列、ギフト・パックが買えるようになっているのですが、どこも観客で満員。 中でも注目を集めていたのが日本から出展した、メリーチョコレート・カンパニー(本社東京都、原邦生社長)で、日本的センスを取り入れたフージョン・チョコレート。抹茶、胡麻、きな粉、梅酒などを使い、四季の花を和菓子風に描いたりと、他にはないセンスで飛ぶように売れ、サンプル・ケースが空っぽになっていました。 世界中で人気のチョコレート、 2006年には中国でショーを開催予定 メリーチョコレート・カンパニーの原ご夫妻にお話を伺ったところ、同社は1950年戦後まもなく、典型的なアメリカの女の子の名前を使い「Mary’s」と名づけて先代が設立し、またたく間に日本全国870店舗に展開。日本で最初のチョコレートの店として発展しました。2000年には海外ショーへの出展を期に、フージョン・チョコレートを作り始めたそうです。四季の花をあしらったチョコレートで、2002年のサロン・ド・チョコレート・パリスのグランド・プライズを受賞しています。こちらはメリーチョコレートでなくマダム節子の名で、だしているそうです。 このショーは、欧州では10回目、ニューヨークでは毎年感謝祭前の慣例のイベントとして今年で7回目を迎えます。来年1月にはサロン・ド・チョコレートも開催され、2006年には中国で初のチョコレート・ショーも行われる予定との事です。 この行列と人気のほどに、海外でのチョコレートの人気に改めて感心しました。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第55回 マリメッコ展

第55回:  Marimekko マリメッコ展 (2003/12/10)   左:Marimekko創立者Armi Ratia スモックのパターンはTiiliskuvu 1952 右:夫のViljo Ratia 1950年代に発表されたMarimekko作品を説明 する今展覧会のキューレーター Marianne Aav マリメッコの歴史を総合的に紹介 「Marimekko:Fabrics, Fashion, Architecture」と題して、マリメッコの歴史を総合的に紹介する展覧会が、2003年11月21日から2004年2月15日まで、NYの18West 86StreetにあるBGC(The Bard Graduate Center)で催されています。 マリメッコ社は、20世紀のデザイン界に新風を起こしました。大胆なカラー、大柄のオリジナル・プリント・テキスタイルが特徴ですが、それを一貫したビジョンのあるコンセプトで、ライフスタイル全般に取込んだ最も成功したデザイン企業として、今でも多くのファンを持ち続けています。 私が最初に海外旅行に行った1964年に、NYのDesign Reserchで最もHotだったマリメッコの商品に出会い、いくつも日本に買って帰り、皆にそのすばらしさをお土産話にしました。その頃、日本で唯一のデザイン誌だった「ジャパン・インテリア」(森山和彦氏編集)でも、特集が組まれて何度か紹介されました。その後、何人ものデザイナーがマリメッコ社を訪ねて行ったりと、当時のデザイナーのあこがれだったのを覚えています。 そして、当時の日本ではインテリアというカタカナがめずらしく、染織といえば着物か傘、コタツふとんくらいしかない時代でしたから、ライフスタイルというコンセプトで、マーケティングまで考えるこのような企業の存在自体が、新しくテキスタイルやデザインを志す人達に夢と希望を与えてくれたような気がします。 そんな時代、どっぷりとデザインに浸っていた私にとって、今回のマリメッコの歴史展は、懐かしさと思い出が蘇る特別興味のある展覧会でした。 手前 Design by Maija Isola 1950 左:ブラウス Design by Riitta Immonen, 1950 右:Maija Isola, 1940 Vuokko Nurmesniem 1957の布デザイン Design by Vuokko Nurmesniemi 1953, 1956 デザイナーVuokko Nurmesniemiとその背後は彼女の作品 … 1階展示風景・デザイナー Vuokko Nurmesniemi コーナー —–  * 以上、写真は1階会場 1950年代の展示     |     ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影 —–   デザイナーAnnika Rimalaと右はその御主人