第124回 SOFA NY 2009

12回目になるSOFAニューヨーク(Sculpture Objects & Functional Art)が、2009年4月16日~19日までパークアベニューのARMORYでおこなわれました。 オープニングの15日はTAX締め切りの忙しい日だったにもかかわらず、夕方からも2200人の人々で混み合いました。 恒例のMuseum Arts & DesignのBenefit(基金集め)のサイレント・オークションも会場に設けられ、カクテル・パーティーがティファニー・ルームで行われました。 ロンドンのディーラーJOANNA BIrd が「Pippin Drysdale 2009のインスタレーション1」セラミックのシリーズを$ 79,000で押さえるなど、不況の影響を感じないオープニングだったようです。 今回のSOFAの集客数は、最終日の19日までに、コレクター、キューレーター、建築家、インテリア・デザイナー、アート・アドバイサー、新しい観客などを含め、約17000人になったそうです。 今年の広報で話題になっていた、William Zimmer Galleryの Tomas Huckerのロッキング・チェアー。 彼は1985年にGallery91で、私の企画の「MADE in USA」のグループ展に参加してもらったアーティストで、その後も2度ほど出品していました。しばらく会っていない間に、国際的な家具の作家になっていて誇りに思い、久しぶりの再会を喜び合いました。彼はその後、日本の大学に通い、お茶の稽古も積んで感性を磨いていたようで、日本的繊細さ漂う作品づくりをしています。 ティファニー・ルームで行われるサロンSOFA:レクチャー・シリーズでは、Bookサイン会ほか、9つの講演が行われました。 David McFaddenのMAD Museumの今後の企画展の話、日本の焼き締めのマスター Jeff ShapiroのStudeio Potterの話、京都からの陶芸の巨匠 宮下善爾氏、その他各々聞いてみたい、勉強になりそうな講演でしたが、一部だけしか聞きに行けませんでした。 私が聴講した森じゅんこさんの講演にも、多くの方が熱心に聞き入って質問をしていました。彼女はシルバーを使って、彼女の好きでコレクションしている自然の植物や葉、茎等からワックスで型をとり、それをまた組み合わせてデリケートな形にしていったり、プロセスの関係で出来る形が器に見えたり、壷だったりする、ユニークな作品を作りあげています。ロンドンの銀の使い手、鈴木ひろし氏に助けられたという努力家で、素直で素敵なアーティスト。今後ますますグローバルな大物に発展しそうです。 今回のSOFAの売上げが気になり調べた所、Leo Kaplan Modernは$ 38,000でRichard Jolley 「2009 Still Life」を初日に売り、Chicago Habatat Galleries 『Shayna Leib glass installation」が$ 46,000 等々、エコノミーの不況も、本物を求めるコレクターには影響の無い事を証明。 オープニングの当日、Joan B. Mirvissのところでは29作品の売上げを記録、宮下善爾氏の陶芸19点を売りさばき、最終日の昼には3点を残す完売状況だったそうです。 アメリカ国内のあちこちから来た、多くの新しいコレクターや、インテリアデザイナーが買っていった、と驚きをしめしていました。 Londonのディーラー、Clare Beckも売上げを喜ぶ一人で、The venerable Adrian Sassoonでは、各アーティストの作品、特に鈴木ひろしの大きな作品や森じゅんこの作品が売れたそうです。 竹で有名なTAI Galleryでも、森上仁の作品などは直ぐに売れたという事でした。 ジュエリーのMobilia Galleryも、楠本マリコの大きなメタルの彫刻が$ 50,000でアメリカのコレクターが買い上げられる等々、心配をしていただけに喜びをあらわにしていました。 今やSOFAは、工芸の世界から抜け出て、Art Basel.と同じような舞台になりつつあり、VIPカードで著名人が出入りするVIPラウンジを会場内に設け、ウィットニ・ミュージアム、グッゲンハイム、MOMA、メトロポリタン・ミュージアムなどを相手にするアート市場になってきたようです。 SOFA http://www.sofaexpo.com/ ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第122回 Museum of Arts & Design Innovation Galleryの新しい企画

昨年9月末コロンバス・サークルにリニューアル・オープンした「Museum of Arts & Design」ですが、2階を「Innovation Gallery」と銘打って、デザイン展をショート・サークルで開催する今までのミュージアムにはない企画展を発表しました。 そのスタートに「デザイナーのキューレーターによる展覧会」第1弾で、デザイナーのカリム・ラシッドの「Totally Rad:Karim Rashid Does Radiators」(Rad:ラジエーターやラジカルをもじったカリムの言葉)が3月4日から5月17日まで行なわれています。 ミュージアムでの作品は通常一品もののプロトタイプで、なかなか手に入らないものが多く、展覧会も開催までに通常は2年から5年と時間を要しますが、カリムはこの「Innovation Gallery」に、購入しようと思えば市場ですぐ手に入る、日常の生活の必需品である暖房具、ラジエーターをデザインで見せるというショーケースの試みを提案しました。カリムは以前NY市のマンホールのフタをデザインした事もあり、通常目につかないようなところのデザインを提案をし、「世界を変える」をテーマにしています。 Antrax、Caleido、Deltacalor、Irsap、Hellos、Gruppo RagainiとRuntal社等のデザイン・インテリア・ラジエーターを、「斬新な形」、「部屋の中での重要度」、「形」、「パターンとテクスチャーの現代感覚」、「モジュール/柔軟さ」、「多用性」、「新しいテクノロジー」などを基準に、彼のセンスで30点を選び、展示設営も彼によるデザインで、今迄のMADミュージアムにはない新しいデザインの展示になっています。 NYの冬の暖房ラジエーターは、19世紀から序々に開発されているようですが、日本と違ってどのアパートも古くからのラジエーターが取り付けられていて、なんとかならないかという代物も多く、横からスチームがでたり、音がするもの等、一向に改善しているように見えません。アメリカでは家主が購入するという不動産事情があるからではないかと思われます。 日本のように個人購入するのであれば、もう少し工夫され、新しいハイテクノロジーを駆使したものが出てくるように思いますが、今回の展覧会はあくまでも、NY事情で感じた中で、アメリカのインテリアにあうラジエーター、ヒーター・システムを選んだものだと思います。 短期間での企画で新しいアイデアやデザインは新風ですが、マンハッタンの小さなアパート、日本の住居でもフィットする小型のラジエーターや、新しいテクノロジーやエネルギー・セーブを追求したものがもっと出てきてほしいと思いました。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第121回 NY恒例の冬期Accent on Design

インターナショナル・ギフト・ショー、Accent on Designが、今回は例年より早い1月25日~29日に、ジャビッツ・コンベンション・センターで開催されました。 今年はパリのメゾン・オブジェと重なったせいもあってか、出展できないブースもあり、休憩所を増やすなどで工夫しているようでしたが、やはり不況のあおりもあり、今迄になく閑散とした会場と売行きで、出展者は皆、忍耐の期間と頑張っていました。 それでも地下に設けられている、キャンドルなど香りのする癒し系商品を扱う「Extracts」の部門はとても賑わっていたようです。不景気で外出が減る分、家の中を充実させるものが人気でした。景気に関わらず消費するものは売れるということでしょうか。 初日を除いて、天候も寒さと大雪などで厳しかった事も、更に入場者の足を遠のけることになったようです。 Accent on Design部門への入り口ロビーには、今年も 「Sustainability」の特別展示が設置され、来場者の目を楽しませていました。 例年のAccent on Design賞の今年のBest New Product Designは、コネチカットの会社Ameico、そのスエーデンのBo Designのデザインによる、壁に取り付け折畳める、場所要らずの赤ちゃんオムツ取替えテーブルに。またもうひとつは、メキシコシティーから、DFC Mexicoのカラフルなメキシコ工芸を思わせる、コンテンポラリーでポップなバッタのテーブル。 Best Collection賞はNY・ブルックリンのKiln Design Studioへ。 そしてOverall Excellence賞はAreaware(NY)の、常に若手無名デザイナ-の商品開発をしている姿勢に与えられました。 きみどり色の絨毯が敷かれている3600~4200番台の列がAccent on Designセクションです。入ってすぐに右にあるブース「A+」は、次世代を担うデザイナーの発表の場として主催者側が提供しています。 またレースのような繊細なペーパーカットによるランプシェードで人気を集めたArtecnicaの華やかなブースが目につき、その隣りでは今回、umbraのユニークなアート商品ライン「U+」のためにもう一つ別にブースを設け、白い紙を大量に重ねたすっきりとしたデザインで展示していました。 KIDIでも教えていたAaron LownがチーフデザイナーのBuilt NY Incが、会場前方に進出して、目をひくユニークなブースデザインを手掛けていました。 また昨年紹介した、RISD卒の日本人カップル、Morihata Internationalが、今年はAccentの方に出展していました。同じくアクセント部門の、板雅子さんと妹さんのバッグとジュエリーの「acrylic」もすっきりとして好評でした。 Gallery91は今回もコストを押さえる工夫をしたブースに仕上げましたが、円高の影響でどうしても価格を上げざるを得ず、日本製品を扱う方達はどこも苦労していました。オーダーが通常よりかなり減り、顧客のMUSEUMのオーダーに頼る形となりました。 他ではHAND MADE部門を覗きましたが、ドイツ・セクションは毎年品質の高い手作り工芸品を国がサポートしていて、素晴らしい見せ方をしています。どのようにビジネスにつなげているのか気になります。 地下の8600~8700列のExtracts部門は、最初にも書きましたが毎日かなりの人で賑わい、売れ行きも良かったそうです。癒し商品が時代に合っているようです。 ジャビッツ以外では、同時イベントとしてフエリッシモが、今回は1月25日~2月7日まで「unfolding」Japanブランド・エキジビション in NYとして開催していました。各商工会議所がバックアップしての盛大なオープニングは、ジャビッツから流れて来た来場者と日本からの方で超満員で、あまり見られない状態でしたが、トレード・ショーとはかけ離れた日本的展覧会でした。 改めて再度見に行きましたが、きれいな展示風景で、日本をきちんと紹介するには素晴らしい展覧会でした。しかし、一部、NYの常識を無視しての価格設定で、3月迄の予算を使う為の無駄使いに思われるものがありました。日本からの人達はどうも、展覧会とトレードショーの違いがわかってないように思います。美術館を借りて展覧会で売りたいと言ったり、ジャビツのトレードショーの中で展覧会と思って参加して、値段も付けられないで出展してたり、同じような事を毎回繰り返しており、せっかくのすばらしい日本商品を真剣に売るための努力をしてないように思えました。 次回のAccent on Designは8月15日~20日です。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第120回 アジア現代アートフェアー・ニューヨーク(ACAF)

第2回アジア現代アートフェアー・ニューヨーク(ACAF)がニューヨークのピア92(52丁目 / 12番街)で2008年11月7日(金曜日)から10日(月曜日)迄開催されました。 現代アジアの芸術の最も重要な展示会で、ニューヨークで唯一の国際的な美術展示会として今回2回目となるACAFに、昨年の成功から期待と興味が高まりました。一般公開に先駆け、6日にはプレス・プレヴュー、Vip Partyがあり、いろいろな趣向がこらされて、注目を浴びました。今回は15カ国から70以上の国際的なギャラリーが参加。中国、日本、韓国、インド、バングラデシュ、フィリピン、シンガポール、ベトナム等のアーティストによるによるさまざまな現代の作品が展示されました。絵画、彫刻、写真、紙の作品、ビデオ、およびインストール他をはじめてアメリカで発表される作品が多く見られました。 6日のオープニング・ナイト・プレヴューでは、受賞デザイナーのAngel Changのファッション・ショーが行われたり、Yibin Tianの北朝鮮兵士を装った大勢の兵士達のパフォーマンスの動きや、山下画廊の茶会のはじまりを知らせる拍子木の行列などが、何度か展覧会会場を沸かせ、アジアをアピールしていました。 北京のYibin Tianの写真とパフォーマンスは、彼が北朝鮮を尋ねた時の厳しい規制で写真を撮る事が出来なかった強い印象を、自国にも捻って訴えているという作品だそうです。 もう一つ話題だったのは大きなケージに入った真っ赤な鳥で、韓国の女性作家、Ran Hwangの作品『Dreaming for Joy』で、赤いボタンと金属のピンを壁に鳥の形にインストールしたものですが、抑圧からの開放の夢との事、人気を集め注目されていました。 山下画廊の日本画家・手塚雄二氏の大きな屏風の作品は、黒い畳みを敷いた本物日本の会場設営、京都の裏千家・今日庵・金澤宗維氏のお手前と道具、脇役も揃ってすばらしい会場になっていて、来場者も身を引き締めて観ていました。 東京とチェルシーにある一穂堂ギャラリーから、CHICARA(永田力)のLiquid Chromeのオートバイも、ファインアートの中で異種な感じもあり、人気を呼んでいました。 2つのスペシャル展覧会:Dr. Charles Merewetherのキューレートによるカザフスタン、トルコ、およびジョージア等のアートからの選ばれた作品展、そして、キューレーター・Feng Boyiの「MyBone, Flesh,and Skin」は中央アジアと中東の国からの人体に関連する現代の中国人のアーティストと彫刻を奥の会場を広く使って展示されていました。 各Galleryの展示ブースの他に、スポット・ライトとしての招待作家の作品ブースが6カ所あり、知人のNYのPierre Sernet氏のゲリラTeaの写真と、2畳間の木枠も展示されていました。 他にもアジアの現代の芸術に関連する問題をテーマに、毎日公開討論会や講演、主な館長、美術史家、コレクター、ジャーナリスト、芸術ディーラー、および芸術家がパネラーで企画を行っていたようです。 アジアの現代アートの要求は、最近すごい勢いで成長していて、暮れのマイアミ・バーゼルにもアジアン・セクションが出来たりと、高く昇り続けているように見えますが、宣伝や投資家達の不況の波に潰されないよう、足を地につけて、歴史と本物指向でがんばってほしいと思いました。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第119回 セントラル・パークに出現したザハ・デザインのシャネル移動美術館

10月20日に、あの噂の「シャネル・コンテンポラリー・エアーコンテナ」がついに香港、東京の次の着陸地、ニューヨークはセントラルパークへやって来ました。この宇宙から舞い降りて来たような白いコンテナは、2年間に世界6都市を訪れる移動式美術館(モバイルアート)で、シャネルのアートディレクター、カール・ラガーフェルドのコミッションにより、建築家ザハ・ハディッドがデザインしたものです。 ココ・シャネルのキルト・ハンドバッグ“2.55”の50周年を祝うため、世界から選ばれた20組のアーティストが、このバッグのそれぞれのインスピレーションをもとに制作したといわれる作品が、展示されています。 オープニングパーティーは昼にも開催していましたが、夜に出席するチャンスにめぐまれ、セントラルパーク内のラムジー・プレイ・フィールドに招待状をもっていくと、厳重なゲストリストのチェックがあり、中へ入っていくと、そこには多数のカメラマンが立ち並び、セレブリティーが到着するシャッターチャンスを待っていました。 暗闇に光っているザハのこのモバイル美術館は、まさにUFOのようでした。招待客も行列待ちで美術館の中へ入るのですが、お洒落なオーディオセット、MP3を付けてくれます。フランス女優、ジャンヌ・モローの深い声が、突然現実から遮断し、これから体験する事になるアートの世界を語り、誘い込みます。 進み始めると、台湾アーティストのマイケル・リンによる、赤がベースのカラフルなタイル・モザイクで敷き詰められた床が出迎えてくれます。天井からは、ロリス・チェッキーニ(イタリア)のクリスタルの彫刻インスタレーションが目を引きます。 さらに進むと階段へつながっていて、大きな容器の中を上から覗く形になっているのが、日本のアーティストの1人、束芋によるビデオインスタレーション。井戸の中から巨大で怪しげな昆虫のような映像が浮き出てきます。 その他、ブルー・ノージズ(ロシア)による作品は、段ボールを覗くと裸の人間達が中でシャネルのバッグの追いかけっこする、というこれまた映像のインスタレーションが仕掛けてあります。オノ・ヨーコの作品は“Wish Tree”で願い事を書き掛けて、これが最後の作品で終わりになります。 コンテンポラリー・アートということですが、あまり主旨はつかめず、全体的にボリューム感があまりなくて、あっという間に終ってしまった、という感じがしました。次々に来場する、シャネルを身にまとうゲストらを観察する方に気を取られてしまったせいかもしれません。 その中でも、やはり当人の、カール・ラガーフェルド、ザハ・ハディッドが登場すると場が盛り上がりました。 美術館を出ると、もうそこはセントラルパークがパーティー会場になっています。パーティー屋内会場ができていて、中ではライブが行われ、皆酔い踊っていて、終わりの時間が表記されていないインビテーションでしたが、有名雑誌の元モデル、美女美男はもちろん、ファッション関係者で華麗そのもの。ケータリングもとても格好良く、モデルへの気配りなのか、ヘルシーなシーフード中心。座っていると、シャンパンはボトルでどんどん置かれていき…、多いに盛り上がりました。ニューヨークの夜はまさに尽きません。野外なので、トイレは仮設ですが、お洒落な空間になっていて、そこにはやはりシャネルの香りがする気配りも…。久々に派手なパーティーで、やはりファッション業界、NYのセレブの華麗なる夜を味わう一夜でした。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第118回 Art+Design Fair

20~21世紀のアートとデザインを集めた、年に1度の国際Art+Design Fairが、今年もニューヨーク、パーク・アベニューArmoryで、10月3日から8日まで開催されました。 1999年発足の、フェアーの中では歴史の浅いショーですが、ロンドンのHaughton Internationalがオーガナイズして、著名作家達と老舗Galleryが41社が出展していていました。多くの国際商品見本市がある中、特徴づける事が難しくなってきていますが、このショーは、世界中で20世紀と現代アート・デザインのコレクターの増加を見越して、特にこの人達の求めるものを集めています。広い会場設定で雰囲気も良く、他のショーと同じ出展者も少し違って見えます。優雅な雰囲気の会場で展示即売されていて、来場者を満足させているように見受けられました。 オープニングのギャラ・パーティーは The Bard Graduate Center(BGC)の育英事業のための資金集めのパーティーが行われました。このThe Bard Graduate Center: for Studies in the Decorative Arts, Design and Culture(通称BGC)は、ウェストの86丁目にあります。1993年に創設の文化装飾的な応用芸術の歴史を学びながら、MA, Ph.Dの取得出来る学校で、タウンハウスのBGC Galleryでは常に装飾アート・デザインの展覧会が催されています。 今回は特別展示として、BGC Galleryが2010年に企画している「Knoll テキスタイルの歴史展」の一部を「Art+Design Fair」で展示紹介しました。Proenza Schoulerコレクションになり、モダン・インテリア・アワード受賞のNYのデザイナー・チーム、ファッションのジャック・マッカラック(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)が、最新のKnollテキスタイルをデザインしていますが、今回の展示には歴史展と同時に、学生達のリサーチの他、このインテリア・テキスタイルを使って、ファッションのコート・ジャケットをデザイン展示していました。 今年、フェアの出展者は世界中から集まっています。20世紀クラシックと言われるアートとデザイン・ジュエリーなどのヨーロッパ、アメリカのディーラーに加えて、新しくレバノン(Lebanon)、シリアのダマスク(Damascus, Syria)、アントワープ(Antwerp)と幅広い層が出品していました。 会場の所々に大きな壷に生けられた緑のインストレーションはロンドンのLavendrs BlueのMarian+Victoriaの制作との事、壷はMaison Gerard社の展示で、デンマークで生まれ、1979年に萩で学び、1986年から1987年まで日本に住んでいたという作家、Per Weissの作品。 Waxler Galleryで展示している日本の竹かと思わせるMatthias Pliessniのベンチは、蒸気で曲げた樫の木の細かい細工で目にとまりました。ここに1985年にGallery 91でプロトタイプで発表したThomas Huckerの椅子が、スイスの梨の木素材で新たに制作され展示されていて、シンプルなランプと共に健在ぶりを発揮しており、懐かしい作品に会えた感じでした。 Dai Ichi Artsの中島晴美の作品と、韓国のCaroline YiCahengの細かい蝶の陶器を植え込ませた着物の形の作品も、皆の目を引いていました。 他には、80年始めからコンテンポラリー・アート・ジュエリーの作家を集めてプロモートしているCharon Kransen Arts。日本人作家、韓国人作家の作品も増えてきていて、彼がジュエリーのアートー・シーンのひとつを作っているように思いました。 海外でも評判の良い日本の作品群、陶器、竹などは、ここでも海外のディーラーの目利きによって選ばれ、育てられているのを感じました。 ジャパン・ソサエティー(JS)のJSギャラリーにて、2009年1月11日まで『New Bamboo ~竹の新世界~』展が開催されています。 伝統的な竹篭と機能性などの日本の竹工芸の素晴らしさは古くから認められていましたが、最近になってアートとして日本以外でのコレターが増えはじめ、竹工芸を取り巻く環境が変わってきているようです。 今回のJSギャラリーの展示は従来の一連の竹芸展とは異なり、日本でも見る事の出来ない、世界で初めての大掛かりで新しい方向性を国際的に示す、竹の『New Bamboo ~竹の新世界~』展です。この展覧会はJSギャラリー・ディレクター、ジョー・アール監修により、幅広い年齢層の作家23名の約90点を紹介、細部に至るまで計算されたコンピューター・デザインを駆使した華奢な細工や泥の塊のような重量感のある作品、独創性のある彫刻的な作品などで、これからの竹の将来に夢を感じさせる展覧会です。 竹芸品は16世紀以前には芸術品としては認識されておらず、実用的な竹篭が数千年にわたって作られてきて、竹工芸家が作品に自身の名を記すようになったのは1870年以降のことだそうです。 そして次世代の作家の作品を幅広く集めた、この『New Bamboo』展では、竹の従来の限界を超えた、単なる日本人の美意識ではない様々な価値観が混合しています。主に熱心なアメリカの収集家に支持されて、竹芸は技能と革新の黄金時代に移行しているようです。 『New Bamboo』展は、JS1階のロビーから始まります。池の中に作られた川名哲紀(1945‐ 勅使河原蒼風に師事した)の作品は、JSがこの展覧会の為に制作を依頼し、茶室の原点である囲いに着想を得て創作されたもので、『囲い』と名づけられています。その川名の作品に呼応したアメリカ人作家スティブン・タラスニックの作品がロビーを飾り、竹という素材を介して国境を超えた対話を繰り広げています。 展覧会はギャラリー内へと続き、『器から彫刻へ』『各地の巨匠たち』『個々の表現』『新たな行方』という4セクションに分かれて展開していきます。 『器から彫刻へ』の第1のセクションでは、本間一秋(1930‐)とその息子・本間秀昭(1959‐)の作品で始まります。 『各地の巨匠たち』セクションでは、伝統的な竹工芸界に身を置く作家の作品を取り上げ、八子鳳堂(1940‐)の内面世界を表現する作風を追求しています。割れた竹の独特の美しさを用いた大作です。 第3のセクション『個々の表現』では従来の竹彫刻の限界を押し広げている二人の作家に焦点を絞っています。竹編みの家に生まれた池田巌(1940年‐)の、つやのある漆を何層も塗った竹の幹を打ち砕き、偶然の成り行きに任せた彫刻作品と、植松竹邑(1947年‐)のファイバーアートを思わせる、自由な発想でいて、技術的な完璧さを出す作品。本展では、クラーク日本美術・文化研究センター(カリフォルニア州ハンフォード)が近年収集した植松の代表作が初公開されています。 最後のセクションの『新たな行方』では、川島茂雄(1958‐)の、小さな作品にも竹を凧糸で縛る手法を用いて、繊細に見える興味深い作品や、長倉健一(1952‐)の竹の特質を生かし、驚くほどの技法で竹を制御することで人間の顔・体の形を表現した作品、長い間アメリカの工芸界に身をおいた米沢二郎(1950‐)の作品、最年配の本田聖流(しょうりゅう)(1951‐)による未完成の花篭を熱湯で柔らかくし、練って形にしたというへびの様な細い作品。そして、六角形に編んだ薄く切った竹から連続した不思議で象徴的な形の作品の森上仁(1955‐)等、23名の作品が展示されています。 この展覧会から、日本が最近流行語にしているジャパン・ブランドとかクール・ジャパンの本当の意味は、こういう「日本的であること」に斬新性が見出されて、世界で受け入れられる本物の、このような作品群を言うのでは、と感じます。また、このような作品の課題を与え、育ててくれているのが、日本でなくアメリカのコレクターだというのも考えさせられました。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第117回 Museum of Arts and Design オープン

2008年9月27日、Museum of Arts and Designが、いよいよコロンバスサークルにオープンしました。 ランドマークとして残されてきた「2コロンバスサークル」は、1964年にGallery of Modern Artとしてオープンしたものの、そのデザインが市民から受け入られることなく、わずか5年足らずで幕を閉じました。その後現在に至るまで、市営の元で様々な入居者を抱え、10年あまり空ビルだったものを2002年、Museum of Arts & Designが購入するに至りましたが、その後のランドマーク保護団体からの反対を乗り越え、予定よりかなり遅れた開館となりました。デビューとなる展示会タイトル「セカンド・ライフ」は、まさにこのMAD Museumコロンバスサークルの再誕生を物語っています。 ( http://www.japandesign.ne.jp/HTM/NY/0808/7.html 参照) そしてリニューアル・オープニング・イベントが1週間前から毎日行われ、話題を呼びました。まず、23日のテープ・カット式典にはブルーンバーグ市長が参加して行われ、昼、夜とVip、コレクター、メンバー等々の特別パーティーが毎日続き、賑わいました。展示面積は、これまでの施設の3倍のスペースで54,000平方フィートにも拡大し、見晴らしのよい7階は特別イベント会場、6階はEducation Centerで、ここでは、陶芸、織物、金工他のワークショップがあり、作品創りを実際に見る事が出き、道具等も展示しています。製作過程を見学できるのも、この美術館の大きな魅力の一つとなりました。順次デモンストレーションのプログラムが変わって、いろいろなクラフトを見学する事が出来るようになります。 開館企画展である「Second Lives: Remixing the Ordinary」は、4~5階で展示されています。普段見慣れたものを、別の形でアートに生まれ変えるこの展覧会企画は、今回のリニューアル・MADにふさわしいテーマで、世界17カ国40名のアーティストが参加しました。 分かりやすい素材の作品では、LPレコードから切り取った蝶々が飛び放っている作品や、カラフルな糸巻きを大量に使ったモナリザ像、布のラベル、櫛を沢山使っての絵画、プラスティックのスプーンのピラミットやフォークを使った作品、本や電話帳を削って作った大きな仏像、ゴム手袋を重ねたドレス、3000個のドッグタッグで作った上着などがありました。40名のアーティストの中に、NY在住の日本人で、安全ピンを使うことで知られる神戸出身の河田多美子氏と、繊細な木をショッピング紙袋からつくった沖縄出身の照屋勇賢氏2人が選ばれ、来場者は感心しきりでした。この展覧会は9月27日より2009年の3月まで開催されます。 3階と2階半分は、MAD Museumの52年間のコレクションでも、これまであまり公開されていない作品を時代を追って150点展示しています。60年代中頃、最初のファイバーアートとして有名になったサンフランシスコの2世のKei Sekimachiの作品を皮切りに、16人の日本人、日系人の陶芸、竹などの作品が含まれて展示されています。 今回は、ガラスの藤田恭平、竹の本田聖流、鳥居一峰、陶器のToshiko Takaezu、崎山隆之、岸映子、鈴木ヒロシ、中島はるみ等の作品を展示。今後はMADの2000点のコレクションから、順次展示されるそうです。 2階のジュエリーGalleryでは「Elegant Armor:The Art of Jewelry」と題した企画展を行っています。1948年から現在までのコレクションが、常設のガラスケースに240点と、ドロアーケースに450点あまりが、2009年の5月31日まで展示されます。ジュエリー・ファンには見逃せない展示で、日本人作家では、上から吊るされたネックレスのオブジェ、Hiroko Sato Pijanoaskiとスオー・エミコの作品の他、和田隆のジェリー、平石ユ等の作品も、今回展示されています。 オープニング・イベントにはNY日本総領事館、櫻井大使夫人、久下香織子FUJI TV キャスター、アーティストの和田隆夫妻、河田多美子さん、朽木ゆりこさん等 日本人も参加。コージーで楽しいMuseumで、親しまれそうという感想でした。日本人作家の作品が、ほとんどアメリカ人のコレクターやギャラリーからのものなので、作家自身には伝わっていないのでは、という懸念を感じました。 これからもっと日本の本物、新しいデザイン等も発表して行きたいと思いました。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第115回 メトロポリタン美術館のデザイン・コレクション

メトロポリタン美術館の広さには、何度行っても迷ってしまうほどですが、それぞれWigやGalleryの名前を覚えるとわかりやすいようです。 5月から新しい展示やWigがオープンしたので、取材を行いました。 「モダンデザインの名作たち」 メトロポリタン美術館の、20世紀以降だけでも400点を超える膨大なコレクションの中から、現代デザインの傑作を代表する作品が選ばれ、5月から1階のモダン・アート展示場内の「The Helen And Milton A Kimmel man Gallery」Lila Acheson Wallace Wingで展示されています。 古くはマッキントッシュ、ヨーゼフ・ホフマン、ミース・ファン・デル・ローエ、ブロイヤー、E・サーリネン、ヨーゼフ・アルバート、Eva Zeisel、チャールズ・イームズ、イサム・ノグチ、マイケルグレーブス、エットーレ・ソットサスといった巨匠から、現役のガエターノ・ペッシェ、ザハ・ハディド、アレッサンドロ・メンディーニと岡山伸也の共作の花瓶等、最近コレクションに加えられた作品まで。家具、メタルワーク、ガラス、陶器、テキスタイル、ジュエリー、オブジェ、スケッチ等が展示されています。 残念ながら写真を撮れなかったのですが、メトロポリタン美術館がハイライトとしている作品が、1934年のフランスの遠洋定期船「ノルマンディー号」の一等サロンのために作られたという記念碑的Jean Dupasのギルト・ガラスの大壁画です。 メトロポリタンならではの所蔵作品が公開展示されていて、この夏休みに現代デザイン史を一望する事ができます。 もう一つは「Classic / Fantastic」 同じ1階のモダン・アート、Lila Acheson Wallace Wing展示場内で、昨年12月から展示されています。現代のデザイン収集からほんの一部の選択作品75点とメトロポリタンが収集した家具、金属加工、陶器、ガラス、織物と図面のうち、半分は「Classic」、古典主義で過去の規則と伝統との関連のある作品。残り半分は「Fantastic」、ファンタジーのロマンチックでシュールな作品を展示しています。 秩序と無秩序。理屈と感情、制限と過剰、連続性と目新しさ:そのような対立する衝撃は、文明が始まって以来デザインを導いてきました。 確かに展示会場には伝統工芸的作品に混じって、ライラ・マシモ・ビグネリ、マイケル・グレーブス等の作品が見られ、中央にはピンクの倉俣史郎の花瓶が輝いて凛と展示されていました。この対立的組合せのコレクションの展示では、最新技術を駆使して生まれてくる異なるアプローチを並置し、これからの時代のデザイン哲学を問いかけているそうです。 2008年9月27日、ミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザインが、53丁目のMOMAの前からコロンバスサークルに移動して、新しくオープンします。 以下Museumのプレス・リリースからの抜粋の一部を紹介します。 Museum of Art & Designは、1942年にアメリカクラフト界の最大の後援者、Aileen Osborn Webbによって設立されたAmerican Craftsmen’s Councilが中心となって、1956年にThe Museum of Contemporary Craftsとして出発しました。当初は工業製品の普及によって失われてゆきつつあるアメリカのクラフトおよびクラフトマンシップの再評価、保存、研究をその使命とし、その後、1986年にRoche-Dinkelooがデザインした53丁目の場所にAmerican Craft Museumとして移転し、2000年から名称をMuseum of Art & Designと改め、それに伴い、当初のアメリカ国内を対象にした活動から、広く世界に目を向け、工芸、美術、建築、インテリア、ファッション、ニューテクノロジー、デザイン、パフォーミングアートなども、その研究対象とするようになりました。 現在まで560の企画展覧会と、75の公共教育を目的としたプログラムを実施してきました。2007年には、石川県の漆工芸家たちによるワークショップが開催され、日本の伝統工芸の美しさと技術の高さに注目が集まりました。米国内唯一のクラフト専門の美術館として、ミッドセンチュリーから現在に至る2,000を超えるコレクションも高い評価を受け、過去10年に渡り、ミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザインは、年間310,000人の来館者が訪れています。 Museum of Art & Designは2008年9月、急速に増加する来館者とさらなる発展のため、コロンバスサークルへの新規移転をすることになりました。新美術館の展示面積は今までの施設の3倍のスペースで54,000平方フィートの美術館になります。現代ジュエリーのために画期的な新しいギャラリーとセンターを設置したり、アーティストのためのアトリエも併設され、製作過程を見学できるのもこの美術館の大きな魅力の一つになります。アメリカ人建築家Brad Cloepfi設計の建物は、国際的なクラフト専門美術館にふさわしく、ドイツで製作され、オランダで色づけされたセラミックタイルで被われています。繊細な乳白色のグラデーションで彩られた外観は光線によって、色が変化し、近隣のタイムワーナービルディング、トランプホテルとともに、ランドマーク的存在となることは間違いありません。 Gluckman Mayer Architectsが手がけたことでも話題の9階にあるレストランは、ニューヨークの象徴的であるセントラルパークとブロードウェイを一望することができます。充実した施設と、4つの地下鉄のライン、7つのバスの運行路の交差するコロンバスサークルに位置するこの新美術館は年間50万人の来館者が見込まれています。Museum of Art & Designは既に高い評価を得ている日本の伝統工芸はもちろん、アートやデザインの作品、優れた人材の紹介、発掘の場として、ニューヨークでの拠点となるだけでなく、世界への発信基地としてますます重要性も増していくことでしょう。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第114回 SOFA New York 2008

第11回 SOFA ニューヨーク(Sculpture Objects & Functional Art)がパーク・アヴェニューのArmoryで5月28日から6月1日まで開催されました。 5月28日のオープニングナイト・パーティーはArmoryで行われたアートフェアーのなかでも過去最大の2,600人で埋め尽くされ、大変な混雑と活気にみちていました。SOFA合計入場者は、16,100人にのぼり最高の売り上げを得たそうです。 「最近の現代アート・工芸のオークションの急増と同時に、市場の過熱状態で今回のオープニングナイトでは、少しあっけにとられるような買付けが行われ、興奮状態が目にとまりました。」と、SOFAの創始者であり、評判が高いパーム・ビーチ・フェアなどを所有しプロデュースしているマーク・ライマン(dmg Art & Antiquesの副社長でもある)が語っています。「ディーラーやコレクターが、週末を通し床が見えなくなるほど集まり、国内や海外からもかなりの数の新しいコレクター達が来ていたのではないか」と話していました。 ロンドンを拠点にした名祖のギャラリー、エイドリアン・サスーンは「フェアは驚くほど成功した、本当に素晴らしかった。オープニングナイトに155,000ドルのAqua-Poesyを含む鈴木ヒロシ(ロンドン在住)が手掛けた銀と金のほとんどが売れた」との事、最も大きな作品のケイト・マローンの陶製Succulent Mother Gourdは、57,000ドルで売れたとか。アメリカの金融界からのクライアントは最大で最高の物を買いたがる」と述べているそうです。 オープニングナイトプレビューの間に近代美術館とロサンゼルス現代美術館、アメリカ国内および国際的にすばらしい美術館12館以上の収集部門の人達が、このプレビューで買付けをしたそうです。 展示は67Boothの主要な国際的なギャラリーで、作家にはジョージ・ナカシマ、ピーター・ボーコス、デール・チフリ、Lino・タリアピエトラ、ウェンデル・キャッスル、レノア・トーニーとアンソニー・カロのような一流のアーティストやこれから有名になりそうな新世代の新進のアーティストによる、陶器、ガラス、金属、木、テキスタイル等の優秀作品を展示されました。日本、イタリア、イギリス、フランス、カナダ、デンマーク、韓国、アルゼンチン、ニュージーランド、トルコと米国を含む11カ国のギャラリーが、デザイン、装飾と現代アートの架け橋となる芸術性の高い作品を出展しました。 何世紀も続いた豊かな伝統に基づくベニスのまばゆい現代ガラス・アート、彫刻的な日本の陶器、スカンジナビアの銀細工師による素晴らしい深みのある容器、近代主義の現代家具そして最もアバンギャルドなヨーロッパ他の国のアートジュエリー等も展示されました。 SOFA Lecture Seriesが、同時に開催され、他にもVIPプログラムで、コレクターの館への特別ツアーや美術館のキューレター主導の舞台裏ツアー等の催しがプランされてこのフェアを高めました。 オープニングナイトをのぞいて、皆が言うように本当に歩けない混雑ぶりで、アメリカ経済低迷と言われながら、どうなっているのかこの熱狂と活気にびっくりしました。 ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影

第111回 デザインとエラステック・マインド Design and the Elastic Mind

ニューヨーク近代美術館(MoMA)では2月24日から5月12日まで、デザインにおける過去6年の進化と、今後予想される次の6年に向けられたデザイン200点あまりの作品が展示され、話題になりました。 キューレーターPaola Antonelliのオーガナイズで、NYのデザイン業界、展示関係者等一同が集まり、オープニング・パーティーは、人で埋め尽くされ通路も見えないほどの混雑ぶりでした。 25年以上に渡り人々は、無線技術の進化やインターネット等による時間、空間などの劇的な変化を体験し、乗り切ってきました。Design and the Elastic Mind展は、その人間の限界や習慣、そして願望を細心に考慮した先端の科学研究と結合したデザインのオブジェクトとコンセプトを共にまとめることにより、現代においての科学とデザインの相互関係を探っています。この作品展は、デザインの最新の進歩の概観であり、そしてテクノロジー科学と社会的習慣の中で微妙で極めて重大な変化をキャッチするデザイナーの能力に重点をおいた作品展示です。 作品は世界中からのデザイナー、科学者、そしてエンジニアのチーム等により出展された原子単位から宇宙的なスケールのオブジェクト、プロトタイプやコンセプトなどの作品が展示されています。また、ウェブサイトではギャラリーで展示されていないプロジェクトを含む300以上の作品も紹介しています。 「あなたは、末期病状ですか? 蜂に聞いて下さい。」というSusana Soarsの作品(写真28)は、美しい球体の「診断ツール」。グラスの中に息を吹きかけ、蜂に判断してもらうというコンセプトで蜂は驚くべき匂いのセンスがあり、病気か排卵期であるか蜂が知らせてくれるという作品だったり、Chuck Hobermanの「変わり続ける壁」は、彫刻的な大きい動く壁で、彼の名付けた「適応建物の新世代」と言われる新作で、「皮膚」パネル部分の構造は、コンピュータによりコントロールされ、光と熱のレベルや雨などを感知して、そのスペースに対応し形を変えて行くというもの。 Rapidのマニファクチャー「3D-Printing」(写真29~32)は、VIDEOスクリーンで映し出されているのを見ると、夢の実現のような空間に太いチョークのようなもので描いたフリーハンドの形が、そのまま実在の3Dの形で、椅子や彫刻になっていくというもの。 Toma Gabzdil(Slovacデザイナー)の「蜂が作った花瓶」(写真34)は40,000匹の蜂が1週間かけて作った花瓶。あらかじめ作っておいた足場の周りに蜂が巣を作りはじめ、作り終えた後、足場を取り外した蜂の巣で作られた花瓶の作品。 一つ一つサイエンス・ミュージアムのデザイン展といった理解を超えるものも沢山ですが、未来の夢を感じさせる大規模な展覧会です。ニューヨーク・タイムズは1934年の近代美術館での「マシン・アート」展覧会と同じくらい革命的で、2004年のMOMA改装・再開以来の建築とデザインの最高のショーと讃え、我々にまた未来の夢を見させてくれたと絶賛しています。 http://www.moma.org/exhibitions/2008/elasticmind/ デンマーク生まれのアーティストOlafur Eliassonは、1995年のベニス・ビエンナーレでのデビュー以後、写真、彫刻、映像、光りのマルチ作家として、ヨーロッパ、PS1、MOMA、Paula Cooper、Guggenheimや日本でも発表している国際的に活躍するアーティストです。今回のMOMAとPS1の展覧会は彼の作品をすべて知る事のできる最初の総合的な展覧会で、4月20日から6月30日までMOMAとPS1で行われています。 MOMAの最初のフロアーでは、Marron Atriumの高い天井から吊るされた扇風機が頭に当たりそうで、人を追いかけるようにまわりながら振り子のように動いています。(写真40) 3階の会場では、Mono Bulbを使っていて歩く観客のカラーは黄色だけになり、黒の影だけ変化します。(写真41) 360度のドームの部屋は、柔らかく自然に変化するカラーを実際に自分で味わう事ができ、色の変化によって気分が変化するような気がしました。(写真44~46) レインボールームのようなプリズムで変化させていくカラーストライプの壁の展示は、素直にきれいと声を出す観客が多いのもうなづけます。(写真47~48) 光学的現象を最新のテクニックとカラーバルブ、ガラス、アルミニウム、ステンレス等を使って、シンプルで美しいアートにしてしまうのですが、科学っぽさを感じず誰にでも驚きを与え、自然の要素を採り入れたような淡い色の移り変わりで、心を癒してくれる美しい作品です。北欧で生まれ育った彼の生い立ちが反映しているのでしょう。 http://media.moma.org/subsites/2008/olafureliasson/ http://www.ps1.org ※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影