2010年5月14日から2011年1月9日の期間、クーパー・ヒューイット・ナショナル・デザイン美術館にて、「Why Design Now?」と題した「ナショナル・デザイン・トリエンナーレ」シリーズの第4回目が開催されています。展示作品は、人類と環境との問題を掲げるデザイナーらによるもので、分野は、建築、工業デザイン、ファッション、グラフィック、ニューメデイア、そしてランドスケープなど多岐に渡ります。

クーパー・ヒューイットのキューレーターたちによって企画されたこのトリエンナーレは、世界の問題を解決するために、国際的な協力の必要性、そのデザインとのつながりの反映を、初めてグローバルな域へと到達させたものとなっています。

 

この展示会のタイトル「Why Design Now? - なぜ今デザイン?」は、
「なぜ、今日の最も差迫った問題を解決するのに、デザインを考えることが必要不可欠なのか」、「何が、クリエイティブな思考家、創作家、問題解決者らをこの重要な発見の道へと駆り立てるのか」、そして、「なぜ、ビジネスリーダー、ポリシーメーカー、消費者そして市民がデザインの価値を認識するべきなのか」を探る問いかけなのです。

デザインにみられる主な発展を、次の8つのテーマに分けて紹介しています。
「エネルギー」「モビリティ」「コミュニティー」「素材」「繁栄」「健康」「コミュニケーション」「簡素性」

 

2000年に始まったこのトリエンナーレは、画期的で、前進的な思考のデザインを求めています。今回は、44カ国から134のプロジェクトが展示されています。実行委員のチームは、デザイナーやデザインオフィスを合意の元に選んだり、“Trove wallpapers and Etsy”の例のように、専用のウェブサイトを通じて一般から選んだりしています。

 

展示会では、iPodタッチを無料で借り、デザイナーのインタビューやビデオ記録、解説などを楽しむことができます。早速、試してみましたが、新しい試みの機械による問題は免れないようで、使い手の戸惑いと機械の故障はつきものということのようです。

 

【 1 】 Cooper Hewit 外観

【 2 】 Cooper Hewit 外観のグラプィック(写真2~5)

【 3 】

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【 5 】

 

【 6 】 Reception Party会場(館内屋外庭園)(写真6、7) 【 7 】
【 8 】 Simplicity コーナーの展示風景 【9】 「NENDO」佐藤大のCabbage Chair 右側のロールが開かれる前。 【 10 】 有機栽培綿と水性無害にインクでプリントされたスカーフ。エコロジーコンセプトの作品。 【 11】Reception Partyで談笑するデザイナー, Stephano Diaz
【 12 】 絹(Row SilkトKibiso)と綿でできたテキスタイル作品。「NUNO」 【 13】 Solpix 会場内で目を引く大型LEDの作品。(写真13~15) 【 14 】 【 15 】
先にあげた8つのテーマは、以下のように定義されています。

エネルギー
世界中で、サイエンティスト、エンジニアやデザイナーが太陽、風、海潮からのエネルギーを利用する方法を、また無駄のない自給自足のエネルギーを使う新しいプロダクトや機能をつくる方法が求められています。このセクションでは“Z-20 concentrated solar-panel system” – 鏡とトラッキング装置を利用して集められた太陽エネルギーを強化するシステムや、“the bioWave” – 巨大な水中にある機械で、海藻の揺れる動きを真似し、海の乱気流の運動エネルギーを捉えるためにデザインされたもの、“the Power Aware cord” – 消費者へ実際に彼等のエネルギーの消費量をビジュアル化してみせるシステム、そして、アラブ首長国連邦にある試験的な砂漠都市、“Masdar” – 最も広大で、先進なカーボンニュートラル(炭素中立)のコミュニティーなどが展示されています。

モビリティー(機動性)
人々は街や大陸を自由に旅行しますが、資源の節約は新しいデザイン対策とモビリティーのパターンと要素の施策を必要とします。
展示されている作品は、“Coulomb Technologies’ ChargePoint” – エネルギー盤に接続していて、公共やプライベートの場に設置されている車両充電ステーションのネットワーク。“MIT’s CityCar” – 都市の輸送形態として、折畳み自転車や自転車トレーラーなど。“AGV high-speed self propelled train” – フランスで最近デザインされた、高速セルフ・プロペラ・トレイン等。

コミュニティー
開発国で絶えず拡大しているスプロール現象と都市密度に対して、建築家は屋上ビレッジや、都市農場、多種目的住宅などを、地元の素材を使い、調和を大事にする、効率的なエネルギーの生活をつくり出しています。展示にみられるハイライトとしては、オランダの“H20tel” – 初の、水素パワーのホテル。オスローからは、初めて住民がウォーターフロントへアクセスできる、環境に優しいオペラハウス。“Eco-Laboratory” – 垂直型農園など。

素材
製造で消費されるエネルギーや化石燃料の量が削減される、より持続可能な素材のニーズを呼びかけるのに、偉大な努力がこの過去10年の間になされてきました。化学者、エンジニアやデザイナーは、生分解性の物質、石油を使わないプラスチックから、キノコのように、暗がりで成長し、生産するのに最小のエネルギーしか要しない発泡断熱まで、ありとあらゆるものを発明しています。またプロダクトは、“IceStone” のカラフルで強度のある、100%リサイクルされたガラスを含む、成形前のコンクリートの鋳片から、ファッションデザイナーの Martin Margiela による、使用済みの物を先端の衣服へと再利用するアイテムまで、脱工業、廃品がリサイクルされたものでつくられています。 【 写真 35、36 】

また新しい情報システムとして、“Ecolect’s Product Nutrition Label(製品に貼られる栄養成分表ラベル)”は、簡素な生物学的な情報、例えば、廃棄物から再利用された素材や、非中毒性の物質であること、または素早く再生産できる農産品であることなどの情報を消費者に分かりやすく提供するプロダクトです。

 

【 16 】 Movilityコーナーの展示風景。(写真16、17)

 

【 17 】

 

【 18 】 Energy cornerのソーラーパワーシステム Z-10。

 

【 19 】 太陽光蓄電ランタン。

 

【 20 】 試作品のSunShade。 【 21 】 試作品のMahangu [pearl millet] thresher。 【 22 】 コミュニケーション・コーナーGreen Graphic展示会場。 【 23】 Green Patriot Posters. 環境破壊に立ち向かう兵士の画像のキャッチコピー。
【 24】 Green Map System. ”緑”を見つける事が出来る地図。20年位前からよびかけて、現在は世界中のGreen Mapが出きつつある。 【 25 】 Green Map創立者でデザイナーのWendy Brawer右と中央メトポリス誌編集長のSusan Szenasy。 【 26 】 組み立て式信号機と二分の一スケールの試作品MIT City Car。 【 27 】 The Bleached Reef. 手芸素材(フェルト、ビーズ、毛糸等)編んだ珊瑚の模型。デティールやテクスチャーを、素材を生かし上手く表現している。また、環境コンセプトの作品。(写真27、28) 【 28 】
繁栄
積極的なデザイナーや企業家は、地元のコミュニティーが彼ら自身の資源を使用し、彼ら自身を繁栄させることで、グローバルな経済にも協力していくという源を築いています。プロジェクトのなかには、いくつもの基本的な必需品がみられます。例えば、インドの脱穀機や煙の少ないストーブの開発、“Alabama Chanin”による、ハンドメイドや限定数の衣服などの、スローデザインの例、そして Artecnica 製造の、“Wiches’ Kitchen Collection:Design with a Conscience” シリーズのように、国際的デザイナーと地元の職人が一緒になって制作する作品など。健康
人の心によってコントロールされる義手、義足の製作から、人里離れた地方の人々にヘルスケアーを届けるための新しい方法の考案まで、デザイナーは身体的、精神的、そして社会的における健全を、全ての人のために改善しています。このプロジェクトのなかでも重要なのはこれらです。“Solvatten Safe Water System” – 紫外線ライトを使って飲用水にするシステム。購入しやすい価格の視力矯正眼鏡は、厚いガラスのレンズに違う量の液体を注入することによって、自動的に調節できます。車の部品からできた低価格の新生児保育器。コンドーム・アプリケーター。また“Zon Hearing Aid”は耳の後ろにつけていても、ほとんど見えない補聴器です。コミュニケーション
スマートな携帯、電子読書器、そしてソーシャルネットワークは、人々の情報の使用の仕方、生産の仕方を変えています。デザイナーは、世界で起こっている問題を、複雑なデータをビジュアル化し、また安全性、平等性、そして環境についての差迫ったメッセージを提供することによって、人々の理解を促しています。工業デザイナーDavid Chavez のBrailleのためにデザインされた腕時計のプロトタイプや、Yves Behar によるデザインの“XOXO laptop”。これは本のように、平に置いたり、曲げられたりする子供向けラップトップです。Amazon の“kindle” は新しい読書方を経験させてくれます。“Etsy” は職人、アーティスト、デザインアーのためのグローバルなオンライン市場です。そして“Eton FR 600 radio” は、いつでもどこでも、手動または、太陽熱によって充電できる非常用のラジオです。簡素性
デザイナーが製作過程の単純化に努め、より少ない素材をより少量に使うにつれ、簡素であることの探求はデザインの経済と道徳的価値を型づくっています。板茂の“10-Unit system” は単純なL字型の構成物が、テーブルにもなり、椅子やベンチにもなる、というデザインです。Karin Eriksson の“Gripp glasses” は器を楽に握り、しっかりと持てるようになっています。“eco-casket” エコ棺桶。MUJIの “affordable products”。そして高さの調節可能な“AlphaBeter”学生机は、作業中の学生が座ることも立つ事もできます。
【 写真 52、53 】
 

 

【 29 】 Island Seat and Cloud Light. 雲と島に見立てた照明と椅子。(写真29、30)

 

【 30 】

 

【 31 】 次世代の環境に良い素材の展示風景。

 

【 32 】 環境に有効な素材に関する、初めての情報集であるGreen Box。 製品の技術的な素材の情報や、成分情報、環境への影響等が記載されていて、オンラインで無料で閲覧が可能。 【 33】 Furumaiというタイトルの、水を玉の様にはじく加工を施された特殊な紙の素材。観客が製品の試走をする事ができる、インターアクティブな展示。
>リンク参照
【 34】 Maison Martin Mangela の前衛的素材の環境コンセプト作品。靴ひものドレスと、製品タグをとめるプラスチックの部品を皮のジャケットにファーの様に大量に取り付けた作品。 36-どこにでも自由に、迅速にプラスターレンガで、組み立てて行く事が出来る骨組みの作品。 37-モーターで円柱型から球に常時変形するグラスファイバーの照明作品。(写真34、35) 【 35 】 【 36 】 どこにでも自由に、迅速にプラスターレンガで、組み立てて行く事が出来る骨組みの作品。
【 37 】 モーターで円柱型から球に常時変形するグラスファイバーの照明作品。 【 38】>リンク参照 【 39】 「WASARA」日本からの 葦、竹、バガス.パルプで作られたフォルムの美しいデザインの使い捨ての食器。 【 40 】 壁の大きさに合わせて注文する事が出来る壁紙と、土に還りやすい構造の棺。
 

■ 展示デザインについて
展示は Tsang Seymour Design によるデザインで、エコで安全な素材、型の構成、簡潔は組立法を特徴としています。その設置は、出来るだけ無駄をなくす、素材はリサイクルされたものや、製造過程や輸送過程において、低公害で、リサイクルできるもの、ということに強く意識してデザインされているそうです。展示会の家具は、Medite FR という100パーセント脱工業のリサイクル木材をでつくられ、zero-VOCという臭いを最小限まで押さえたペイントで仕上げられています。また展示場のエリアは FLOR Fefora のカーペットタイルで区別されていますが、このカーペットは80パーセント廃品の繊維で製造され、FLOR によってすべてリサイクルされるものを使用しています。美術館の展示によく見られる、フォームボードに貼られた典型的なグラフィックの、大きなサイズの枝写真は、Ultra Tex Organic U230 という繊維に印刷されていて、この展示が他へ移る際には、この軽量バーナーは丸められ、輸送されます。作品のラベルは Ply-Corr という100パーセントリサイクル、50パーセント廃品の素材からできているカードボードに印刷されています。■ カタログデザインについて
この展示会のテーマ、”サステナビリティ”に合わせて、このカタログは凸版印刷会社の、Forest Stewardship Council より認定され、最もサステナビリティな世界の会社100の中に選ばれた唯一のプリンターで印刷されています。またこの FSC 認定の森林のサステナビリティを管理した木でつくられた紙を使用し、インクは本来のオイルベースのインクではなく、環境により優しい大豆でつくられたインクが使われています。このカタログ製作は非炭素で、100%リサイクルできるものに仕上がっています。今回の大変有意義なテーマのトリエンナーレ、プレス・リリースは優等生的な書き方でまとめられていて、実際の展覧会で説明をはしょったり、無意識に見ていると見落としがちですが、中身の濃い内容のある展覧会だと感心させられました。

 

【 41 】 柄の部分についた注射器で、レンズ内の圧力を上昇させ眼鏡の度を自分で調節出来る製品と、小型でデザインとしても優れた補聴器、医療現場で使われているコードをまとめるもの。(写真41~43)

【 42 】

【 43 】

【 44】 Health コーナーの展示風景。青いのが対地雷防護服。(写真44、45) 【 45 】 【 46】 Honda製の、体重を支えられない人の歩行のサポートをする為の製品。 【 47 】 点字加工付きのポスター。 【 48】 Communityコーナーの展示風景。建築、都市計画デザインの展示風景。 【 49 】 The Vertical Village, 台北台湾の建築模型。それぞれの建物が積み木の様に積まれ、一つの集落を形成しているデザイン。(写真49、50)
【 50 】 【 51 】 New Carver Apartments の模型。(Los Angeles)内側が大きく吹き抜けになっている。(写真51、52) 【 52 】 【 53 】Communityコーナーのグラフィックの展示、壁紙は人の顔で作ったデザイン日本の作家

>リンク参照

【 54】 MUJI“affordable products” 【 55 】 板茂“10-Unit system”