第34回: ジャパン・ソサエティとアジア・ソサエティー・ミュージアムで同時開催の“The New Way of Tea”展 (2002/3/13)
“The New Way of Tea”展がジャパン・ソサエティーとアジア・ソサエティー・ミュージ アムで3月6日から5月19日まで同時開催されています。2つのアジア系ミュージア ムが第1部会場、第2部会場という形で行うのは今までになかった大きな催しで、2日 に及ぶオープニング・パーティーでは、2会場を結ぶシャトルバスが運行されました。
今回の“The New Way of Tea”展でジャパン・ソサエティー・ギャラリーでは伝統的な建 築様式を含む3つの茶室を設置し、選ばれた茶器そして襖絵を展示しています。ここで は黒川雅之の立礼形式を取り入れた椅子に座る和紙の茶室、喜多俊之の輪島塗りの立方 体で囲まれた茶室、そして伝統的な裏千家の今日庵の複製が置かれています。
展覧会の総合インスタレーションは北河原温のデザインで、入口のギャラリー・スペ ースを、茶室までの誘導の空間、細道というイメージで設置したそうで、暗い空間に異 なるサイズの光の窓があり、その中に浮かび上がる名茶器達を眺めながら誘導されて茶 室に向かうという構成です。茶器はこの展覧会の企画をした茶道・裏千家15代家元千 宋室次男の伊住政和氏(財団法人国際茶道文化協会理事長)と林屋晴三氏が選出した茶器な ど60点です。細道が開かれたところに喜多俊之の茶室が設置され、壁面は千住博の林 をイメージした大きな襖絵が展示され、ここにもいくつかの茶器が展示され、今日庵 の復元は近寄って中まで見られるようになっています。 12世紀後半に禅僧栄西が中国か らもたらし、16世紀後半に千利休が形と精神を一体化し、大成させて茶道。この茶の 湯の精神的な美学と環境、茶道具等を通して探る目的と、現代文化の融合を図る試みと して企画されたそうです。
♦ ジャパン・ソサエティー(日本協会)
1907年に創立された非営利民間団体。ニューヨーク州法に基づく公益法人で、日米間の相互理解と友好関係を促進する為、政治、経済、社会、文化、教育などのプログラムを通して自由な日米交流の推進を目的としています。
ジャパン・ソサエティー・ギャラリーは1971年に設立し、主要美術館との共催で日本の伝統美術や現代美術の展覧会を開催しています。
www.japansociety.org
♦ アジア・ソサエティー・ミュージアム
アジア・ソサエティーはアジアの理解とアメリカ人とアジアの人々とのコミュニケーシ ョンを促進することを目的にした非営利教育団体で、展覧会、パフォーマンス、メディ ア・プログラム、国際会議、講演会など多岐にわたるプログラムを提供しています。ニ ューヨーク市に本部を置き、ワシントン、ヒューストン、ロスアンジェルス、香港、メ ルボルンに地域センターを、サンフランシスコ、マニラ、上海に代表オフィスを置いています。
NYの建物は最近改装を終えたばかりで、ギャラリーとパブリック・スペース、カフェテ リアを拡張したところです。
www.asiasociety.org
9丁目とマデソン街にオープンしたお茶の伊藤園
今回の展覧会のスポンサーにもなったお茶の伊藤園が、アジア・ソサエティーと裏千家NY茶の湯センターの近くに新しくオープンしたお茶の店と懐石風レストラン ”Kai 会”
ジャパン・ソサエティー
アジア・ソサエティー・ミュージアムの“The New Way of Tea”展では日本人だけでなく、様々な建築家やアーティストによる実験的な提案を展示しています。
Gallery Aのエントランス空間は和紙で囲まれていて、それを通しての穏やかな温かいあかりが、まず気持ちを鎮めて、そこから展示会場へ誘導されていきます。まず田中一光の立礼形式の茶室、長庵が展示されています。入口のつくばいは伊住政和の作、そのとなりに今回の展覧会の為につくった韓国人の催在銀(Joe Eun Choi)のプレキシグラスで作った透明の水と題された茶室、そして北河原温の木とアクリルとメタルの足のテーブルのある空間・宙軒、その隣には杉本貴志のIRONの茶室が設置され、鉄でデザインされた多くのパターンのすき間から、床、壁に光の模様を放映して、冷たい堅い鉄くずのような材料が、やわらかな華やかなものに見えます。
壁面の展示棚では、様々なデザイナーからの新しい茶道具の提案が展示されています。浅葉克巳の掛軸、粟辻博の茶筅、日比野克彦の陶器のオブジェ、五十嵐威暢の茶筅、伊藤丈道の茶筅、川崎和男の茶筅、麹谷宏の水差し、コシノジュンコの香入れ、黒田泰三の花器、黒川雅之の茶筅、エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)の茶筅、エドワード・鈴木の香入れ、内田繁の風呂窯、マルコム・ライト(Malcolm Wright)の水差し他大変な面々の作品です。今挙げた名前は一部で、他工芸品からアーティストと盛り沢山で、少しまとまりがないのが残念です。
壁には滝をイメージした千住博の、伊豆の大徳寺別院に収まるという襖絵の大作が壁面全部を覆っています。
Gallery Aを出た反対側のGallery Bに近づくと、お茶の香りに導かれます。中国人のWenda GUのインスタレーション“Tea Alchemy”「錬金術」の会場に吸い込まれます。黒い繊細なすだれで出来た囲いの中に、中央を開けて、赤をあしらった中国茶をまぜて作った和紙が畳んで部屋一面に引き詰めてあり、天井から吊り下げられた大きな木輪から抹茶の粉がときおり舞い降りる仕掛けです。お茶の紙と舞い降りるお茶から、香りがただようのですが、この強烈な印象、その色と香りの中で、不思議な癒しを感じます。日本に伝わってきたお茶の元を現代にしたような、何か通じる空間が感じとれ、文化の交流だけでない、現代のグローバル化のきざしを見た気がしました。
この展覧会期中いろいろな関連行事がおこなわれますが、初日の6時からはジャパン・ソサエティーで、「Tokyo Design Now」というテーマで、パネルディスカッションがあり、黒川雅之、杉本貴志、秋田寛、伊藤順二等に熱心な質問が飛び交い、ニューヨーカー達が東京の今を学び、刺激を受けました。
8日にはお茶のデモンストレーションがあり、杉本貴志は彼の茶室で、麹谷宏は田中一光の茶室でそれぞれお茶をたてて、ニューヨーカーにお点前を披露、ニューヨーク、裏千家茶の湯センターの20年以上のベテラン・アメリカ人が着なれた着物と手さばきで、はじめてのお客様達に英語でお茶の作法を説明したり、手助けをしていました。
これとは別にIDNFがパーソンズ・スクールと協力して、建築・インテリア学部で黒川雅之と杉本貴志のレクチャーを2日に分けて行いましたが、いずれも廊下にはみ出る学生達が集まり、日本の現代建築・インテリア・プロダクト・デザインへの興味と、それらにふれる事が出来て興奮したようです。
今回、ジャパン・ソサエティー、アジア・ソサエティーで行われた日本の伝統と新しい動きというというテーマは、大変大きな課題だったと思います。今までも海外で日本の伝統の形として何度も紹介されており、知らない人達に異国の文化をきちんと紹介すればよかっただけなのですが、今や勉強不足な日本人以上に日本の伝統や文化を勉強している人達が多くでてきています。その中で、時代にあった新しいものを伝統を壊さずに取り入れていこうというわけですから、作品選びも真剣であるべきだったと思います。日本で通用するタレント性は海外では通用せず、一人一人、そのものを見て判断されてしまいます。また、知ったかぶりのアメリカ人にも、間違いにはNOといって、方向をまちがわないように、きちんと指摘していかなければ、本物が残りません。海外で日本との間で文化の橋渡し的役割りをするものの、常の課題でもあり、考えさせられました。
“The New Way of Tea”展 展示作品より