第39回: MoMA QNS  増改築工事中のMoMA特別展示場 (2002/8/7)


マンハッタンの近代美術館(MoMA)が、増改築工事の間の2005年まで、元の場所である53丁目を閉館して、マンハッタン島から橋を渡ったクイーンズ地区に特別展示会場を作り、運営しています。
このMoMA QNS(クイーンズ)、6月29日のオープニングには、マンハッタンからクイーンズまで作品を運ぶ行列のイベントを行い、幕開けとなりました。

マンハッタンからMoMA QNSに行くには地下鉄などでも便利ですが、53丁目の旧MoMA前から「QUEENS ARTLINK」というフリーで乗ることができるシャトル・バスが10~16時まで運行していて、たとえば毎時45分に出るバスは、MoMA QNS ~ P.S.1 Contemporary Art Center ~ AMERICAN MUSEUM OF THE MOVING IMAGE ~ ISAMU NOGUCHI GARDEN MUSEUMを回ります。
秋からはMUSEUM OF AFRICAN AMERICAN ART ~ SOCRATES SCULPTURE PARKも追加され、とても便利なQUEENS MUSEUM ツアーができるサービスになり、全て見ると盛り沢山の1日コースになります。

明るいブルーカラーで塗られたMoMA QNS。外部から見ると2階建てですが、内部は1層だけのなので、今までのMoMAを期待すると小さくて、展示も少なく物足りないのですが、入ると右手前に映像とコンピューターを使って、谷口吉生氏デザインのNEW MoMAの構想などをバーチャルに展示しています。オープニング・イベントの映像も参加したように見ることができますし、MoMAの紹介も簡潔です。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)は3人の市民、リリー・ブリス、メアリー・Q・サリバン、アビー・O・ロックフェラーによって、1929年に近・現代美術を広く一般に紹介することを目的に設立されたそうです。設立当初、8枚の版画と1枚のドローイングから始まったコレクションが今では10万点を越えています。
このMoMA QNSは元ステープラー(ホッチキッス)工場だった建物を改築したもので、屋内はクーパー・ロバートソン&パートナーズ建築事務所によって最新技術を備えた保管倉庫とリサーチスペースに造り替えられ、2005年の新本館オープン以後も、それら重要な機能は継続して利用されるそうです。案内表示はロサンゼルスのマイケル・マルツアン建築事務所との共同デザインです。

MoMA QNS

MoMA QNS幕開の作品を運ぶイベント(映像展示より)

MoMA QNS

MoMA QNS幕開の作品を運ぶイベント(映像展示より)

MoMA QNS内部

MoMA QNS内部

MoMA QNS内部

MoMA QNS内部

 

MoMA QNS「Autobodies: Speed, Sport, Transport」


今回の展示の中で、デザイン関係のものだけPick Upしてみました。
一つは「Autobodies: Speed, Sport, Transport」と題されたパーマネント(永久)・コレクションの6台の車の展示で、6月29日から9月16日まで展示されます。生活文化の中で、自動車は家具やファッション、エレクトリックと同じ様に、重要な産業文明として、大事な位置を占めています。

車を選ぶ判断をする時、経済的、機能的、美感などの点で評価をするのがほとんどかと思いますが、MoMAのこのコレクションでは、これらにプラスして、50年以上に及ぶデザイン史を語る存在として、車をデザインしたデザイナーの才能や、スタイル・優雅さなどといった要素と、他のプロダクト・デザインのコレクションと同じように、大量生産されていて、一般消費者が買えるもの、という基準で6台が選ばれています。これを「スピード」「スポーツ(娯楽)」「輸送」というテーマに分けて展示した、と説明しています。もっとも私にはMoMAで見るブランド車という印象も受けましたが。

「Autobodies: Speed, Sport, Transport」

手前はスマート、右奥はフォルクス・ワーゲンのビートル、新旧2台の人気小型車

手前はジープ

ピニン・ファリーナ(Pinin Farina)のチシタリア(Cisitalia)

 

MoMA QNS「TEMPO」


もう一つ、「TEMPO」展(6月29日から9月9日まで)が行われています。
この展示会は、「時間」を異なった性質の規則 ── 現象学、経験論、政論、そして架空論的な面から注目し、アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパのコンテンポラリーアーティストによる作品で構成されています。
展示会は5つのマルチメディアのインスタレーションに分けられているのですが、時間という枠における異なった文化を考察しています。その「TEMPO」展の中から最初のテーマ、「Time Collapsed(崩壊した時)」を紹介します。

「Time Collapsed(崩壊した時)」では掛け時計、腕時計、メトロノームの不規則な不協和音が空間を共有しています。
Andrea Zittel の 「A-Z Time Trials of 1999」の5つの多角形時計は、当たり前になっている時計のシステムを遊ばせた形となっていて、所有者のニーズに基づいて時間を量る単位を変えています。ある時計は一週間全体を、別の時計は三日間、もしくは週末2日のみを、さらに別の時計は三週間の仕事と一週間のバケーション…というように、それぞれが別なライフスタイルを表しています。

それと似ているのが、Alighiero e Boetti の 「Watches of 1977-94」で、16個の腕時計は秒数ではなく、連続した年数を単位としています。

「Local Time of 1987-89」で Jean-Luc Vilmouth は、100組の掛け時計とハンマーを使った壁上にインスタレーションを行いました。
一方で、革命的なソビエト連邦の五カ年計画による理想主義を、同時に近代初期の機械化と大量生産による資本主義をほのめかしています。100個のハンマーにはフランス語で「増やす」という意味の言葉が書かれており‘消滅されるべき怠慢で無な時間に反して、拡大した生産性に基づいた労働と時間の図形’を表現しているそうです。

「TEMPO」

“A-Z Time Trials of 1999”

Watches of 1977-94

Local Time of 1987-89

Local Time of 1987-89 部分

Rinke Klaus Rink’s Installation
1930年代の両面から見れる列車用時計で、本当の線路に固定しインストレーションのタイトルが “When Does Baden-Baden Stop at This Traib?”
Albert Einstein

 

ロックフェラーセンターの「transmission(トランスミッション)」展


マンハッタンのロックフェラーセンターにて、国際的に知られるマルチメディア・アーティストのNam June Paik(ナム・ジュン・パイク)のインスタレーション展が9月2日まで行われています。
ナム・ジュン・パイクは過去40年にわたって、Video、グローバル・テレビジョン、フィルム・パフォーマンスなどのインスタレーションで活躍してきて、世界中に多くの影響を与えてきた作家です。2000年のグッゲンハイム美術館をはじめ、1991年のスイス、1982年のウイットニー美術館、他にも60あまりの国際的な展覧会を行ってきました。
1932年韓国生まれ、朝鮮戦争とともに日本に渡り、東京大学を卒業した後、ジョン・ケージ他、いろいろなアーティストとのコラボレーションをしてきました。中でも、レーザーの専門家 Norman Ballard とのコラボレーションは、今回の作品を含め20年以上にわたるものです。1995年にはドイツのギャラリーでも展覧会を行っています。

今回の作品は、33フィートの1930年代のラジオ電波塔をかたどったタワーが中央に設置され、電波塔を囲む29年型フォードや59年型ビュイックなど16台の銀色に塗装されたクラシックカーの中から旧型のステレオやスピーカーを通してモーツアルトの曲が流れて来ると言う設定です。

‘20世紀の産物が化石となってビルの谷間に現れ、20世紀の革新技術を象徴する放送と車をネットワークのあるロックフェラーセンターに設置し、米国消費社会の文化の繁栄と危機を考える’というアート・インスタレーション。
電波塔からは、夜9時から11時までレーザー光線による、ショーが行われカラフルな電波の模様が、ロックフェラーセンターのテントの上に写しだされ、音楽にあわせて動く、夏の野外ショーとして皆楽しんでいます。昼間見る銀色の車群も、旅行者や通行人の、目をとめて、迫力があり、良く見ると皆知ってる車なので、作品のコンセプトや暗くなると行われるレーザーショーのことも知らずでも、皆、記念撮影をしてEnjoyしています。

今回は日本で最初のレーシング・カーA級ライセンスを取った私の、車好きだった頃を思い出したので、全く違う展覧会から車をモチフにした2題をとりあげました。

ロックフェラーセンターに掲げられたポスター

1920年代 Ford  右は Ford Model A

1920、30年代 左から Plymouth、Ford Master Deluxe

1950年代 左から Pontiac、Edsel/Corsir、Buick

1940年代 左からDodge、DeSato、Chevroley、Keiser

1920年代 左から Msater Delux、Ford マーキュリー

 


※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影