第10回 新しいアートの動きをアメリカン・クラフト美術館と SoHoのアートギャラリーから見る

第10回: 新しいアートの動きをアメリカン・クラフト美術館と SOHOのアートギャラリーから見る 2000/3/8   ● アメリカン・クラフト美術館『クラフトの定義:ニューミリニアムのコレクション』 NY近代美術館の前にあるアメリカン・クラフト美術館。昔から立派な空間で、アメリカの工芸を専門に展示していますが、今また新しい動きを盛んにしています。以前、クーパーウイット・ナショナル・デザイン・ミュージアムのキューレーターだったデビット・マックファダン(David McFadden)氏が、ここのチーフ・キューレーターとして呼ばれて、常に「クラフト」「アート」「デザイン」の定義の問いかけをしています。 アメリカン・クラフト美術館外景 ジャヴアメリカン・クラフト美術館入口 ミュージアムにも、今までの工芸愛好に偏った層に加えて、デザイン寄りのファンも増えてきて、建物も来年着工で改装されることもあり、今後が楽しみ€ネ美術館です。ここで行われている『クラフトの定義:ニューミリニアムのコレクション』という展覧会。25年のコレクションからガラス、陶芸、金属、ファイバー、木工作品など150点あまりの、これまで見せていなかった作品を4つの部屋に分けて展示しています(2月9日~5月7日)。出品作家も大御所のPeter Voulkos(陶芸)、Jack Lenor Larsen(織物)、 Lenore Tawney(ファイバー)、 Robert Arneson(陶芸)から、木工のWendell Castle、 ガラスのDale Chihuly 。日本のガラス工芸の大家である藤田喬平など。他にもFrank GehryやGaetano Pesceの家具があったり、三宅一生の服、Toshiko Takaezu(陶芸)や、Dakota Jackson、Thomas Loeser、Wendy Maruyamaの家具。James D. Makinsの陶磁器等、幅広い作家達の作品のコレクションが各部屋に分かれて飾られています。そして‘チャレンジング’の部屋では、テクノロジーや新しい素材も「これからのクラフトの課題」として取り組み一品ものから量産も手がける若手の作家達が紹介されています。Marek Cecula(陶芸)、Stanley Lechtzin(CAD/CAMを使って作る金属工芸)、スキャンして織りあげるジャガードという日本の山口英夫の作品は、すばらしい舞台に飾られて、ひときわ輝いて見えます。プラスティックに皺寄せを入れた「クリンクル」ランプのLyn Godley 、ロシア生まれのConstantine Boymなど。 他にも、新世紀の幕開けにミュージアムのコレクションをご披露しながら「これからのクラフトの定義について皆で考える展覧会」といった感じがしました。 内部展示風景 フランク・ゲーリーの家具 Wendell CastleのMusic Rack アメリカン・クラフト・ミュージアムのショップ全景 Philip Moulthrop の白松のモザイク細工のボール1996年作(写真撮影:Eva Heyd) 山口英夫のコンピューター・スキャンした「しだの葉」のジャガード     ● 今、話題のCRG Gallery ギャラリーCRGのオーナーの一人リチャード.デスロッシュ(RICHARD DESROCHE)とアーティストのロバート・ベック(ROBERT BECK) Sohoでは、Galley 91の隣りに、マデソン・アベニューから移ってきたCRG Gallery(Carla Chammas, Ricchard Desroche, Glenn McMillanの頭文字)が、センセーショナルな展覧会を開き2月19日オープンしました。このギャラリーの若いオーナー3人ですが、アップタウンでのコレクターとコネクションを持っているらしく、最初の頃から話題展を開催しています。今回の”Robert Beck”の『Nature Morte』(自然死とでも訳すのでしょうか)と題された個展は、オープニング時にギャラリーの前に山のように花束がつまれ、それを見て皆、昨年のジョン・ケネディー・ジュニアを思い起こしました。その後も毎日花束がつまれ、隣りのGallery 91には毎日「誰が亡くなったのか?」と人が尋ねに入ってきます。 Robert Beckはぴんぴんしていて、彼の作品は幼児期の思い出や、生い立ちを作品にしているもので、外の花束もそのメモリーの一つの作品とのこと。3月25日まで行われますが、センセーションを死んだ気でやっているのですから話題になるのは当然でしょうか?  

第9回 寒いNYでのアクセント・オン・デザイン・ショーに見るアジアスタイルの流行

第9回: 寒いNYでのアクセント・オン・デザイン・ショーに見る アジアスタイルの流行 2000/2/9 ● インターナショナル・ギフトショー「アクセント・オン・デザイン」 今冬のNYは久しぶりにNYらしい厳しい寒さが続いています。 ここ7~8年暖かい冬でしたが、以前なら年に1~2回は車が隠れる高さの雪の日があったり、車のキーを差し込むのに(キーの差込口が)凍ってしまって入らないので、まずキーの穴にライターのような特別のヒーターをシューと入れて溶かしてからキーを入れる必要があったり、ドアーのウインドーを下げても氷がガラスの様にもう一枚張ってある、といった時が何度かありました。   ジャヴィッツ・コンベンション・センター そんな中で慣例の「インターナショナル・ギフトショー138回」は、1月22日から1月27日までジャコブ・ジャビッツ・コンベンション・センターで行われました。クリスマス商品の並ぶ8月と違って、気候のせいもあり、客足はにぶるのですが、このショウは今年の春からの新商品の傾向が見られます。 今回の『アクセント・オン・デザイン』賞はAmeico のブースに出展していたイタリーのVaritasの文具と、イタリーから新しく出た家庭用品のMAGISのブースに。それと長年続けて出展している努力賞として、ボストンの日系のマサさんのEastern Accentと、最初はGallery 91からスタートしたNinaさんのArchipelago(ベッド・バス・リネンで大成功した)ブースに、それぞれ与えられました。   今年のアクセント・オン・デザイン賞に選ばれたVARITASの文具商品 MAGIS、アクセント・オン・デザイン賞 Eastern Accent、アクセント・オン・デザイン努力賞 Archipelago、アクセント・オン・デザイン努力賞     ● 大評判の‘シャープ・バブル’ Gallery 91のブースでは2000年の文字を切り抜いてショウケースにして、時計、デスク・アクセサリーなどをディスプレイ。特に今年はD-Brosの紙製品を出したのが大変人気を呼んだのと、ショウの入り口にも飾られて評判を呼んだシャープ・バブル(ペーパーカッター・ペーパーウエイト・オブジェの3機能を持つ)が反響を呼びました。このシャープ・バブルは3年前、岐阜の関市とIDNFで行われた「国際学生カット・デザイン・コンペ」のグランプリに輝いた作品で、審査員には国際的に活躍するEcco DesignのEric Chan、 石岡瑛子、木村一男、 David McFadden、 Lella Vigenelli、 Tucker Viemeisterをむかえて選定されたものです。細かいディテールにもこだわって、デザイナーのゲリー夏目と関のニッケン刃物とのやりとりの結果生まれた、みごとな新商品です。大きな泡の中に鋭いカミソリと針のようなピン類を閉じ込めて日常的には握ることの出来ない物を、手の平で遊ぶことができ、切れあじ抜群、刃の位置変えも可能で、刃こぼれしても反転して一つの刃で4回使えるすぐれものです。 シャープ・バブル(国際学生カットデザイン・コンペのグランプリ作品を関市で商品化して世界の市場に初お目見え、話題を呼んだ)   アクセント・オン・デザイン入り口のディスプレイ・ケースに飾られたGallery 91のシャープ・バブル   アクセント・オン・デザイン全景 Gallery 91ブースのディスプレイ     ● Asian Style ショウ全体ではなんといっても「アジアン・スタイル」の人気と流行を感じさせられました。ドイツのASA社写真下は、ヨーロッパ・スタイルの陶器で 知られていたのですが、なんとこの変化。日本人では出せない、アジアン・スタイルをみごとに商品にしていて、それだけ世界の市場があるのかと考えさせられました。他のアジアン・スタイルも、日系とかアジア人のオーナーではないのが面白いところ。コストの見合うアジアの国で製造するのは今までも当たり前でしたが、このアジア・ブームの浸透ぶりには、びっくりしました。   ドイツ・ASA社 ドイツ・ASA社 ドイツ・ASA社 数々のアジアン・スタイル 数々のアジアン・スタイル 数々のアジアン・スタイル 数々のアジアン・スタイル 数々のアジアン・スタイル   NYの新年郵便、中華切手 今年は2月5日が中国のお正月。休みのないNYの中華街もこの日ばかりはいっせいに店を閉じて、新年を祝っています。アメリカの郵便局では1月の中頃から、毎年その年の十二支の切手を売りだします。日本の年賀郵便に間に合うようにだしてくれたら使えるのに、といつも残念に思うのですが、これは中国と日本の歴史の違い、やはり中国の重みをこんな所で感じたりしています。

第8回 ニューミレニアムに向けての2000個のオブジェ展

第8回: ニューミレニアムに向けての2000個のオブジェ展 2 0 0 0/1/2 6 ● 2000年を迎えたNYの素顔 NYのNew Millinniumは、タイムズ・スクエアーの年越し騒ぎのイベントにエネルギーを消耗仕切ったのか、とても静かで、ほとんど普段の土・日といった感じで年が明けてしまいました。 NYの新年は普通1月1日だけが休みなので、日本のお正月のイメージはありません。ですが面白いことに、毎年1月4~8日の間、Xmasツリーをあちこちの通りに捨てる行事(?)があります。 これが毎年のことなので、何か日本の門松を連想させ、私にはお正月っぽさを感じさせます。SoHoや、倉庫ばかりのように見えるチェルシーあたりでも、本物のもみの木のクリスマス・ツリーがたくさん捨ててあって、その香りが漂っています。もちろん、皆さんこれを飾っていたわけで、まだまだニューヨーカーもクリスチャンなのか伝統が残っていることを感じます。 捨てられたツリー /Soho 捨てられたツリー /チェルシー     ● Gallery91の2000年 SoHoのGallery 91で「ニューミレニアムに向けての2000個のオブジェ展、パート1」が1月12日より3月11日まで開かれています。この展覧会では‘紙製品’をテーマに、カレンダー、時計、ポスター、グラフィックを中心におよそ300点の作品が展示されています。世界中のそうそうたるグラフィックデザイナーのオリジナルカレンダーやペーパー・グッズが多数出品されており、たとえば、松永真氏のテーマポスター*1を皮切りに、プッシュピンスタジオ、レーザーフィッシュのカレンダー、松本高明のワールド・コンペ・ポスター、日本から田中一光、黒田征太郎/K2、小島良平のカレンダー、内田繁のムーンライト、茶谷正洋のカード他多数の作品が展示されています。素材を生かしてるだけではなく、それらの多様性と繊細な表現の作品群は、ニューヨーカーに感激を与えています。 ニューミレニアムに向けての2000個のオブジェ展 ニューミレニアムに向けての2000個のオブジェ展 *1;松永真作のGallery 91「2000 Objects for New Millennium」ポスター   この2000個オブジェ展パート1の作品には、日本の左合ひとみによる通産大臣賞受賞のポップアップカレンダー*2。D-BROSの渡辺良重の楽しいプロダクトの一つ、食事が楽しくなりそうなプレイス・マット ── 紙のランチョンマットは動物の形のキリコミがあり、そこを立てることではし立てになる ── *3。もう一つD-BROSの植原亮輔の「A Path to the Future」と題した線路とハイウエイがデザインされたパッキングテープ*4など日本人デザイナーの作品も展示されています。NYのJOY NAGYが紙で作った鮮やかな色の花器と花、Teaセットと靴*5。ソーホーの住人NAGYの靴や花と花器は、日本の繊細なアイディアとはまた一味違い、とても明るく楽しい作品です。 建築家 茶谷正洋の有名なオリガミ建築ポップアップ・カードは、全コレクションを見ることができます。そして、彼の秘蔵コレクションとして、それぞれのオリジナル建築家のサイン入りカードや、クリントン・ブッシュ・レーガン各大統領のサイン入りホワイトハウス・カードなどが展示されています*6。この紙展、ユニークな展示構成と展覧会でNYのメトロポリス・マガジン やIDマガジンにも紹介され話題を呼んでいます。   *3;動物ランチョンマット *2;ポップアップカレンダー *4;パッキング・テープ *5;花器 *6;オリガミ建築   「ニューミレニアムに向けての2000個のオブジェ展」では、続く4・5月には‘Future Design’をテーマにして新しい素材やアイデアを展示。6月のテーマは‘ガラス’で、NYで行われる世界ガラス会議に協力しガラス作品の色々を紹介します。いずれも各界の著名デザイナーが世界中から参加します。7月からも12月までは‘環境問題’‘ニューメディア’‘日常生活用品’などのテーマに分けて、2000年の一年間を通してGallery91で2000点を展示即売します。 興味のある方は、ぜひ参加してください。 オープニングパーティにて

第7回 バルドリアのWebショップ/イッセイの展覧会

第7回: バルドリアのWebショップ/イッセイの展覧会 1 9 9 9/12/8 ● バルドリア Baldoria 北イタリー、レイク・コモの伝統ある上質のシルク、そのハンドメイドのシルクアクセサリーデザイン工房として、4代続くことで知られている(Pianezza)ピアネツァ・ファミリー。曾御祖父さんのコレジオーネ・ピアネツァ(Collezione Pianezza)の時代から、現在のパオロ・ピアネツァが引き継いで、高級ネクタイ・スカーフを手がけています。ミレニアムの終わりのこの時期に、新しいビジネス手法として、世界への情報発信を目指しオン・ラインでWebストアを開設。11月9日、NYのそうそうたる人々を招待してのお披露目パーティーが、素晴らしい眺めの会場で行われました。このバルドリア・ドット・コムの特徴は、仲買人や中間業社が入ることによりコストが上昇や、末端客の好みが作り手には伝わらないなどのビジネス形態の煩わしさをなくしたこと。顧客が好きなものを選び好きなメセージを入れてオーダーすると2週間後に直接送られるシステムになっています。   ウエブサイトを見せるMr. Paolo Pianezza 会場から見るマンハッタンの夜景 ウェブ・デザインを担当したのが、E-Commerce のスペシャリストで有名なウオーターズデザイン・ドット・コム(Watersdesign.com)で、エレガントなベスト・サイトを作り上げたと評判です。このショップにはもうひとつ特徴があり、ショッピング客の為に「アンドリア」という名のiconが、パーソナル・サービス・アシスタントとしてお客を誘導してくれます。2000柄のパターンから好みのネクタイ又はスカーフを試着して、気に入ったものをショッピング・カートに入れる。最終的に決定した商品以外も顧客データベースに記憶してくれるので、次回の買物でアドバイスが得られるなど、とても便利にできています。また、70種類のメッセージから好みを選んで、ネクタイやスカーフの端に織り込み、パーソナル・メッセージを添えて特別の贈り物に仕立て上げることもできます。バルドリア・ドット・コム のカラフルで、エレガントなストアー。お利口さんなiconの助人とユニークな発想が、新しい2000年のNYストアーや5番街、マデソン・アヴェニューに新風を巻き起こすかもしれないと思いました。 Baldoria President and Designer Baldoria.com screen Demonstration at the party   ● Issey Miyake – Making Things 三宅一生の過去30年にわたる作品が昇華された展覧会が、ニューヨークのエース・ギャラリーで開かれました。11月13日から2000年の2月29日迄行われています。この展覧会の知らせは、あまり前触れもなく、2週間位前になってNYソサエティのISSEYファンが知ったという形で、静かに進行されていたのですが、そのオープニング当日は、大きな7部屋の会場に世界中から著名アーティストやデザイナー、美術館関係者、ISSEY崇拝者等が集まり、まさに身動きできないほどの盛況でした。どの雑誌や新聞を見ても、“20世紀において最も影響を及ぼし、革新的で魅力に富んだデザイナー三宅一生”と絶賛していますが、ほんとうにすばらしい展覧会でした。ファッションだけにとどまらず、現代の情報と素材を駆使し、それを人体の空間と動きで表現したアートとして、ニューヨーカーに感銘を与えたようです。ソーホーのエース・ギャラリー近くまで行くと皆が「ISSEY」「一生」とささやいているのが聞こえてきました。11月と12月のNYソサエティでの会話は、必ずISSEY展の話題ではじまります。昨年パリのカルティエ現代美術財団で公開された展示を、NYでは美術館でなく、このエース・ギャラリーでするということも、大変な魅力です。 上3点:ルーム1の展示より   上2点;ルーム3ルーム4 展示のようす ルーム1のテーマは「ジャンピング」。鑑賞者がギャラリーに入っていくと、展示空間の服全体についたセンサーに反応して、過去10年のISSEYの作品25点からなるインスタレーションが動きだします。ルーム2は「ザ・ラボラトリー」。製造と創造のプロセスに焦点あてたセクションで「ISSEY MIYAKE MAKING THINGS」展の核心を見せる場。コンピューターを駆使したインスタレーションと展示が新鮮です。ルーム3 は「プリーツプリーズ・ゲストアーティスト・シリーズ」。他の芸術と交流しながら衣服デザインへの新たなアプローチの探求を展示。ルーム4は1枚の布を略して命名された「A-POC(エイ・ポック)」。ニットチューブが連続するロールで生み出され、その中には編み込まれた境界線に沿って切り取るだけという斬新なコンセプトの服「A-POC」。ここでは「A-POC」に覆われたマネキンが何体も繋がって展示され、そのまま大きなニットチューブにもどる光景を見せ、圧巻でした。 この展覧会では、アソシエイトとして滝沢直己氏など若手にも発表の場を与え、将来の担い手を育てている一生の姿勢も、さすがといった感じです。20世紀、世界中に知れ渡った日本のブランドに、SONYとISSEY の名があがりますが、NYに住む日本人の一人として、大変誇りに思います。 サンクスギビング・パレードの後、NYの12月の街並みはいっせいに、クリスマス・デコレーションに入ります。日本ではあまり知られていないことのようですが、NYでは誰にでも「メリークリスマス」は使いません。通常「Happy Holiday」をつかいますが、これはいくつもの宗教があることからきています。特にユダヤ人の多いNYでは「ハッピー・ハヌカ」などの方が多いような気がします。それでも一年中で一番皆が買い物をするクスマス・プレゼントの習慣は世界共通で、ショップやデパートはこの時期の売上げで年間の景気を判断するようです。今年のNYは元気が良さそうです。 *写真は、クリスマスデコレーションのデパート(メイシーズ)

第4回 夏のバケーションとビジネスを兼ねるトレードショー「インターナショナル・ギフト・ショー」

第4回: 夏のバケーションとビジネスを兼ねるトレードショー「インターナショナル・ギフト・ショー」 1 9 9 9 /9 /1 5 ●暑いさなかに行われる、世界最大規模のギフトショー 真夏のニューヨーク。昔はバケーションで2カ月休みといった店も多かったのですが、最近ではビジネス本意になり、たいていの店が営業を続けるようになりました。Jabits Center毎年、8月の第2週目に「インターナショナル・ギフト・ショー」が開かれます。この時期は、仕事とバケーションを兼ねた人たちで一層活気に満ちています。 ジャコブ・コンヴェンション・センターで1月と8月の年2回行われる、世界最大規模を誇るこのギフトショー。137回目となる今回は、全体で2600社が出展し、8月14日から19日まで開催されました。主催はGLM(ジョージ・リトル・マネージメント)社。出展内容によって、次の10部門に分かれています。 ‘アクセント・オン・デザイン’‘アットホーム’‘ミュージアムソース’‘ジャストキッド・スタッフ(子供用品)’‘一般雑貨’‘ハンドメイド’‘テーブルトップととホームウェアー’‘パーソナルアクセサリ-’‘ニューリソース’‘花と造園アクセサリー’。 海外からの出展が多いのも特徴です。オーストラリア、オーストリア、ベルギー、デンマーク、ドミニカ、フランス、ドイツ、アイルランド、イスラエル、イタリー、韓国、メキシコ、ポーランド、ポルトガル、カナダ、南アフリカ、イギリスなどの各国政府の貿易振興会後援ブースが出展。世界中から約4万5千人のバイヤーが集まり、ビジネスが行われます。   会場風景。左手がテーブルトップや一般雑貨、右手角がGallery91ブース こういったトレードショーが日本では顔見せやおひろめに終わる様ですが、ニューヨークの場合、一日何枚のオーダーを書き込めるか1日どれだけの売り上げになったかがセールスの人達やブースごとで話題で、真剣に半年分のビジネスの成果をあげていまうところがプロフェッショナルなビジネスをいう感じです。一方、ブースの設置や規則が多く、ユニオンの人しか使えない色々なルール(規則)で、高い金額を払わせられるのもアメリカのトレードショーの様です。 Zelco社のブースから新しい商品郡。足型のラバー付き体重計 Zelco社発表の新しい自動車などのロック用チェーン(伸縮自在) BENZAショップのブースに出品されていたスマートデザインの連なる花器   Javits Center New York ジャビッツセンターの入口に毎年テーマを決めて, 今年は『TIME』 Gallery 91のブース     ●アクセント・オン・デザイン 中でもデザイン的に特徴あるのが、300ブースで行われる「アクセント・オン・デザイン」。毎年、200~300社が出展枠の空き待ちと出展審査にそなえる、という狭き門で、ハイデザインのインテリアグッズ、文具、アクセサリー、オリジナル特選商品を扱う大手卸業者から有名店、近代美術館のミュージアムショップまで集まり、今秋からクリスマスにかけての新しい商品を発表するトレンディー部門です。「アクセント・オン・デザイン」では、デザイン業界で貢献した人たちに加えて出展ブースからも委員を選びコミッティーを構成して、優れた商品とブースに対して賞を贈っています。この賞の狙いは、デザインの質の向上や、オリジナル製品のサポートなど。 その他にも、期間中、各種のコンファレンス(レクチャー)や、デザイナーや有名店のオーナーによるビジネス体験談などのパネルディスカッションを開催。今年は専門家を交えて「オンライン・ギフト・インダストリー」や「2000年のトレンド」など、時代性あるテーマで好評を博しました。注目される今年の「アクセント・オン・デザイン」賞。商品では、イタリーのARTE CUIO(アルテ・キュイオ)社が発表したDRAUDIA SERAFINI(クラウディア・セラフィニ)女史デザインによる皮のテーブルマット。従来の上質な皮製品のあり方に穴をあけるようなデザインと、新しい皮の使い方を提案するフレッシュなアイディアが評価の対象になりました。 また、ZAP(ザップ)社のブースが出したLENOX(レノックス)のカラフルなゴムで包み込んだラジオ。イタリーのPAOLA LENTI(パオラ・レンティ)女史の100%ウールのフェルトでできたラグ(カーペット)とベッドカバー。イギリスのワイヤーワークス社のワイヤーをまげてつくったホームアクセサリー等が受賞、ブースはNYのカリム・ラシッドデザインのトーテム・デザイン・グループのブースに賞があげられました。   ARTE CUDIO社 皮のテーブルマット。アクセント・アワード受賞作品 CLAUDIA SERAFINI女史 ZAP社LENOXの『ゴムラジオ』。アクセント・アワード受賞作品 Totemグループのブース 今回のショーから、今後のデザインシーンをはっきりと読みとることはできませんが、人気を集め実際にビジネスにつながったものからヒントを探ることはできるでしょう。従来通り安くて新しいアイディアのデザイン商品に加え、本物志向の良い材質のデザイン商品が注目され始めていて‘環境問題’‘オーガニック’‘優しさ’‘自然商品’などといった社会生活のトレンドが反映されていたようです。 こういったトレードショーが、日本では顔見せやお披露目に終わることが多いようですが、ニューヨークの場合、オーダーシートを一日何枚書き込めることができて、どれだけの売り上げになったかが出展者の話題の中心。真剣に半年分のビジネスをしてしまうところがプロフェッショナルな商売人という感じです。 一方、ブースの設置や展示に関して規則が多く、ユニオン(組合)の加盟者にしか許されない規則もあり、そのために高い金額を払わせられるのもアメリカのトレードショーの側面のようです。

第3回 新旧デザイン誌のプレゼンテーション ── 朝型『METROPOLIS』と夜型の『(t)here 』

第3回: 新旧デザイン誌のプレゼンテーション ── 朝型『METROPOLIS』と夜型の『(t)here 』 1999 / 8 判型を変える『METROPOLIS』誌 朝の出勤時間前にブレックファースト・ミィーティング(*編注;朝食会議)がしばしば行なわれるNY。METROPOLIS人気のデザイン誌『METROPOLIS』 http://www.metropolismag.com。そのBreakfast presentationが、ペンタグラム・デザイン社で、7月15日の午前8:30から行なわれました。発表内容は、オフィスがアップタウンからダウンタウンに移ったり…といった変動にあわせて、今までの長く大きいサイズ(26.5cm×36.8cm)をやめて、一般的な雑誌サイズ(およそ25cm×30cm)に10月号より変わる、ということです。健康指向になった80年代始め頃から、夜のエンターテイメント・ビジネス(*編注;歓楽街での接待)よりも、頭がすっきりしている朝に、軽い朝食── フルーツやクロワッサン、ペストリー、デザート、Tea、Coffee ── でのスマートな接待が流行っています。METROPOLIS Breakfast presentationが行われたペンタグラム・デザイン社のビル(左写真)は5番街(*編注;NYの代表的高級ショッピングストリート)の25丁目にあります。実はこのビルの前のテナントは、銀行跡を利用して作られたディスコとして80年代に名をはせた‘MKクラブ’。その後がまとして、1階から5階までビル全体に入居しているのがペンタグラム・デザイン社。その空間を見ることができるというのも、このプレゼンテーションの大きな魅力でした。1981年創刊の『METROPOLIS』は、NYの話題を中心にしたデザイン誌として、今まで考えられなかった変形の細長く大きなサイズでデビュー(今よりもさらに長かった)。今なお人気のデザイン誌であり続け、編集長のスーザン・スネージー女史はNYデザイン界の重鎮として活躍しています。   『METROPOLIS』誌面 朝から多くの人が集まる ペンタグラム・デザイン内部 用意された朝食   5月には『メトロポリタン・ホーム』誌が、25周年記念と『アメリカン・スタイル』本の出版記念のパーティーを行いました。それがなんと、格式あるフォーシーズン・クラブ(最近日本で有名なホテルではありません)の部屋を借り切ってのもの。出版業界では珍しい豪華なお披露目で「どうなってるの?」「クラブがスポンサーになったの?」と思いきや、全て雑誌社負担とのこと。スピーチでも「今年は大変売り上げが良く」と景気の良さをアッピールして、驚かせました。 雑誌は人気の入れ替わりが激しいのですが、常に何か新しい試みが打ち出されるのも、NYの雑誌の特徴です。       盛り上がった『(t)here』誌創刊パーティ METROPOLISそして注目の新しい雑誌『(t)here』http://www.theremag.com の創刊号出版記念パーティーが、Soho West Broadway のファッション・ブティックBisou Bisou http://www.bisou-bisou.com で7月22日に行なわれました。E-Mailで送られてきた招待状に、NYのファッショナブル・ピープルが集まり、夏のもう一つのHeatを打ち上げました。 『(t)here 』誌は、Laurent Girard(ローレント・ジラード)とJason Makowski(ジェイソン・マカウスキー)の2人が出版者と編集人の季刊誌です。毎号Contributors(*編注;寄稿者)として、NYの多くのアーティスト、フォトグラファー、アート・ファッションの作家たちが参加、2人が提案したものを協力して作り上げていく制作スタイル。写真が美しいトレンディーな総合アートよりの構成で、‘Summer-1’号となる創刊号の特集は、インタビュー誌やぺーパーマガジンでも活躍している写真家のLen Prince(レン・プリンス)のクールなモノトーンの写真で組まれています。Bisou Bisouでのパーティー後は、最近NYで流行っているVillageの‘クラブLIFE’で夜10時から始まった『(t)here』のもう一つのパーティーに流れてHeatが朝まで続きました。 写真家のLen Prince Len Princeの作品   Bisou Bisou 並ぶ『(t)here 』 ファッションピープル、Bisou Bisouにて ファッションピープル、Bisou Bisouにて   日本の出版界の落ち目と対照的に活気があるように見えるNYの出版界。でも現実には、広告主が減ったりなど良い話ばかりではなさそうなのですが、こういった空気で元気にさせるのは、彼らの前向きな思考ではないでしょうか。ブレックファースト・ミィーティングといい、不景気ならすぐに合理的かつスマートなアイディアを出す、いつまでも若く健康というアメリカ。それに比べて賄賂や夜の接待などが当たり前のような日本は、スマートさを学ぶ必要あり、そんな気がします。 *海老原嘉子 ※Japan Design Netでは、『(t)here 』誌・海老原氏のご協力により、『(t)here 』誌を数冊読者プレゼントする予定です。お楽しみに。

第2回 「ナショナル・デサイン美術館 第6回オークション/ギャラパーティー

第2回: ナショナル・デサイン美術館 第6回オークション/ギャラパーティー      1999 /7 ニューヨークのソーシャルな催しものが多いのは5、6月と11、12月頃ですが、この頃チャリティやファンドレイジング(資金調達)の為のパーティがあちこちで開かれています。パーティというと“ホテル”といった感覚の日本人には、想像を絶するようなところを会場にしてパーティは開かれます。たとえば、美術館全部を借り切ったり、大駐車場にテントを張り巡らし大ディナー会場を作ったり、あるいは倉庫を一大ダイニングルームに変えてしまったり。それぞれがそれなりに趣向をこらしていて、そのパーティの企画自体が“アート”といった感じです。   食空間(テーブル・セット)のオークション 6月14日、スミスソニアン・クーパーヒュイット・ナショナル・デサイン美術館のファンドレイジングの為のオークション/ギャラパーティーが、5番街のロックフェラーセンタービル内に移ったクリスティーズで行われました。 毎年NYの著名デザイナーやショップが商品の寄付する商品がサイレント・オークションにかけられます。第6回目となる今回のメインは恒例のテーブル・セット。毎年15~20人位のデザイナーや有名店が3メートル四方の食空間を提供します。これがオークションにかけられるのですが、絵画のオークションと違って生活用品なので、初めての方でも身近な感じで楽しめて、エキサイティングな経験なのです。   Gallery 91「和の間」 今年は日本人として初めて、私のGallery 91も御指名を頂き、テーブルをセットアップして寄付することになりました。Gallery 91では、今ニューヨークで求められているモダンな和風のスペースをつくり、「和の間」と名して出展しました。 *写真 1)Galley91 クリスティーズに展示した「和の間:モダン・ジャパニーズ・スタイル」/セット:橋本有紀夫、テーブルトップ:禎子スミス、AD:海老原嘉子   写真 2)展示全景、3)Molyneux#202 インテリア・デコレーターJuau Pablo Molyneux の「II Banchetto Silvestre」と題された豪華な展示、4)Walker#201 インテリア・デコレーターkenneth B. Walkerの「Rita Morenoの夫妻の1999ニューイヤーズ・イブ」題された作品、5)Hempel#200 Hotel等を手がけるインテリア・デコレーターAnouska Hempelの「All Plaid Out: New York Country Scene」題された作品.   クリステイーズの広い会場で、今年は17のテーブルトップの出展があり、入場券は一人$300で、出品者も品物の寄付とは別にミュージアム・サポートのために6枚以上のチケットを買い基金集めに貢献します。 夕方6時の会場には正装した大勢のゲストが集まり、洗練されたボーイさん達がオードブル、カクテルを絶え間なくふるまう中、パーティは始まります。著名デザイナーや中には女優さん達といったニューヨーク・ソサエティーが集まり、17点のテーブルトップを見て回り、オークションの下見をします。 17点の内、5テーブルが箸をおき、アジアの文化を取り入れようとしています。 ニューヨークも今では、素材とシンプルさを重視し、感謝できるまでに至りまし た。コンピュータ・インターネット時代で忙しくなったと共に、複雑なものやくどい食事ではなく、もっとシンプルな生活空間が望まれてきているのです。私どもの「和の間」は、そんな中で、大変な興味をひき評判を得ました。 写真 6)パーティー風景 クリスティーズ内のロビーのパーティ風景、7)会場に来た建築家リチャード・メイヤー、禎子スミス、海老原嘉子、8)リタモレノ会場に来ていた女優 Rita Morenoとデコレーターkenneth B. Walker               本当の意味でのチャリティオークション 8時になると2階にあるオークション会場に移ります。スクリーンに映し出されたテーブ ルトップを見ながら、大変な早口でオークショニアが金額をどんどんはりあげていくわけですが、いずれにしてもチャリテイということで、普段のオークションに比べたら大変和やかな雰囲気です。購入された方達もミュージアム関係者や友人が多く、やはり市民が美術館を強くサポートしているなあという感じが見受けられました。 購入代金のほとんどが、その年の税金免除にもなります。ミュージアムや美術関係のサポーターになることは、自分の地位のアピールにもなり、芸術文化社会への貢献ということを皆さん当然のこととして考えているから、こういった純粋なチャリティができるのでしょう。 なかなか日本では、スマートにボランティアやチャリティができないようです。アメリカには税金対策という事情もありますが、自分を文化的にアピールすることが下手な日本人の性質も原因の一つではないでしょうか。ニューヨーク・ソサエティの社交、生活、文化と芸術界が切っても切れない関係にあるということの一つのあらわれが今回のようなチャリティなのでしょう。 日本の美術館に本当の意味でのパーマネントコレクシュンが育たないというのはやはり本当のサポーターがいないのと、権力で政治的な器だけのミュージアムが多いからのような気がします。 海老原嘉子 写真 9)2階のオークション会場での風景、10)Garden

第1回 「第9回国際現代家具展ICFF」と「SOFA」のレポート

第1回: 「第9回国際現代家具展ICFF」と「SOFA」のレポート      1999 / 6   ♦第9回国際現代家具展ICFF ( ICFF.com) NYの5月、6月は毎年、インテリアデザイン関連の催しが目白押しです。第9回国際現代家具展ICFFは5月15~18日に行われました。今年は今までにない活気で、大がかりな特別のテントブースを設置したイタリー・ドイツ・オランダ各国の貿易振興会後援のブース、そして各デザインスクールのブース等が好評でした。そして関連パーティーの多かったこと。ICFFはMoMA(近代美術館)をパーティー会場にして、チェコスロバキアの若手軍団はあちこちのギャラリーで、その他ガイタノ・ペッシェ、ロン・アラッド、インゴ・マーラ等著名デザイナーのサイン会を交えて、毎夜6時~10時にかけて30か所程のパーティーで盛り上がりました。 *写真 1)メトロポリス誌のブース、2)パーソンズ・スクールオブデザイン、3)RCA(英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート/今年の主任教授がロン・アラッドだったそうで力が入っていた。4)TOTEMトーテム・ストアー(トライベッカにある人気のデザインストア)     ♦SOFA (スカラプチャー・オブジェクト・ファンクショナル・アート)(sofaexpo.com) 5月19日~23日には高級クラフトのSOFA(スカラプチャー・オブジェクト・ファンクショナル・アート)が、NYでは第2回目のショウをパークアヴェニューのアーモリーで行ないました。これはアメリカン・クラフト美術館主催のギャラパーティもあり、NYのコレクターが多く参加、売り上げも多かったようです。活気をとりもどして‘ほんとうに景気が良いような’NY。外国からそれを当てにして、出展する数が増えているのも、盛り上がり要素のようです。 ですが、実際にビジネスとなるとアメリカはそんなに甘くなく、気前良くオーダーを入れても、品物を出荷する頃は気が変わったり、着払いでも払わなかったり、代金回収も楽ではありません。州によっても法律が違うので、取り立ての権利を行使できないなど、日本では思いもつかない目にあわされたりもします。   海老原嘉子 *(写真 5) SOFA会場でのパーティー風景、6)ガラスPortia Gallery Chicago.