1980年代、老朽化していたニューヨークの地下鉄を再生させるため、MTA(The Metropolitan Transportation Authority)が設備改良プログラムを開始。その一環として、地下鉄や駅にアートを持ち込むプロジェクトが作られました。

MTAのリーダーは、建設プロセスの一部に、アートが魅力的なリハビリテーションになると提案。ニューヨーク市民のリーダーとプロの芸術家が同意し、「パーセント・フォー・アート条例(※1)」と同様の制度を導入しました。それによって、いろいろな委員会より彼らの名声と支持を得る事になり、歴史的な保存と一般の芸術運動が公共政策に影響し始めました。そして、ニューヨーク市が専用のプログラムを作り、地下鉄アートのプログラムを設立。様々な技術の改造と共に、交通機関や多くの駅が修復され、駅にアートを増やしていくことにつながっていきました。作品は、地下鉄システムの中で簡単に維持できる耐久性のある材料を必要とし、セラミックタイル、モザイク、銅、ガラス等でつくられています。駅内の要素をデザインし、物理的な修復と注目に重要な役割を演じます。また、アートワークだけでなく、ゲートや地下鉄の車両、チケット販売機などのデザインも含まれています。

プログラムは創設者の信条に忠実に実施されており、地下鉄は快適な環境、ユーザー向けの設計、材料は最高レベルである事などが原則になっているそうです。100年以上前に始められたプログラムの高い基準が支持され、現在でもそれに従い作品が選ばれています。

アーティストの選出は、「Calls For Artists」を出しアーティストを勧誘し、5人のパネリストから成る選考委員による投票で行います。議決権を持つパネリストは、近隣の博物館と文化的な機関の代表者が2人、アーティストが1人、Transit代表のためのアートとプロジェクトの建築家です。作品設置駅の市民代表は、顧問として招待されます。
アーティストから提出された資料を基に議論を重ね、最終候補者を選出。最終的な提案を概説し、アーティストを選出します。委任するまでにパネルは2回行われるそうです。

毎日何気なく行き来している地下鉄ですが、意識して見渡すと本当に沢山のアートで溢れおり、その質の高さはミュージアム・レベルです。しかも、美術館やオークションに出てくるような有名なアーティストの作品もあり、さすが国際都市ニューヨーク、と感心してしまいます。

MTAのアートが関わっているのは、地下鉄、ロングアイランド鉄道、メトロノース鉄道、道路、橋梁などです。NYの地下鉄は、1、2、3、4、5、6、7、A、B、C、D、E、F、G、J、L、M、N、Q、R、S、Z線と、番号とアルファベットで呼ばれます。 それらに名前をつけ、「レキシントン・アベニューライン」、「ブロードウェイ・ライン、「シックス・アベニューライン」、「エイス・アベニューライン」と呼んだり、地図上の色名で呼んだりと、人によってまちまちですが、日本よりは分かりやすいと思います。乗車するには、プリペイド乗車券のメトロカードを購入します。何より料金がお得で、改札口を出ない限りどこまで乗っても料金は均一です。ただ、日本のような時間の正確さは保証されず、毎週末起こる路線の勝手な変更は(工事中等で)ほんとうに辟易します。その代わりにアートで楽しむ、という事なのかもしれません。

地下鉄L線は14丁目を横切ります。最近の新しい地下鉄のほとんどは、日本人デザイナー・宇田川信学氏がデザインしています。その内部と路線マップデザインがこちら。 【 写真 5 】

 

※1:パーセント・フォー・アート条例
公共事業の実施にさいし、建設工事費の1パーセント前後を美術作品のために費やすことを義務づけたもの。1959年にフィラデルフィア市が制定し、その後、全米に波及した。

 【 1 】 ユニクロ車両
UNIQLOのタイムズ・スクエアー店オープンを記念して、42丁目のシャトル・トレインがUNIQLOロゴで包まれました。MTAではアートを一緒にしたこのようなサービスも行っています。

【 2 】 ターゲット車両
1月に116th Streetイースト・ハーレムにオープンしたTargetストアーを記念して、ターゲット色でデザインされた6番線の全車両。広告料も弾んだようで、話題になっています。ラッキーだと、このような楽しい地下鉄にめぐりあえます。地下鉄110周年記念でいろいろなイベントも行われています。(写真2~4)

【 3 】

【 4 】

【 5 】 地下鉄L線。日本人デザイナー・宇田川信学デザインの地下鉄内部。

写真を見ながら、ダウンタウンからアップタウンに移動してみます。
まずは、ブロードウエイ・ラインと呼ばれるR、W、N、Q線のCanal St.(カナルストリート)鈍行と急行の乗り換え正面の館内。ビング・リー(Bing Lee)によるセラミック・タイルの紋柄のようなモザイク模様が展示されています。 【 写真 6~7 】
【 6 】 Canal St.(カナルストリート)R、W、N、Q線。 ビング・リー(Bing Lee)によるセラミック・タイルよる紋柄のようなモザイク模様。(写真2~3)Photo:from MTAart 【 7 】 Photo:from MTAart
同じCanal St.(カナルストリート)でも、A、C、E線8thアベニューラインの駅には、ウォルターマーティンとパロマムニョス(Walter Martin and Paloma Muñoz)による作品があります。いろいろなポーズをした174匹のカラスが、プラットホームを上がって改札の柵に群っている銅彫刻です。 【 写真 8~12 】
【 8 】 Canal St.(カナルストリート)A、C,E線。ウォルターマーティンとパロマムニョス(Walter Martin and Paloma Muñoz)による174匹のいろいろなポーズのカラスがプラットホムの外にあちこちにの群がるカラスの銅彫刻(写真8~12) 【 9 】 Photo:from MTAart 【 10 】 【 11 】 【 12 】
ブロードウエイ・ラインのPrince St(プリンスストリート)R、W線は、ジャネット・ツヴァイクとエドワード・デル・ロサリオ(Janet Zweig and Edward del Rosario)の作品。「運ぶ」というタイトルの、200ものミニチュア・フィギュア・シルエットです。NYの人は常に何かを運んでいるという、そして続けて行動をしている、というのを表現しているそうです。ウォータージェットカットした鋼や大理石で作られており、伝統と現代両方の精度をアレンジして実現した魅力的な作品です。地下鉄駅の壁に展示されています。 【 写真 13~20 】
【 13 】 Prince St(プリンスストリート)R、W線。 ジャネット・ツヴァイクとエドワードデルロサリオ(Janet Zweig and Edward del Rosario)の作品。200個の人物シルエットによる物語作業(写真9~16) 【 14 】 Photo:from MTAart 【 15 】 【 16 】
【 17 】 【 18 】 【 19 】 【 20 】
14ストリートの8アベニュー駅のあらゆるところに出現している楽しいミニ・ブロンズ彫刻作品“Life Underground”。トム・オッターネス(Tom Otterness)による駅の環境をひょうきんな彫刻達の楽しい雰囲気にするというコンセプト。チェルシーのMarlborough Galleryの著名彫刻家でパブリック・スペースで作品を良く見かけます。 【 写真 23~32 】
【 21 】 8ストリート駅 ティモシー・スネル(Timothy Snell)によるガラスのモザイク作品。8thストリート周辺の情景の史跡を表す40の『舷窓』描写している。題名“ブロードウェー日記”(写真21~22) 【 22 】
【 23 】 14ストリート8アベニュー駅のあらゆるところに出現している楽しいミニ・ブロンズ彫刻作品“Life Underground”。トム・オッターネス(Tom Otterness)による駅の環境をひょうきんな彫刻達の楽しい雰囲気にするというコンセプト。(写真23~32) 【 24 】 【 25 】 【 26 】
【 27】 【 28 】 【 29】 【 30】
【 31】 【 32 】
23ストリート駅には、ケイスゴダードの“Memories of Twenty-Third Street”という作品。帽子の時代と周辺のビジネス環境を象徴し、おしゃれなシンボルとしてとらえ、歴史を表現しています。 【 写真 33 】
【 33 】 23ストリート駅 ケイス・ゴダード(Keith Godard)の“Memories of Twenty-Third Street”という作品。帽子の時代と周辺のビジネス環境を象徴し、おしゃれなシンボルとしてとらえ、歴史を表現した作品。 Photo:from MTAart
28ストリート駅マーク・ハジペテラス(Mark Hadjipateras)によるモザイク作品“City Dwellers”。ファッション街を彷彿させるオブジェクトを、ロボットの形でキャラクター化し、楽し気で愛らしい雰囲気にして環境配慮をした作品。 【 写真 34~39 】

33ストリート駅ジェームス・ガーベイ(James Garvey)による“Lariat Seat Lops”。プラットホームの鉄骨に巻き付くフォルムに座る事も出来る機能的彫刻作品。人々の周期的日常にインスピレーションを与え、リフレッシュするというコンセプト。 【 写真 39~40 】

【 34 】 28ストリート駅 マーク・ハジペテラス(Mark Hadjipateras)によるモザイク作品“City Dwellers”。ファッション街を彷彿させるオブジェクトを、ロボットの形でキャラクター化し、楽し気で愛らしい雰囲気にした作品。(写真34~39) 【 35 】 【 36 】 【 37 】
【 38 】 【 39 】 33ストリート駅 ジェームス・ガーベイ(James Garvey)による“Lariat Seat Lops”。プラットホームの鉄骨に巻き付くフォルムの、座る事も出来る機能的彫刻作品。(写真39~40)
Photo:from MTAart
【 40 】 Photo:from MTAart
タイムズスクエア42ストリート駅 ニューヨーク生まれ、最後の年もここで過ごした著名ロイ・リヒテンシュタイン( Roy Lichtenstein)による“Times Square Mural”。未来のタイムズスクエアの景観。 【 写真 41~42 】
【 41 】 タイムズスクエア42ストリート駅 ニューヨーク生まれ、最後の年もここで過ごした著名ロイ・リヒテンシュタイン(Roy Lichtenstein)による“Times Square Mural”。未来のタイムズスクエアの景観。(写真41~42)
Photo:from MTAart
【 42 】 Photo:from MTAart