第152回 BMW・グッゲンハイムによる新たな試み BMW Guggenheim Lab

 2011年8月3日に、NYマンハッタンのイーストビレッジよりダウンタウンに位置するノリータの空地に、移動式のBMW Guggenheim Lab(ビーエムダブリュー グッゲンハイム ラボ)がオープンしました。関係者をはじめ多くの人々の感心が寄せられています。このラボは、BMWとグッゲンハイム財団による文化事業の一つで、世界9都市を6年間に渡って3回ずつ巡回します。各都市でそれぞれの課題に基づいたテーマを掲げ、これからの都市のありかたに挑戦、その重要性を認識させ、各都市で持続可能な解決策を生み出すことを目的にしています。 【写真1】 ファースト・パーク(Houdson st.2nd Av)に突如現れたこの黒い囲いの空間は、日本人建築家の塚本由晴さんと貝島桃代さんのユニット、アトリエ・ワン(Atelier Bow-Wow)が設計を手がけています。骨組みにカーボンファイバーを使用した初の試みとなっている上、オープンスペースで、さまざまな特別プログラムのニーズに対応できる「移動式道具箱」として考えられています。この道具箱の外壁は2層の半透明のメッシュになっており、モアレ効果を引き出し、光り輝いてみえます。プログラムに応じて道具箱の小箱が動き、空間に様々な変化が生まれるように計画されています。 【写真2】 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】 【写真14】 【写真15】 【写真16】  その道具箱の中では、このラボの内容となるロールプレイングゲーム“Urbanology”が行われています。会場はもとよりオンラインでも参加できるようになっており、会場ではチェスのような駒を使ってゲームが行われます。都市の変革、教育、住宅、医療、持続可能性、インフラなどのテーマが盛り込まれており、参加者はそれぞれの課題にYES, NOで答え、その統計が都市の形に変化を与え、新しい一面を発見することになる仕組みです。 【写真17】    ラボ内では、ウィリアムズバーグで人気のレストラン“Roberta’s”が運営するカフェが併設されており、オープンエアーで軽食がとれるようになっています。このラボは10月16日まで開催されますが、その間100を超えるワークショップ、ディスカッション、上映会、ツアーなど盛りだくさんのイベントが用意されています。昼と夜では異なる景色になり、いろいろな使い方による変化を見るためには何度か足を運ぶ必要がありそうです。 【写真18】  オープンに先駆け8月2日に行われたプレスレビューには、世界中から集まった専門分野のプレスも多くみかけました。次の開催地となるドイツ、その次のインドのムンバイ等の関係者も来られていました。設計されたアトリエ・ワンの貝島桃代さんとお話することができました。Guggenheim Labとのコラボ、場所の幾度かの変更など気苦労も多かったようですが、一番懸念されていた近隣住民の方々の反応が良かったので、本当にうれしいと笑顔でおっしゃっていたのが印象的でした。 【写真19】 【写真20】 【写真21】 【写真22】 【写真23】 【写真24】 【写真25】 【写真26】 【写真27】 名称  BMW Guggenheim Lab       住所 Houston St at 2nd Ave, New York     会期 2011年8月3日-10月16日     時間 毎週水曜-日曜日     入場費 日によって異なる     http://bmwguggenheimlab.org/whats-happening/calendar?reset=1  

第151回 SOFA NY 2011

 今年で14回目となるNY恒例のSOFA(Sculpture Objects Functional Art Fair ─ 現代工芸アート展)が、2011年4月14日~17日にArmoryで開催されました。コレクターやキュレーターをはじめ、建築家、インテリアデザイナー、アートアドバイザーが、インテリアとアートの境界線を越える表現力と豊かな感性を持つアーティストに出会うことを目的にやって来ました。 【写真1】  13日にMAD Museumの基金集めを目的としたオープニング前夜祭が行なわれました。12カ国から600人のアーティストと、57の各種ギャラリーが出展しました。 前夜祭のベネフィット用チケットは、ワンドリンク付きのオープニング・パーティーの100ドルチケットや、ティファニー・ルームでのベネフィット・ディナーの5,000ドル、1,000ドルチケット等がありました。また、工芸作品やジュエリー作品の他、各種旅行等の豪華賞品が用意されたサイレント・オークションが催され、賑わいました。新しい試みとして、ジャック・レナー・ラーセン(longHouse Reserve)の特別賞「Best Artwork in Show, Best Booth Design賞」が新しく設置されました。 この特別賞は14日に行われた朝食会で、“コンテンポラリーデザインの視点 ─ 私たちはここからどこへ行くのか”をテーマに、受賞者が発表されました。Best ArtにはLacoste Galleryから出品された、信楽焼の巨匠として知られる神山易久氏の作品 【 写真 54 】 、Best BoothにはSarah Myerscough Fine Art 【 写真 26、27 】 が選ばれました。 【写真2】 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】 【写真14】 【写真15】 【写真16】 【写真17】 【写真18】 【写真19】 【写真20】 【写真21】 【写真22】 【写真23】 【写真24】 【写真25】  【写真26】 【写真27】 【写真28】   【写真29】 【写真30】  【写真31】  【写真32】  【写真33】  【写真34】

第150回 Architectural Digest Home Design Show DIFFA Dining by Design

 今回で10回目を迎えるArchitectural Digest Home Design Show(以下、ADHD Show)が、Pier 94を会場に、3月17日~20日まで開催されました。会場の一部ではDIFFA(Design Industries Foundation Fighting AIDS)のDining by Designが開催され、著名な建築家やデザイナー、セレブが参加しました。 隣りのPier 92ではThe Artist Project New Yorkも開催していて、この3つのイベントを同時に見られることもあってか人出も多く賑わっていました。私は、ADHD ShowとDining by Designの2つで精一杯でした。 ADHD Showは、300社ほどのメーカー、ギャラリー、デザイナー、アーティスト等が、ホームデザインに関わるあらゆるプロダクト(家具、テーブル・アクセサリー、骨董、キッチン、バス・プロダクト[風呂まわり]、床、壁材、照明、その他の素材など)を出展していました。   【写真1】 また、今年から「The Made」セクションと名付けたハンドメイドのセクションと、「ドリーム・ルーム」賞が設けられました。来場者とインテリア・デザイナーがひと組になり、ゲーム感覚で「ドリーム・ルーム」を探して、当てたチームにiPhoneをプレゼントするというものです。例年行う協賛のニューヨークタイムズのセミナーで、著名建築家、インテリア・デザイナー、シェフが講演し、満員の聴衆を楽しませました。 【 写真 5 】   【写真2】 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】 【写真14】 【写真15】 【写真16】 【写真17】 【写真18】 【写真19】 【写真20】  全体としては都会生活に向けたデザインではなく、「The Made」のセクションや素材をみせている作家のブースが、個性的でおもしろいと思いました。また、メインのブースが大型化するなどの変化も見られました。ベテランの出展者はどのトレード・ショーでも同じように、来場者の入りやオーダーの数を気にしていましたが、今回が初となる出展者は混雑に期待して、希望を持っていたようです。手頃な規模で、家族連れで楽しる人気のショーです。 【写真21】   【写真22】 【写真23】 【写真24】 【写真25】 【写真26】 【写真27】 【写真28】 【写真29】 【写真30】 【写真31】 【写真32】 【写真33】 【写真34】 【写真35】

第149回 New York Armory Arts Week(後編) バイバイキティ!! 天国と地獄の狭間で ─ 日本現代アートの今

  Armory Arts Weekレポートの後編は、Armory Arts Week会期中に開催された様々なサテライト・アートフェアをご紹介します。また、7ページからはジャパン・ソサエティー(JS)ギャラリーで開催中のイベント「バイバイキティ!! 天国と地獄の狭間で ─ 日本現代アートの今」をご紹介します。 ■ ボルタ(Volta) 確立したギャラリー中心のアーモリーショーに対比して、ボルタ(Volta)は新しい才能の発掘に主眼をおいたスピンオフアートフェアです。アーモリーショーのピアから、ミッドタウンのペンステーション近くのボルタ会場をつなぐシャトルバスが運行されるなど、アーモリーショーのスポンサーの恩恵を最大限に受けています。一番の目玉は、ソロプロジェクトという選抜した個人の作家を紹介するセクションの「ソロプロジェクト」。幾つものサテライトフェアがある中、よりクリエイティブなアートフェアを提案しようと適度に新しい素材とテクノロジーがあり、これが次世代のアートをうたっているように思いました。   【写真1】 【写真2】 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】 【写真14】 【写真15】 【写真16】 【写真17】 【写真18】 【写真19】 【写真20】 【写真21】 【写真22】 【写真23】 【写真24】 【写真25】 【写真26】 【写真27】 【写真28】   ■ パルス(Pulse) パルス(Pulse)の新ディレクターは、コンテンポラリーアートギャラリーの経験もあるため、出展ギャラリーのセールスやプロモート効果が高く、ギャラリーの立場から望まれるアートフェアとなっています。主な出展者はオープンしてから5年~10年のギャラリーが多いです。ソロプロジェクトのセクションでも、ディーラーやキュレーターがそれぞれ1人の作家をプロデュースする形をとっていて、今年からロスアンジェスでも開催予定とのことです。まだまだ新しい展開のありそうなアートフェア。 【写真29】   【写真30】 【写真31】 【写真32】 【写真33】 【写真34】 【写真35】 【写真36】 【写真37】 【写真38】 【写真39】 【写真40】 【写真41】 【写真42】 【写真43】 【写真44】 【写真45】 【写真46】 【写真47】 【写真48】 【写真49】 【写真50】 【写真51】 【写真52】 【写真53】

第148回 New York Armory Arts Week(前編)

 2011年3月、アートの大祭典「Armory Arts Week(アーモリー・アート・ウィーク)」が開催され、アーティスト、ギャラリー、キューレーター、コレクター、批評家等がニューヨーク市に集まりました。 3月2日、ブルームバーグニューヨーク市長が、Armory Arts Weekのメイン会場であるThe Armory Show(アーモリーショー)のプレス・オープニングで、Armory Arts Weekの歴史とニューヨーク市の収益等について説明しました。   【写真1】  今年で13回目を迎えるArmory Arts Weekは、インターナショナル・アートフェアの中でも卓越したプログラムで、20~21世紀の現代アートを紹介する世界有数のギャラリーからさらに選抜された出展者が展示をします。期間中は、ニューヨーク市への訪問者が50%近く増えるそうで、2009年からニューヨーク市がイベントの援助をしているそうです。世界中から訪れる観光客だけでなく、ニューヨーク市民やトライステートエリアをも活気づけています。 The Armory Showの言われは、1913年に最初のコンテンポラリーアートショーが開催されたArmory(軍の兵器倉庫)からきています。その時、ピカソなどヨーロッパの現代アートがアメリカに紹介されました。その後アート業界の景気の上昇に伴い、1999年から、マンハッタン西側のピア92とピア94(Pier92、Pier94)で開催されるようになりました。   【写真2】  3月3日から6日までのThe Armory Showの期間、ニューヨーク市では、VOLTA NY, PULSE, SOPE, The Art Show, Red Dot, Independent, Moving Image, Fountain NY, Verge Art Brooklyn, Pool Art Fair NY等、数多くのサテライトアートフェアが同時開催され、The Armory Showの会場からは、各アートフェア会場を繋ぐシャトルバスが運行されます。また、マンハッタンだけでなく、ブルックリン区やロングアイランドシティなどでも、特別なレセプション、オープン・スタジオ、アートツアー、博物館の割引、公演、パネル、アーティスト・ディスカッションやパーティーと、とても参加しきれないほど多くのイベントがありました。ピア92とピア94の会場だけで、今年は6万人以上の集客数だったそうで、年々大きなアート・コミュニティの祭典になっています。 【写真3】  メイン会場のピア92では、モダンアートを集めた「The Armory Show:Modern」が行なわれ、有名ギャラリーや著名作家の作品が97ブース展示されました。また、ピア94の「The Armory:Contemporary」では、コンテンポラリーアートのギャラリー、生存するアーティストの新作が207ブース展示されました。 会場に入ってすぐ目についた作品は、昨年も人気だったMarlborough GalleryのJuan Genovesの油絵【 5 】【 6 】です。この作品は、絵具を重ねただけであるのに、人に見える技法が来場者の足をとめさせていました。日本のアーティスト作品を出品しているアメリカのギャラリーもいくつかあり、草間彌生や奈良美智、桑山タダスキー、丸山シンイチ等の作品が目につきました。 日本の著名ギャラリーはほとんど出展していませんでしたが、若手の実力あるギャラリーがピア94に出展しており、東京の東神田ギャラリー「TARONASU」の那須太郎さん、東麻布の「Gallery SIDE 2」の島田淳子さんとお話しました。 【写真4】  テクニックで見せるか、素材のおもしろさで見せるか、他にも映像を取り入れるなど、新しい手法は昨年同様ですが、今年は、それぞれの作品のラベルに、価格を明確に表示しているギャラリーが多く目につきました。来場者がまず気になるのは価格で、わかりやすく打ち出しているのは、アメリカらしい方法なのではと思いました。また、会場にコンピュータのラップトップが必ず設置され、展示しきれない作品群をタッチスクリーンの画像で見せているのも、新しい展示方法でした。 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】

第147回 インターナショナル・ギフトショー「Accent on Design」

 ニューヨーク恒例のインターナショナル・ギフトショー「Accent on Design」は、2011年冬期で26周年、51回目を迎えました。今年は1月30日~2月3日の期間にジャビッツ・コンベンション・センターで開催されました。 1月のニューヨークは何度も大雪に見舞われました。その悪天候の中、オープニングの日曜日と2日目には昨年よりも大勢の人々が来場し、出展者に希望をもたせました。3日目は冷たい雨と気温の低下、他の州の大雪等による飛行機のキャンセルの影響か、客足が鈍り気味でした。それでも昨年は見られなかった新規の来客がブースに名刺を置き、カタログなどを要望する姿が多く見受けられ、景気の回復が期待されました。 前回に続いて今回も「アクセント・オン・ジャパン」が「日本のすぐれたデザイン・文化・ライフスタイルをまとめて見れるコンセプト」で出展しました。ブースには、ミュージアムショップや ハイ・デザインショップのバイヤーや、海外から来ているバイヤーが多数見受けられました。   【写真1】  Gallery 91のブースは、今回新しく出品した「紙の工作所」の「空気の器」の白黒デザインや白色が人気で、ディスプレイにもあしらって来客者の目をひきました。また、昨年から人気のある、紙皿の「WASARA (ワサラ) 」に多くの来客が足を止め、対応に追われました。 フィラデルフィアのMORIHATA Internationalは、癒しの空間に必要な優れた商品群で最先端を行くバイヤーたちの注目を集め、多くのパブリシティーに取り上げられていました。人気のブースで来客が途ぎれません。   【写真2】  INATOMEは、ファッション・ストリートPOPカルチャーと工業デザインとを組み合わせたデザインを中心に展示していました。パーソナルアクセサリーは機能性のある身に着ける小物や、ペーパークラフトを展示し、セレクトショップやミュージアムショップ等で人気を得ています。 今回で3度目の出展となるFUNFAMは、竹製の子供用テーブル・ウェアーを中心に、今年は雪ダルマの形をした可愛いお皿を出展しました。日本では「安心、安全なベビー食器」として人気が高まっています。 ここ最近ではCNNに取り上げられ、昨年にMAD Museumのパーマネント・コレクションにもなったシリーズです。 【写真3】  SAIKAIは日本の著名デザイナーの家具、陶器などの作品を全米に卸しています。今回はオーナーの故郷、長崎県産 波佐見焼(HASAMIーYAKI)を世界に紹介していくプロジェクトを立ち上げ、新作を発表しました。 和食、洋食、中華、世界中どこででも使用できるように、形状、サイズ、収納を考えた作品は好評で、話題になりました。この新商品は次回の夏のショーから本格的な販売に入るようです。 そして今回初出展のMSY Incは、キース・ヘリング(Keith Haring)とライセンス契約を得た、日本製のカラフルなiPhone ケースと、日本の地場で丹精込めて作られた木の製品を発表。ミュージアムショップなどから多くのオファーが入り、喜んでいました。 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】 【写真10】 【写真11】 【写真12】 【写真13】 【写真14】 【写真15】 【写真16】 【写真17】 【写真18】 【写真19】  今回の「Accent on Design」賞を受賞したのは6社です。審査員が2日間かけて会場の作品を見て回り、審査しました。 ■Excellence in Product Design賞(4社) 1.Stelton (NY) の、ステンレスに黒のマット・ティタニウムを施したナイフと、白のマグネットのストラップがセットになった製品。シンプルなフォームのナイフ、ミニマムでクラシックなハイデザインと、クオリティを長年保っての出展が、審査員達の共感を得たようです。 【写真20】   2. Black+ Blum (London) の「Hot Pot BBQ」ユーモラスなアイディアで、ステンレス・スティールと 断熱陶器でコーティングされたバーベキューグリル。落ちた灰が肥料になり、グリルをどかすとテラコッタのポットでハーブなどの家庭栽培が出来る仕組みになっています。 3. American Design Club(LA CA) Brendan Ravenhill

第146回 MoMAの企画展「Small Scale, Big Change」

 2010年10月30日から2011年1月3日の期間、NY近代美術館MoMAで「Small Scale, Big Change: New Architectures of Social Engagement」が開催されました。この展覧会は、恵まれない地域のための革新的な11の建築プロジェクトを紹介するものです。地域社会の経済的負担や社会的負担を、建築によってどのように改善できるかに焦点を当てています。 プロジェクトは、構築済みのもの、現在進行形のもの、実行予定のものなど様々です。会場には、プロジェクトに使用された素材、模型、ドローイング、ビデオ、大版写真、スケッチ等が展示されました。■ Primary School 1999-2001 Gando, Burkina Faso Diébédo Francis Kéré 【 写真 9~13 】   【写真1】  建築家Diébédo Francis Kéréは、自身がまだ建築を学ぶ学生だった頃に、故郷のGando小学校が荒廃状態にあることを知ります。そこで彼は、Gandoに学校を建設するためのプロジェクトを立ち上げ、より良い学校を作るための組織を結成しました。 彼は現地の伝統を踏襲し、日干しレンガを使った小学校を設計します。日干しレンガは、その地域で簡単に手に入り、丈夫な素材でありながら軽視されがちでした。しかし、学校の建設資材として耐えうるだけの強度を持ち合わせているのです。耐久性の高いレンガを作るために、レンガを圧縮する人力プレス機を導入しました。 屋根は、雨と熱から壁を保護するように、大きく張り出したデザインが施されました。また、天井と屋根の間に通気スペースを作り、空気循環を向上させました。 建設の進行に伴い、訓練された地域の人々は協力して建設作業を行いました。レンガは人の手で組み立てられ、屋根の構造は大型機械を使用せずに人の手で溶接されました。   【写真2】  「Primary School」の入校希望者は、2001年の開校以来9年目にして、定員数を遥かに超えるほどになりました。その後、国際的に成果が認められたため、教育者のための学校施設や住居も建設されるまでになりました。今日のプロジェクトを通して、1人の建築家が、非常に貧しい環境にあるコミュニティーに、ポジティブな効果を与えることが出来るという手本を示したのです。 ■ METI – Handmade School 2004-06 Rudrapur, Bangladesh Anna Heringer and Eike Roswag 【 写真 14~16 】 2002年当時、建築科の学生だったAnne Heringerはクラスメイトと、バングラデシュの村や都市の経済構造の分析を行いました。この分析で、村人の教育を受ける機会が不足していることがわかりました。そして彼女は修士論文としてMETI-HANDMADE SCHOOLを設計します。2004年、村の学校を運営するRudrapur地区の非政府組織に提案したところ、彼女のデザインが採用されました。 建設計画と資金集めに1年を費やした後、2005年にプロジェクトを開始。ベルリンの建築家Eike Roswagが現場監督を引き受け、指導を行いました。 構造は主に土で作られ、地域の伝統的な建築材料である粘土、砂、耐久性を保つためのワラが使われました。また、建物内部壁に防風層を設けるなど、地域の伝統的な建設方法に多くの改良が加えられました。 地域の居住者や非熟練労働者は建築の訓練を受け、すべての工事を自分たちの手で完成させました。その結果、3つの室内教室が完成しました。 「METI – Handmade School」は、伝統的な方法と材料への革新的なアプローチで、村人の建築への関心を刺激し、また、Rudrapurのコミュニティーにおける建物の新しい基準を作ったのです。 【写真3】 【写真4】 【写真5】 【写真6】 【写真7】 【写真8】 【写真9】