第25回:  (1) Ecco DesignのEric Chan (2001/6/13)


 

エリック・チャンは78年に香港より渡米しました。
89年にミシガンのクランブルク・アカデミー・オブ・アート、デザイン修士課程を修了後、ヘンリー・ドレフュイスや、エミリオ・アンバース等の事務所を経て、89年に独立し、工業デザイン・アンド・プロダクト・デベロプメント(ECCO Design)を設立しました。

彼のデザイン・コンセプトは「より人間的なデザイン」です。それを実現するために、テクノロジーを駆使して、製品をつくりあげています。
日々テクノロジーが進化し続ける中、複雑なテクノロジーをシンプルで使い易い形に表現し、テクノロジーと人間、自然、社会との調和をもたらすことがデザイナーの仕事だと、彼は言います。こんな時代だからこそコストや技術の制約に捕らわれず、その意味や感覚の探究がデザインの役割になりつつある。ここに業界の人々から、彼がイノベーターと呼ばれているゆえんがあるのではないかと思います。
物静かで、おだやかな彼の視野は広く、デザインに留まることなく、経済、政治、地球環境、芸術文化哲学に及びます。こうした彼の意識の高さが、デザインにも表れています。
デザインを考える上で、彼はまず、簡単なスケッチをします。それは、非常に抽象的で感覚的なもので、その段階ではコンピューターは使いません。人間としてのコンセプト、感覚を大切にしている彼ならではの表現のスケッチです。そして手作りのモデルをつくり、徐々ににその抽象的なコンセプトをテクノロジーとコラボレートさせてゆくのです。こうして注意深く作られた製品は、世界中で愛されていますが、彼はこうも言っています。

「私はたくさんの消耗品を作っているが、段々その価値が低くなっているような気がする。これから先は、資源を使って意味のない商品を作る必要が無くなってくると思う。資源はどんどん無くなる。最後に人の中に残るのは、経験と記憶。だから私は経験を作るのに興味をもっています。」彼の作ったものを経験してみたいと思わずにはいられなくなるのです。

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ECCO Designのオフィス

 

パーテーション
(ハ-マン・ミラ-社) 

パーテーション
(ハ-マン・ミラ-社) 

ニューヨークにある彼の事務所は、彼のコンセプト通り機能的でシンプルです。しかも使い手のニーズが熟慮されていて、訪問者が必ず感激してしまうデザイン・オフィスです。
個人個人のデスクは、紗のようなニューメタルで作られたパーテーション(ハ-マン・ミラ-社の為にデザインされたもの)で区切られていていますが、空間全体の一体感を失うことはなく、圧迫感も感じさせません。しかも各自のプライバシーは働く場として適度に保たれています。また、必要に応じて簡単に移動させることができます。

 

デスクは、有機的な造形で角張った角はなく、どの方向からも人が集う事ができます。個人で使う時には中央のくぼみにスッキリと体が納まります。また、電気製品などのコードを中央の穴に入れてしまえば、机の上がコードだらけになる心配もありません。また、そこに卓上のパーテーションを取り付けることが可能です。もう一つのデスクはスライド式のサイドテーブル付きです。そして何より、愛らしいのがその足の形です。(すべてEcoo Designによるハ-マン・ミラ-社の新製品事務用具)

Ecoo Designによるハ-マン・ミラ-社のデスク

 

卓上のパーテーションを取り付けたデスク

スライド式のサイドテーブル付きデスク

廊下におかれた長椅子

廊下におかれた長椅子

背もたれを付けた長椅子

長椅子

廊下には、快適な座り心地を考慮して、座面が微妙なカーブになっている長椅子が置いてあります。アートピースにも思えるこの長椅子にはオプションで背もたれを取り付けることができます。

彼がデザインしたプロダクトのショーケース棚

電話機など

普段彼が会議室として使っている部屋には、これまで彼がデザインしたプロダクトのショーケース棚があり、電話から文房具まであらゆるものが並んでいます。これらはどの作品も彼のコンセプト通り、人とデザインの関わりを大切にしています。

一世を風靡した、あのユニークな形をした電話は、女性と男性の体の曲線をモチーフにしているそうです。

文房具類では、ステンレスのビジネス・カード・ホルダー、ブックマーク/ルーペ、ものさし、ペーパーナイフのシリーズが最近商品化されました。これらは、使い易さとシンプルなデザインが好評で、世界中から注目を浴びています。また、日常的に何気なく使っているステープラーは、縦にも立てることができて、彼のこうした気の利いたプロダクトに、「人に優しいデザイン」というコンセプトが一貫して感じられます。

電話

SOFT EDGE – RULER

ビジネス・カード・ホルダー

ステープラー

 

「折り紙建築展」展示風景

最新のプロジェクトでは、MoMAの向かいにあるアメリカン・クラフト美術館で行なわれている、「折り紙建築展」の展示デザインを手がけています。
私が、この展覧会のゲスト・キューレーターを依頼された時から、重厚な美術館に、小さな紙の軽い作品をすっきりと見せてくれるデザインをしてくれるのは、彼ではと思い美術館にお願いして、協力して頂きました。彼は会場構成を全て紙で統一しようと、新素材の様々な紙をリサーチしました。しっかりとして、フレキシブルなコルゲ-ト紙を探すために、私自身もインターネットで、世界中を探しました。結局最初に彼が手に入れたサンプルのモノと同じ素材をドイツから取り寄せました。
ダイナミックで立体的な流れを、彼特有の曲線で会場全体に表現する事で、我々の案は決まったのですが、古いしきたりの美術館の説得や設置に、大変骨を折る事になりました。それでも、エリックの空中展示の折り紙建築展は、大変な反響を呼んで、企画展では今迄にない美術館来館者の記録を作りました。こうした彼の多方面での活躍はNYのプロダクト・デザイナーの先輩スターとして、ますます、若者達のあこがれを集めています。

「折り紙建築展」開催の詳しい情報はこちら

 

 

(2) ICFFとOFF Siteパーティー


オランダのブース

デザイン・スクールのブース

2001年のICFFInternational Contemporary Furniture Fair
国際現代家具見本市は5月19から22日まで Jacob K. Javits Convention Centerにて行われました。ICFF のオープニング・パーティーは今年もMoMAを借り切ってのパーティーと20日には7:00~10:00までのOFF-SiteEvent として33社のリストアップされた案内カードをTime Out社の協力で、作りました。今年のオフサイトのイベント紹介があちこちから出て、大変な盛り上がりでした。ICFF自体は例年にも増して大型化したように見えました。イタリア勢の大掛かりなブースとオランダのオレンジ色で揃えたブースが競っていたのと、バス(風呂)、水まわり関係の会社のブースが、凝ったつくりのメタリックで目にとまりました。

1999年のレポート
2000年のレポート

 

メタリックな展示が目に留まった水まわり関係会社のブース

メタリックな展示が目に留まった水まわり関係会社のブース

メタリックな展示が目に留まった水まわり関係会社のブース

アート・センター・カレッジ・オブ・デザインの学生の作品

 

デザイン・スクールのブースが毎年フレッシュなアイディアで、楽しみです。今年はアート・センター・カレッジ・オブ・デザインやロードアイランド・スクール・オブ・デザイン、プラット・インステテュート、パ-ソンズ・スクール・オブ・デザイン等の学生の作品が出品されていました。

続き会場としてつくられている特設会場までの渡り廊下が、真っ赤な工事現場で使うような面白い素材でが出来ています。特設会場でもいくつか目にとまったブースがありました。

水を流していてナチュラル思考のMODERN STONE AGEとモダン・アジアン・スタイルでまとめたフィリピンのブースが人目を引いていました。

特設会場までの渡り廊下

フィリピンのブース

 

MODERN STONE AGEのブース

MODERN STONE AGEのブース

MODERN STONE AGEのブース

MODERN STONE AGEのブース

 

♦OFF SITE EVENT

今年のOFF Siteのパーテイーは盛り沢山でとても見切れませんでしたが、ICFFとは別に18日からすでに始っていて、PROSPECTSという名でパンフレットを作り、UP TownからSoHo迄の28社の会社と製品をMap入りで紹介していました。このパンフレットでは、17日のパーティーから21日迄、毎晩のスケジュールが住所とわかりやすく小冊になって、あちこちに置いてありました。

今年はもう一つインテルニ(INTERNI)からの詳しいカタログ小冊も加わり、これも毎晩10社から30社くらいのオープニングのリストがあって、大変なお祭り騒ぎでした。とても見切れず、見逃した大事なイベントがいくつかありますが、我々グループが2日間でのぞいたいくつかを紹介します。

 

名刺の折り紙建築に興味をしめして、歓談するフィリップ・スタルクと木原隆明氏

イスの座り心地を試す茶谷先生

Up Townではアルミ展を開催しているナショナル・デザイン・ミュージアムで行われた、EMECO社のHudson Chairのパーティーはフィリップ・スタルクのサイン入りのアルミのイスがゲームで勝った人に当るというものでした。

我々があちこちまわって辿り着いた時はほとんど終わりの頃でしたが、丁度中からフィリップ・スタルクがイスを片手に出てきたところで、Hi!となり、「折り紙建築展」で、NYにきていらした茶谷先生が、そのイスの座り心地を試したてみたり、スタルクは受け取っていた、折り紙建築のInvitationに感心していたそうで、木原隆明氏の名刺の折り紙建築にも興味を示して、歓談していました。オフ・サイトではいろいろな出会いやハプニングがあるのでおもしろい。

スタルクは翌日のソーホーのKartellでもBubble Club Sofa にじかにサイン会をしていましたが、雨の中、入りきれない人達が外まで行列を作っていて、とても中迄入れませんでした。

お隣りの照明のインゴ・マーラーのショールームも3~4日店を閉めて準備をした新作発表会も外まで、人があふれる程の人気でした。
通りを隔ててお隣りの1階地下に昨年出来たキッチンとバス・ルーム専門の大きなショールーム、Boffi Sohoではシンプルとナチュラルを取り入れた新作を発表していました。もう一つ話題だったのはソーホーDUMB BOX PRODUCTIONS。もとマジシャンとして有名な家具作家のDakota JacksonがUP TownのD&Dビルディングのショールームの他に、このソーホーにショールームを持つというので、皆で出かけました。
Mercer Streetのスッキりした空間の奥、ビルとビルの間に大スクリーンが取り付けてあり、動く映像は一瞬外の景色のような錯覚を起こします。入って右側の長いショーケースには薄いコンピュ-タ-用モニターが間隔をおいて置かれ、その合間に彼がデザインした家具のミニチュアモデルが並んでいます。モニターでは、インフォーメーションを選ぶ事が出来るようになっていて、ハイテクを駆使した新しい形のショールームです。

インゴ・マーラーの新作発表会

 

インゴ・マーラーのショールームも人があふれるほどの人

キッチンとバス・ルームのショールーム、Boffi SoHO

奥に大スクリーン

Dakota Jacksonデザインの家具のミニチュアモデル

 

ディスプレー機器で有名なイタリーのZERO USAでも組み合わせ自由の新作テーブルを大々的に宣伝し、パ-ティーでもごちそうでもてなしていました。
UP Town のフェレッシモが全館でコンペの受賞作品展示をしていて、おもしろく皆が話題にしていました。
ICFFと同時に行われていたStationary show(文具見本市)では、カードが多く、沢山の量で目にとまるのものがありませんでしたが、今年のグッド・デザイン賞をとった商品の中でカリム・ラシッドのチェス・セットとエアーチェアーを出している文具会社を見つけて、カリムの幅広い活躍ぶりに感心しました。

コンペの受賞作品

コンペの受賞作品

カリム・ラシッドのチェス・セットとエアーチェアー

チェス・セット