20~21世紀のアートとデザインを集めた、年に1度の国際Art+Design Fairが、今年もニューヨーク、パーク・アベニューArmoryで、10月3日から8日まで開催されました。
1999年発足の、フェアーの中では歴史の浅いショーですが、ロンドンのHaughton Internationalがオーガナイズして、著名作家達と老舗Galleryが41社が出展していていました。多くの国際商品見本市がある中、特徴づける事が難しくなってきていますが、このショーは、世界中で20世紀と現代アート・デザインのコレクターの増加を見越して、特にこの人達の求めるものを集めています。広い会場設定で雰囲気も良く、他のショーと同じ出展者も少し違って見えます。優雅な雰囲気の会場で展示即売されていて、来場者を満足させているように見受けられました。
オープニングのギャラ・パーティーは The Bard Graduate Center(BGC)の育英事業のための資金集めのパーティーが行われました。このThe Bard Graduate Center: for Studies in the Decorative Arts, Design and Culture(通称BGC)は、ウェストの86丁目にあります。1993年に創設の文化装飾的な応用芸術の歴史を学びながら、MA, Ph.Dの取得出来る学校で、タウンハウスのBGC Galleryでは常に装飾アート・デザインの展覧会が催されています。
今回は特別展示として、BGC Galleryが2010年に企画している「Knoll テキスタイルの歴史展」の一部を「Art+Design Fair」で展示紹介しました。Proenza Schoulerコレクションになり、モダン・インテリア・アワード受賞のNYのデザイナー・チーム、ファッションのジャック・マッカラック(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)が、最新のKnollテキスタイルをデザインしていますが、今回の展示には歴史展と同時に、学生達のリサーチの他、このインテリア・テキスタイルを使って、ファッションのコート・ジャケットをデザイン展示していました。
今年、フェアの出展者は世界中から集まっています。20世紀クラシックと言われるアートとデザイン・ジュエリーなどのヨーロッパ、アメリカのディーラーに加えて、新しくレバノン(Lebanon)、シリアのダマスク(Damascus, Syria)、アントワープ(Antwerp)と幅広い層が出品していました。
会場の所々に大きな壷に生けられた緑のインストレーションはロンドンのLavendrs BlueのMarian+Victoriaの制作との事、壷はMaison Gerard社の展示で、デンマークで生まれ、1979年に萩で学び、1986年から1987年まで日本に住んでいたという作家、Per Weissの作品。
Waxler Galleryで展示している日本の竹かと思わせるMatthias Pliessniのベンチは、蒸気で曲げた樫の木の細かい細工で目にとまりました。ここに1985年にGallery 91でプロトタイプで発表したThomas Huckerの椅子が、スイスの梨の木素材で新たに制作され展示されていて、シンプルなランプと共に健在ぶりを発揮しており、懐かしい作品に会えた感じでした。
Dai Ichi Artsの中島晴美の作品と、韓国のCaroline YiCahengの細かい蝶の陶器を植え込ませた着物の形の作品も、皆の目を引いていました。
他には、80年始めからコンテンポラリー・アート・ジュエリーの作家を集めてプロモートしているCharon Kransen Arts。日本人作家、韓国人作家の作品も増えてきていて、彼がジュエリーのアートー・シーンのひとつを作っているように思いました。
海外でも評判の良い日本の作品群、陶器、竹などは、ここでも海外のディーラーの目利きによって選ばれ、育てられているのを感じました。
ジャパン・ソサエティー(JS)のJSギャラリーにて、2009年1月11日まで『New Bamboo ~竹の新世界~』展が開催されています。
伝統的な竹篭と機能性などの日本の竹工芸の素晴らしさは古くから認められていましたが、最近になってアートとして日本以外でのコレターが増えはじめ、竹工芸を取り巻く環境が変わってきているようです。
今回のJSギャラリーの展示は従来の一連の竹芸展とは異なり、日本でも見る事の出来ない、世界で初めての大掛かりで新しい方向性を国際的に示す、竹の『New Bamboo ~竹の新世界~』展です。この展覧会はJSギャラリー・ディレクター、ジョー・アール監修により、幅広い年齢層の作家23名の約90点を紹介、細部に至るまで計算されたコンピューター・デザインを駆使した華奢な細工や泥の塊のような重量感のある作品、独創性のある彫刻的な作品などで、これからの竹の将来に夢を感じさせる展覧会です。
竹芸品は16世紀以前には芸術品としては認識されておらず、実用的な竹篭が数千年にわたって作られてきて、竹工芸家が作品に自身の名を記すようになったのは1870年以降のことだそうです。
そして次世代の作家の作品を幅広く集めた、この『New Bamboo』展では、竹の従来の限界を超えた、単なる日本人の美意識ではない様々な価値観が混合しています。主に熱心なアメリカの収集家に支持されて、竹芸は技能と革新の黄金時代に移行しているようです。
『New Bamboo』展は、JS1階のロビーから始まります。池の中に作られた川名哲紀(1945‐ 勅使河原蒼風に師事した)の作品は、JSがこの展覧会の為に制作を依頼し、茶室の原点である囲いに着想を得て創作されたもので、『囲い』と名づけられています。その川名の作品に呼応したアメリカ人作家スティブン・タラスニックの作品がロビーを飾り、竹という素材を介して国境を超えた対話を繰り広げています。
展覧会はギャラリー内へと続き、『器から彫刻へ』『各地の巨匠たち』『個々の表現』『新たな行方』という4セクションに分かれて展開していきます。
『器から彫刻へ』の第1のセクションでは、本間一秋(1930‐)とその息子・本間秀昭(1959‐)の作品で始まります。
『各地の巨匠たち』セクションでは、伝統的な竹工芸界に身を置く作家の作品を取り上げ、八子鳳堂(1940‐)の内面世界を表現する作風を追求しています。割れた竹の独特の美しさを用いた大作です。
第3のセクション『個々の表現』では従来の竹彫刻の限界を押し広げている二人の作家に焦点を絞っています。竹編みの家に生まれた池田巌(1940年‐)の、つやのある漆を何層も塗った竹の幹を打ち砕き、偶然の成り行きに任せた彫刻作品と、植松竹邑(1947年‐)のファイバーアートを思わせる、自由な発想でいて、技術的な完璧さを出す作品。本展では、クラーク日本美術・文化研究センター(カリフォルニア州ハンフォード)が近年収集した植松の代表作が初公開されています。
最後のセクションの『新たな行方』では、川島茂雄(1958‐)の、小さな作品にも竹を凧糸で縛る手法を用いて、繊細に見える興味深い作品や、長倉健一(1952‐)の竹の特質を生かし、驚くほどの技法で竹を制御することで人間の顔・体の形を表現した作品、長い間アメリカの工芸界に身をおいた米沢二郎(1950‐)の作品、最年配の本田聖流(しょうりゅう)(1951‐)による未完成の花篭を熱湯で柔らかくし、練って形にしたというへびの様な細い作品。そして、六角形に編んだ薄く切った竹から連続した不思議で象徴的な形の作品の森上仁(1955‐)等、23名の作品が展示されています。
この展覧会から、日本が最近流行語にしているジャパン・ブランドとかクール・ジャパンの本当の意味は、こういう「日本的であること」に斬新性が見出されて、世界で受け入れられる本物の、このような作品群を言うのでは、と感じます。また、このような作品の課題を与え、育ててくれているのが、日本でなくアメリカのコレクターだというのも考えさせられました。
※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影