2010年10月30日から2011年1月3日の期間、NY近代美術館MoMAで「Small Scale, Big Change: New Architectures of Social Engagement」が開催されました。この展覧会は、恵まれない地域のための革新的な11の建築プロジェクトを紹介するものです。地域社会の経済的負担や社会的負担を、建築によってどのように改善できるかに焦点を当てています。
プロジェクトは、構築済みのもの、現在進行形のもの、実行予定のものなど様々です。会場には、プロジェクトに使用された素材、模型、ドローイング、ビデオ、大版写真、スケッチ等が展示されました。■ Primary School
1999-2001
Gando, Burkina Faso
Diébédo Francis Kéré
【 写真 9~13 】
 

【写真1】

 建築家Diébédo Francis Kéréは、自身がまだ建築を学ぶ学生だった頃に、故郷のGando小学校が荒廃状態にあることを知ります。そこで彼は、Gandoに学校を建設するためのプロジェクトを立ち上げ、より良い学校を作るための組織を結成しました。
彼は現地の伝統を踏襲し、日干しレンガを使った小学校を設計します。日干しレンガは、その地域で簡単に手に入り、丈夫な素材でありながら軽視されがちでした。しかし、学校の建設資材として耐えうるだけの強度を持ち合わせているのです。耐久性の高いレンガを作るために、レンガを圧縮する人力プレス機を導入しました。
屋根は、雨と熱から壁を保護するように、大きく張り出したデザインが施されました。また、天井と屋根の間に通気スペースを作り、空気循環を向上させました。
建設の進行に伴い、訓練された地域の人々は協力して建設作業を行いました。レンガは人の手で組み立てられ、屋根の構造は大型機械を使用せずに人の手で溶接されました。
 

写真2】

 「Primary School」の入校希望者は、2001年の開校以来9年目にして、定員数を遥かに超えるほどになりました。その後、国際的に成果が認められたため、教育者のための学校施設や住居も建設されるまでになりました。今日のプロジェクトを通して、1人の建築家が、非常に貧しい環境にあるコミュニティーに、ポジティブな効果を与えることが出来るという手本を示したのです。

■ METI – Handmade School
2004-06
Rudrapur, Bangladesh
Anna Heringer and Eike Roswag
【 写真 14~16 】
2002年当時、建築科の学生だったAnne Heringerはクラスメイトと、バングラデシュの村や都市の経済構造の分析を行いました。この分析で、村人の教育を受ける機会が不足していることがわかりました。そして彼女は修士論文としてMETI-HANDMADE SCHOOLを設計します。2004年、村の学校を運営するRudrapur地区の非政府組織に提案したところ、彼女のデザインが採用されました。
建設計画と資金集めに1年を費やした後、2005年にプロジェクトを開始。ベルリンの建築家Eike Roswagが現場監督を引き受け、指導を行いました。
構造は主に土で作られ、地域の伝統的な建築材料である粘土、砂、耐久性を保つためのワラが使われました。また、建物内部壁に防風層を設けるなど、地域の伝統的な建設方法に多くの改良が加えられました。
地域の居住者や非熟練労働者は建築の訓練を受け、すべての工事を自分たちの手で完成させました。その結果、3つの室内教室が完成しました。
「METI – Handmade School」は、伝統的な方法と材料への革新的なアプローチで、村人の建築への関心を刺激し、また、Rudrapurのコミュニティーにおける建物の新しい基準を作ったのです。

【写真3】

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■ Casa Familiar: Living Rooms at the Border and Senior Housing with Childcare
2001-present
San Ysidro, California
Estudio Teddy Cruz
【 写真 18~20 】
建築家Teddy Cruzは、アメリカのサンディエゴとメキシコのチファナの国境をまたいだところに事務所を構えていました。仕事に必要な資材や人材等が国境を行き来しなければならず、このことは彼らにとって重要な課題でした。

【写真18】

 

 2001年、彼は、地域密着型の非政府団体「Casa Familiar」と共に、サンイシドロ地区で公営住宅団地パイロット事業を開始します。Casa Familiarによると、サンイシドロ住民の約3分の2は複合家族で、その平均収入は他の区より60%も下回ることがわかりました。彼らのチームは、新く安価な住居を提供するに加えて、政治、経済、社会的変化を訴えて解決しなければなりませんでした。また彼は、この地域で当たり前のように無秩序な開発が行われていることを知り、これを食い止めるため、複合住宅システムを創ることを目標としました。
10年間に渡ったこのプロジェクトは、次の新しいプロジェクトへと繋がって行きました。彼は、建築への実用的、統合的なアプローチで地域の構造を理解し、それを制度化するプロジェクトを創ることを追求し続けました。

【写真19】

■ Quinta Monroy Housing
2003-05
Iquique, Chile
Elemental
【 写真 22~24 】
この建築を担当した「Elemental」は、南米チリ・サンチアゴの建築家Alejandro Aravena率いる、エンジニア、ソーシャルワーカー労働者のグループです。チリにある石油会社とPontificiaカトリック大学にサポートされています。
2003年にチリ政府は、人口20万人の砂漠都市Iquiqueの1.25エーカーの敷地に、低所得者に提供する約100戸から成る集合住宅を作るようElementalに依頼しました。土地、インフラストラクチャー、建物の単位当たり7,500ドルの予算でおさめるというものでした。
Elementalは、組み込みセグメントで構成された伝統的な長屋のバリエーションを開発し、9カ月の間に93の鉄筋コンクリート造のユニットを建設しました。基本の型が出来上がった時点で住人が移り住み、その後は彼らの自費で、それぞれの予算に合わせたスペースをカスタマイズしながら仕上げて行く仕組みになっています。
その後もElementalは、ラテンアメリカ等に、拡大可能型のユニットを1,000以上造り上げ、現在更に1,000件を開発中です。
Elementalは、この建築モデルがこれからのハウジングの永続的な解決策になることを立証しています。

【写真20】

■ Metro Cable
2007-10
Caracas, Venezuela
Urban-Think Tank
【 写真 26~31 】
ベネズエラの首都カラカスの中心部を囲む丘陵は、長い間、貧しい農村部からの移民が集まる領域でした。都市の人口500万人のうち約60%がこの領域に住んでいると推定されています。ところが、彼等が不法なステイタスなので、この領域には公共交通機関や、その他の公共サービスが正式に配備されていませんでした。その結果、この街は他の街と区別され、社会的な格差を受けてきました。
2003年、建築家のAlfredo Brillembourgと Urban-Think Tankの設立者の1人、Hubert Klumpnerが、2つの地域とカラカスの公共交通機関を結ぶ、ケーブルカー設備の建設を市に提案しました。その計画は、ケーブルカー設立を中心に、「プラグ・イン」と呼ばれるハウジングを各駅に建設するというものです。
チャベス大統領は計画を全面的に受け入れました。そして開発にあたり、2006年5月、オーストリアのゴンドラ・エンジニアと合弁事業を始めました。 まず5つのステーションが完成し、その後2010年1月にケーブルカーラインのサービスが始まりました。政治的な要素でいくつかの変更があり、まだ実現していない部分もありますが、カラカスの社会構造の変化に大きく貢献しています。

【写真21】

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■ Housing for the Fishermen of Tyre
1998-2008
Tyre, Lebanon
Hashim Sarkis A.L.U.D.
【 写真 32~34 】
ベイルートの南に位置する古代都市Tyreは、長い間、闘争と混乱の絶えない不安定な社会基盤に苦しんできました。地域の漁師たちの多くは1日15ドル程度の稼ぎですが、稼ぎの主となる深海釣りがイスラエルとの長年の紛争に妨害されていました。レバノン内戦中の1984年に、Tyreはユネスコの世界遺産リストに登録されます。この結果、漁師たちは人口過密で不衛生な海岸沿いの生活を強いられながら、新しい建築に関する厳しい規制も受けることになってしまいました。そこで漁師たちは、「Al Baqaa住宅協同組合」を形成し、ギリシャ正教会に土地の寄付を依頼しました。そして、その教えや実践が長い間イスラム界で注目されていた建築家Hashim Sarkisとパートナーを組みました。
10年間にも及ぶこの共同プロジェクトの中でHashim Sarkisは、漁師たちの住居を建設するという大きなプロジェクトを少しの資金で試行しました。また、公共と個人の場のバランス、また漁師の伝統的なライフスタイルを保ちながら、コミュニティーとして社会に対応できる、活気に満ちた近代的なハウジングを開発しました。
【写真32】
■ Inner-City Arts
1993-2008
Los Angeles, California
Michael Maltzan Architecture
【 写真 36~38 】
ロサンゼルスの貧しい地区にあるInner-City Artsは、危険にさらされている子供達を保護し、且つアートに触れる機会を提供する施設です。公立学校の事務官Bob BatesとIrwin Jaegerによって設立されました。組織は、年間1万人の子供達に、アーティストが指導する授業を無料で提供しています。1978年に行われた厳しい税金調整で、カリフォルニアの多くの公立学校から美術の科目が廃止されたことへの埋め合わせでもありました。
【写真33】
 Inner-City Artsは設立から数年間、一時的な場所で活動していましたが、ロサンゼルスSkid Raw地区に放置されていた車庫を改装して新しい場所を構えるために、建築家Michael Maltzanと組みました。そして組織が成長していくに従って、3つの機能に別れた1エーカーのキャンパスが建ちました。
鮮やかなオレンジがアクセントの抽象的な形をもつスペースは、子供達が主に創作活動を発揮する場所です。概して危険のある外部から守られた庭。彫刻的なセラミックのタワーはキャンパスの中心部にあり、学校の灯台です。Maltzanは、このプロジェクトに関わった15年間の活動を通して創造性を駆り立て、ユートピアに近い街を現実化できるという、建築の可能性を証明しています。■ Red Location Museum of Struggle
1998-2005
Port Elizabeth, South Africa
Noero Wolff Architects
【 写真 40~42 】
【写真34】
 1902年に設立されたRed Locationは、黒人労働者への職務のために認定された、南アフリカで最も古い黒人居住区のひとつです。この地は1948年初頭に、反アパルトヘイト運動の中心の一つに発展しました。アパルトヘイトの廃止に続く1994年、Port Elizabethの街はこの時代を記憶に留めるための博物館の建設を計画します。1998年の国際コンペで、建築家Noero Wolffがこの博物館設立を中心にした大きな都市開発プロジェクトの権利を獲得しました。
博物館の建設が進むと地元基盤の委員会が設けられ、地元住民の要求を受け始めました。その要求から、建設作業未経験の地元住民に、トレーニングさせたり仕事を与えたりするなどして、コミュニティーをこのプロジェクトに一体化させました。
博物館は、実用的な外観を持ちつつ、工業的な環境に打ち解けるよう、主にコンクリートや鉄で構成されています。住宅、図書館、都市アーカイブ、およびその他の共同スペースを含むRed Locationのためのこの計画は、長い間黒人居住区を特徴づけていたこの土地を隔離から戻すことを志し、新しい都市開発、都市基盤、そして文化の中心になることを目指しています。
【写真35】
■ Manguinhos Complex
2005-10
Rio de Janeiro, Brazil
Jorge Mario Jáuregui / Metrópolis Porjectos Urbanos

【 写真 43 】
リオデジャネイロの北部の大都市Manguinhosは、2万8千人もの居住者を非公式にもつ「ファベラ」、いわゆるスラム街地区です。住民は、非常に高い犯罪率と公共の場や施設の不足に苦しんでいました。Jorge Mario Jáureguiは、スラム街をアップ・グレードさせた先駆者です。1993年に彼はリオの「ファベラ地区」プログラムから始め、2005年に市より「近代都市計画」のコミッションを受けます。身近な問題から長い目でみた問題まで徹底的に分析し、街を発展させていきました。
【写真36】
 その結果、主要な鉄道をこの地区の主要道路に繋げる、その下に公園の建設計画が立てられました。この鉄道の誕生はManguinhosとRioの間にあった物理的、精神的な壁を取り除くことになり、公園は地域をつなぐ待合所となりました。この建築は既存する住居の移動を最低限に押さえたアプローチとなりました。コミュニティー全体が新しい基盤を喜び、既存するネットワークは出来るだけそのままで済む方法を提示したのです。このプロジェクトは、スラム街のアップグレードに新たなアプローチを示しています。 【写真37】
【写真38】 【写真39】 【写真40】 【写真41】 【写真42】 【写真43】
【写真44】