第54回:  メトロポリタン美術館の「織部 ― 転換期の日本美術」展 (2003/11/12)


 

桃山時代の伊賀焼きで直接古田織部と関わ
って残っているものの代表作「破れ袋」

梶原拓 岐阜県知事

メトロポリタン美術館の「織部 ― 転換期の日本美術」展は、
本物志向の内容で構成

ニューヨーク市のメトロポリタン美術館で「織部 ― 転換期の日本美術」展が始まりました(2003年10月21日から2004年1月11日まで)。岐阜県美術館と共同企画で、5年の歳月を経て実現されたこの展覧会は、桃山時代の茶人、古田織部(1544-1615年)が、サイズ、形式などにこだわっていたそれまでの茶道、茶器に、ひと味違う新しいスタイル、革命を起こした部分に焦点をしぼって、注意深く構成されています。

Museum企画のシンポジウムでは東京芸術大学美術館館長の竹内順一氏、東京国立博物館陶磁器担当の伊藤嘉章氏、インディアナ大学名誉教授のJ.エリソナス氏、共立女子大学教授の長崎巌氏、国立民族学博物館教授の熊倉功夫氏、大阪大学教授の奥平俊六氏等が出席し、マイケル・カニングハム氏の司会で開催されました。
「茶道具とは」「織部焼の技術と意匠」「南蛮人の文化遺産」「織部焼の文様と辻が花の関連」「茶道史における古田織部の位置」「路上の歌舞伎もの」といったテーマのもと、専門家の分析や織部に関する分かりやすいレクチャーがありました。メトロポリタン美術館の講堂(オーディトリウム)は、ほとんど満員で(日本人以外の人で)した。
観客はみな本物・プロ志向の熱心な人たちで、すばらしいシンポジウムでした。それだけに、現在どれほどの日本人が織部についての知識を持ち、彼の茶道を理解しているのか、と心配になるくらいでした。

わび茶を大成した利休の茶碗

利休の後継者のひとり、織部の茶碗

オープン前日、メトロポリタン美術館でのパーティー

デンドゥール神殿で開かれた大掛かりなオープ
ニングレセプションの準備風景。吉野の茶会を
イメージしたセットでの記念茶会(NY 裏千家)

26日にメトロポリタン美術館で行われた織部シン
ポジウム  /
左から:東京国立博物館陶磁器担当の
伊藤嘉章氏、大阪大学教授の奥平俊六氏、国立民族
学博物館教授の熊倉功夫氏、共立女子大学教授の
長崎巌氏、東京芸術大学美術館館長の竹内順一氏、
右端はインディアナ大学名誉教授のJ.エリソナス氏


※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

 

NY裏千家のお点前で知事が一服、前夜祭パーティーで

Japan Societyでの内田繁のお茶会も好評


Japan Societyを借りてのお茶会は、岐阜から各派の茶道関係者が100人近く訪れて大盛況だったようですが、内田繁の茶室の中で実際にお茶会を体験でき、初めてのJapan Society メンバーの人にはなかなか好評だったようです。

内田繁の茶室

メトロポリタン美術館のオープニングでも太鼓、
書道を披露した、無形文化財保持者、大倉正之助
(左)と書道家 矢萩春恵(右)中央は内田繁

滝村弘美(漆塗職人)の作品

岐阜の陶芸家、吉田喜彦の作品

 

グランドセントラル駅構内では「クラフト展・観光展」が開催

メトロポリタン美術館での織部文化のサポートはすばらしかったのですが、岐阜県はこの他にも「織部の精神を世界に発進」と、文化観光イベントを立ち上げました。
「オリベ2003 in NY」事業の「クラフト展・観光展」は、10月28日から11月2日までグランドセントラル駅構内のバンダービルトホールで行われ、飛騨高山の木工、美濃陶磁器、美濃和紙他、岐阜県の広報と愛知万博の広報をしていました。しかし、織部的という解釈の勘違い(?)パフォーマンスなども披露しており、大変な労力とお金を使ったようですが、NYにいるプロの協力をどうして得られなかったのか、不思議でした。
岐阜のクラフトでは、世界中に広まっている関の刃物やハサミは出品されていませんでしたし、今迄に何年もかけて国際コンペを実施した成果や、NYのデザイナーが岐阜に住み込み地場と協同で開発したすばらしいプロダクトが、すでにMoMAや他のミュージアム・ショップで紹介されている、といった国際的な動きは展示していませんでした。
こうした展開があれば、NYで知名度のあるデザイナーのPR力で、今回得られなかった現地メディアのパブリシティー他、地元のアドバイスも得られたのではないかと思いました。

行政や大企業のNY駐在を2~3年ずつ入れ替える勤務体制、「世界に発進」と言いながら日本に向けてだけの運営姿勢など、いつまでたっても60年代、70年代と変わらない思考では、アジア各国のインターナショナルなビジネスマインドに負けてしまうのではないかと案じます。
何でも自由に受け入れるNYの寛容さには、個々が批評家であるという厳しく真剣なビジネスマインドがバックグランドにあります。これらをきちんと受け止めずにお金を使っただけであっては、日本向けの成功物語にしかならないのではないか、と心配にもなります。
旧来の考え方を打ち破った、織部の精神に立ち戻ることも必要なのではないでしょうか。

 

 

Museum of Art & Designのギャラ・パーティー


 

MADのロゴ

Museum of Art & Design 慣例のギャラ・パーティー


NYの10月は各美術館、非営利団体による助成金集めのギャラパーティーが数多く開催されます。400ドルから1,000ドルという招待状がいくつも郵送され、メトロポリタン美術館等では月に3回位こういったイベントをしています。

その中で、10月28日ヒルトンホテルで行われたMuseum of Art & Design慣例のBenefit Gala Partyに出席しました。毎年デザイン関係貢献者をVisionarieとして授賞しているもので、今年のAward 3人はPaul R.Charron、Ruth Duckworth、Michael Graves でした。今年は750人もの人が参加という記録を作りましたが、知名度のあるVisionarie受賞者の関係者が多く、企業によるテーブルごとのリザーブが多かったらしいことと、MADが企画しているコレクターサークルのツアーの計画をあわせたことによる、参加者があったのも成功したようです。Museumの移転先の工事も始まるので、皆のサポートも身が入っているのだと思います。

不景気といわれながら、この日の催しはドネーションの品がオークションで2万ドル以上まで値をつけての落札。ディナーカクテルのチケットも最低500ドルなのに超満員で、ディナーの後には皆ダンスを楽しんでいました。
2、3年前、このパーティーにNYでの今後の為にと岐阜のクラフト産地の代表者達が慣れないブラックタイで出席したことを思い出し、日本文化をこれらの人達に見て欲しいものだという思いがしました。

 

Halloweenパレード


撮影:チト

Halloweenパレード

毎年10月の最後の日、31日に行われる慣例のハローインパレード。今年は金曜日だったのと暖かい気候に恵まれ、心から楽しむ人達であふれるおだやかなパレードでした。
Gallery 91のスタッフも毎年、メイキャップして参加しています。

 

 

                                                                                                                                                                                                      ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影