第3回: 新旧デザイン誌のプレゼンテーション ── 朝型『METROPOLIS』と夜型の『(t)here 』 1999 / 8


判型を変える『METROPOLIS』誌

朝の出勤時間前にブレックファースト・ミィーティング(*編注;朝食会議)がしばしば行なわれるNY。METROPOLIS人気のデザイン誌『METROPOLIShttp://www.metropolismag.com。そのBreakfast presentationが、ペンタグラム・デザイン社で、7月15日の午前8:30から行なわれました。発表内容は、オフィスがアップタウンからダウンタウンに移ったり…といった変動にあわせて、今までの長く大きいサイズ(26.5cm×36.8cm)をやめて、一般的な雑誌サイズ(およそ25cm×30cm)に10月号より変わる、ということです。健康指向になった80年代始め頃から、夜のエンターテイメント・ビジネス(*編注;歓楽街での接待)よりも、頭がすっきりしている朝に、軽い朝食── フルーツやクロワッサン、ペストリー、デザート、Tea、Coffee ── でのスマートな接待が流行っています。METROPOLIS Breakfast presentationが行われたペンタグラム・デザイン社のビル(左写真)は5番街(*編注;NYの代表的高級ショッピングストリート)の25丁目にあります。実はこのビルの前のテナントは、銀行跡を利用して作られたディスコとして80年代に名をはせた‘MKクラブ’。その後がまとして、1階から5階までビル全体に入居しているのがペンタグラム・デザイン社。その空間を見ることができるというのも、このプレゼンテーションの大きな魅力でした。1981年創刊の『METROPOLIS』は、NYの話題を中心にしたデザイン誌として、今まで考えられなかった変形の細長く大きなサイズでデビュー(今よりもさらに長かった)。今なお人気のデザイン誌であり続け、編集長のスーザン・スネージー女史はNYデザイン界の重鎮として活躍しています。

 

『METROPOLIS』誌面

朝から多くの人が集まる

ペンタグラム・デザイン内部

用意された朝食

 

5月には『メトロポリタン・ホーム』誌が、25周年記念と『アメリカン・スタイル』本の出版記念のパーティーを行いました。それがなんと、格式あるフォーシーズン・クラブ(最近日本で有名なホテルではありません)の部屋を借り切ってのもの。出版業界では珍しい豪華なお披露目で「どうなってるの?」「クラブがスポンサーになったの?」と思いきや、全て雑誌社負担とのこと。スピーチでも「今年は大変売り上げが良く」と景気の良さをアッピールして、驚かせました。 雑誌は人気の入れ替わりが激しいのですが、常に何か新しい試みが打ち出されるのも、NYの雑誌の特徴です。

 

 

 

盛り上がった『(t)here』誌創刊パーティ


METROPOLISそして注目の新しい雑誌『(t)here』http://www.theremag.com の創刊号出版記念パーティーが、Soho West Broadway のファッション・ブティックBisou Bisou http://www.bisou-bisou.com で7月22日に行なわれました。E-Mailで送られてきた招待状に、NYのファッショナブル・ピープルが集まり、夏のもう一つのHeatを打ち上げました。

『(t)here 』誌は、Laurent Girard(ローレント・ジラード)とJason Makowski(ジェイソン・マカウスキー)の2人が出版者と編集人の季刊誌です。毎号Contributors(*編注;寄稿者)として、NYの多くのアーティスト、フォトグラファー、アート・ファッションの作家たちが参加、2人が提案したものを協力して作り上げていく制作スタイル。写真が美しいトレンディーな総合アートよりの構成で、‘Summer-1’号となる創刊号の特集は、インタビュー誌やぺーパーマガジンでも活躍している写真家のLen Prince(レン・プリンス)のクールなモノトーンの写真で組まれています。Bisou Bisouでのパーティー後は、最近NYで流行っているVillageの‘クラブLIFE’で夜10時から始まった『(t)here』のもう一つのパーティーに流れてHeatが朝まで続きました。

写真家のLen Prince

Len Princeの作品

 

Bisou Bisou

並ぶ『(t)here 』

ファッションピープル、Bisou Bisouにて

ファッションピープル、Bisou Bisouにて

 

日本の出版界の落ち目と対照的に活気があるように見えるNYの出版界。でも現実には、広告主が減ったりなど良い話ばかりではなさそうなのですが、こういった空気で元気にさせるのは、彼らの前向きな思考ではないでしょうか。ブレックファースト・ミィーティングといい、不景気ならすぐに合理的かつスマートなアイディアを出す、いつまでも若く健康というアメリカ。それに比べて賄賂や夜の接待などが当たり前のような日本は、スマートさを学ぶ必要あり、そんな気がします。

*海老原嘉子
※Japan Design Netでは、『(t)here 』誌・海老原氏のご協力により、『(t)here 』誌を数冊読者プレゼントする予定です。お楽しみに。