現代建築家ザハ・ハディド30年の業績
NYのグッゲンハイム美術館で、革新的な現代建築家「ザハ・ハディドの30年の仕事」の展覧会が10月25日まで開催されています。これまでニューヨーカーが見る事のできなかった作品を見るチャンスが出来ました。
ザハ・ハディドの建築は、NYに一度も建てられたことがないため、長い間「ペーパー・アーキテクト」と言われていました。しかし、この10年で建築中の作品、世界中に広がる彼女のパワーのすべて、巨大絵画から模型、実物の写真、車、家具、テーブルウェアーまで見せる迫力のある展覧会で、夏休み中の観光客などで美術館は満員で、大変賑わっています。
ザハ・ハディドは1950年にバグダッドで生まれ、当時国づくりに必要な人材教育を受けた一人と言われています。バグダッドで最初にバウハウスのデザインを取り入れた邸宅で育ちました。その後、政変の為、スイス、レバノンの学校に移り、のちロンドンで教育を受けた他、ニューヨーク、モスクワ、ベイルート、ベルリンと多様な都市に住みました。それらの都市での生活で世界的な価値感を吸収していきました。現在はロンドンに事務所を構えて世界を飛び回っています。

Wolfsburg, Germany, 1999-2005
Photo: Werner Huthmacher
Courtesy Zaha Hadid Architects, London

Innsbruck, Austria, 1999-2002
Photo: Hélène Binet
Courtesy Zaha Hadid Architects, London
ザハ・ハディド自身による、グッゲンハイムの円形建築の形を器用に生かした展示
展覧会は、1976年の絵画「再解釈」、ザハ・ハディドの大学院の卒業論文にまで遡って展示されています(サンフランシスコ現代美術館では、ザハ・ハディドがオリジナルを貸すのを断ったというエピソード付き)。
重複する幾何学上フォームがスペースを通って浮かぶ断片化している都市を提案するという彼女の抽象建築絵画。鳥瞰図を作成するために、彼女は何百もの抽象的な建築をインクのスケッチから、始めました。
次に、それらをキャンバスに取り付けられた紙に移し、抽象的な建物を、それぞれの表面は異なった色で塗り、表現しています。ザハ・ハディドの革新的な思想は建築図面を使わずに、建築を環境の一部としてとらえ、空から地上を眺める鳥瞰図で描く抽象建築絵画、その手法は周りの環境を同時に見せる効果を表現し、これはソビエトのコンスタンチン・マレーヴィチ(Konstantin Malevich)の“Tektonics”の影響を受けているそうです。
現在のコンピューターを駆使したイメージドローイングでは即座になされそうな、失われつつある、手のかかる手法の幾何学的な形態を描く、彼女のエネルギーのかたまりのような作品群が時代を追って展示されています。
また、彼女の展覧会の構成でグッゲンハイムの円形建築の形を器用に生かし、傾斜路の流動の、リズムをとりいれた起伏のある展示が、疲れる事なく、それでいて刺激のある展覧会にしています。

Pau, France 2004-ongoing
Digital rendering
Zaha Hadid Architects, London
(C)Zaha Hadid, Ltd., London
女性で初めてプリッカー賞を授章
1983年、香港のカントリークラブPeak:ピークのための設計で、彼女は若くしてスターの座を得たプロジェクトに遭遇します。次の「世界(89度)」の作品では、私たちが現在、当然のことと思う、電子時代の革命の開発であるネットワークを顕著に予期させます、各建物がより大きい都市視野の片として想像される流れを都市としての表現しているドローイングです。
ザハ・ハディドの建築を最初に実現に踏み切ったプロジェクトは、1990年から94年までの4年間を費やした、ドイツのVitraの消防署(Vitra Fire Station)です。この頃からコンピューターによるレンダリングが取り入れられています。このプロジェクトを皮切りに、アメリカではオハイオ州のシンシナティ現代美術館が1997年に、その後、ドイツのPhaeno Science Centerが1999-2005、そしてBMWの Plant Central Buildingが、ドイツのLeipzigに2001-05と、今や建設中のプロジェクトは世界中で行われています。
最新では国際コンペで選ばれた、ドバイ(アラブ諸国)の「ビジネス・ベイ・タワー」があります。
2004年には偉才の建築家に与えられるプリッカー賞(PritzkerArchitecture Prize)を、女性で初めて受賞しました。

Solomon R. Guggenheim Museum, New York, 1992
Tatlin Tower and Tektonik “Worldwind”
Acrylic and watercolors on cartridge paper, 73 1/4 x 38 inches (186 x 96.5 cm)
Zaha Hadid Architects(C)Zaha Hadid, Ltd., London

Courtesy of Ernestomeda SpA, Italy and DuPontTM Corian® Solid Surface
Transportation and installation assistance provided by Ernestomeda SpA, Italy and DuPontTM Corian® Solid Surface.
Photo: David M. Heald,(C)SRGF, New York.
ザハ・ハディドの建築が欧米とアラブの架け橋となる
グッゲンハイムの円形建築の上段に達するまでに、彼女の建築マジックのすべて、絵画、スケッチ、建築デッサン、都市計画、モデル、家具および設計目的など年代順に展覧会はのぼりつめ、ザハ・ハディドの世界に到達します。
彼女の目的は興味を設計によって発生させ、社会的な、文化的な相互作用を促進することだそうで、彼女の建築が欧米とアラブの架け橋になり、平和の日が来る事を祈るばかりです。
実現しそうもなかった、ソファー、ベンチ、台所、車まで、サイエンス映画の一場面のような作品を実物にさせたZaha、80年代から、時々NYのパーティー・シーンで、オーラを感じさせながら、闊歩し、笑顔で挨拶してくれた彼女を思い、ザハ・ハディドの30年を堪能しました。
※表示あるものを除き、写真は全て海老原嘉子撮影