7月9日から8月16日まで、ジャパン・ソサエティー(JS)ギャラリーは、第二次世界大戦後の作られた日本製ブリキ模型自動車の展覧会「ブリキのアメ車:田中翼コレクション」を開催しています。これまで未公開だった田中翼コレクションの秘蔵品を集めたこの展覧会は、ちょうど皮肉にもアメリカ車の相次ぐ倒産などのタイミングですが、アメ車の黄金期をミニチュア世界で再現していて、コレクターや懐かしがる熱心な観客からは、良い反省の勉強になるはずという言葉も交えて、好評でした。
私自身もその時代、車狂でいろいろな車を乗り回したり、レースに出場した経過から、とても興味のある展覧会でした。
JSギャラリー・ディレクターのJoe Earie氏の企画で、「黄金時代のデトロイト産自動車の小さなパーツまで精巧に再現した玩具の車は、日本の産業界が軍需から平和時代の生産へと移行する助けになりました。また、当時の貧しい日本のみならず、新しい富裕国となったアメリカでの美しいものに対する欲望を満たす役目を果たしたのです」
「占領下日本製」と表示されたキャデラックからはじまるこの展覧会、戦後日本における玩具産業の創始期に製造された初歩的で小型な作品から、高級志向のアメリカ市場向けに作られた後期の精巧な作品まで、多岐にわたる70点の乗り物が展示されています。
セダン型自動車、オープンカー、ステーションワゴン、配送用ワゴン、バス、トレーラー、レーシングカーほか、1950~60年代にアメリカ人の心をとらえたモーターショーの出品車(コンセプトカー)なども含まれています。その他当時のブリキ玩具産業で製造された幅広い製品を網羅するため、ジェット機、ヘリコプター、快速艇なども数点展示されています。
ブリキの語源はオランダ語のBLIKに由来するそうです。この展覧会では作り手と日本の製造業の背景にもふれています。玩具業マルサン商店が、製造工程が模索段階であったブリキ玩具産業に早くから参画し、創意工夫に富んだ第一人者的立場となり、業界で初めてプレス加工したブリキに座席用布地の模様を石版印刷することを発案、より実物に近い仕上げを実現したそうです。また、アサヒ玩具製造による全長40cmの「1962年型クライスラー・インペリアル」は本展のハイライトの一つで、日本製ブリキ車のコレクター間では大変な価値で垂涎の的になっているそうです。
「ブリキのアメ車」展は60年代中頃までの日本製のブリキ模型自動車に焦点をあてていますが、これ以降は到来したプラスティックとのシェア争いに敗れ、ブリキ玩具業者のおよそ12社が5~10年という瞬く間に倒産したそうです。
コレクターの田中翼氏は1944年東京生まれ、16才頃からアンティーク収集に興味を持ち、玩具、ポスター、着物など幅広くコレクションしていて、海外のほうが知られているのではと思われますが、以前The Bard Graduate CenterのWearing PROPAGANDA展でも、彼の着物コレクションの一部が展示されました。
この展覧会のオープニングには、JSで日本人はじめてとなる、元NY日本領事館大使だった櫻井元篤理事やスタッフ一同は浴衣の夏衣装で出迎えてくださり、リフレッシュしたJSのイメージでした。
日本で行われるとしたら、デパートの催事展になると思うので、ここまですばらしくまとめるJSのJoe Earie氏の日本通に感心し、田中氏も幸せ者だと思いました。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)で、ロン・アラッドの米国、最初の回顧展「Ron Arad:No Discipline」が、8月2日から始まり、2009年10月19日まで開催されます。
1951年イスラエル生まれのイギリス人のロン・アラッドは、現存するデザイナーの中で、今日最もパワフル。フォーム、設計、テクノロジー、素材に対するその既成概念を打ち破る、大胆なアプローチで際立っていますが、その作品は工業デザイン、彫刻、建築そしてミックス・メディアのインスタレーションにも及んでいます。鉄鋼、アルミニウム、青銅からターモ・プラスティック、クリスタル、光ファイバーそしてLEDまで、あらゆる種類の材料を駆使した弛み無い彼の実験と、これまでの固定概念の家具、掛け椅子やロッキングチェアから、電気スタンドやシャンデリアなどへの彼の新たな解釈、過去30年間の建築家/デザイナー/芸術家としての概念が、彼をコンテンポラリー・デザインの先駆者に伸しあげたのです。
この展覧会ではデザイン・オブジェと建築模型を含む約140点の作品と60点のビデオを展示しています。
ほとんどの展示作品は、彼自身のデザインによるインスタレーション、「ボーダーのないケイジ」と名付けられた巨大な構造の中で展示されています。コルテン・スティールとステンレスで施されているこの設計は、モマ特別展示会場6階の全長を使い尽くした、38.5メーター、高さ5メーターもの大胆な創りで、今までに見た事のない展示空間をつくりだしています。この展覧会のキューレーター、MoMA建築とデザイン部門のパオラ・アントネリは次の様に述べています。
「デザイナーはクリエーターですが、すべてをこなすのは一人では無理、彼はあらゆるマテリアルに挑戦、工場や作り手と協力し良く話しを聞きます。そして今までにない概念で挑戦し、フレキシブルに対応する事の出来る素晴らしいデザイナー。アラッドは一貫性というものに対し重きを置かず、偶像破壊的な事で知られていますが、彼は今日のデザインの全貌をはっきりとさせ、既成の型にとらわれない突然変異的デザイン~内部と表面に始まり、インタフェースから家具、靴まで、近代デザインの枠を超えるような柔軟性のある~を試行する世代に影響を与えているのです。」

プロトタイプ by Vitra Design Museum, Sprung stainless steel and wing nuts
31 1/2 x 39 3/8 x 31 1/2″ (80 x 100 x 80cm)
Photo courtesy of Vitra Design Museum, Weil am Rhein, Germany
Frontieと#768
「ボーダーのないケイジ」は、アラッドのデザインを、マイケル・カステヤーナと共に設計し、ロベルト・トラバリアの指示のもと、イタリアのマルツォラティ・ロンチェッティによって制作、設置されました。その構造は、ひねった輪のような形の中に、240のステンレスで仕切られた正方形の枠が、展示台として使われる仕組みになっています。片面は、半透明の弾力性のある膜として機能する灰色のガーゼの織物で全体が覆われ、裏側の作品もシルエットで見えるようになっています。この織物は、Maharam社というテキスタイルの会社から寄贈され、この展示会のスポンサーでもあるジーンズの製造社、Notifyによって縫製されたそうです。このインスタレーションのあちらこちらに設置されたモニターでは、最新技術を駆使したアニメーションで、彼の作品と生産過程、建築プロジェクトを見る事ができ、観客の目を引きつけ、作品をより理解できるように工夫されています。

30 1/4 x 43 x 23 5/8″ (76.8 x 109.2 x 60cm)
Edition by The Gallery Mourmans, The Netherlands
Photo courtesy of Private Collection, USA. Photo Erik and Petra Hesmerg

Tempered sprung steel and patinated steel
49′ 2 9/16″ x 13″ (15m x 33cm)
Edition by One Off/Ron Arad Associates, London
Photo courtesy of Ron Arad Associates, London
この展示会オープニング・パーティーには、超満員の人出。さすがはMoMA、キューレーターのパオラ、そしてロン・アラッド自身も姿を見せ、この不景気を吹き飛ばすような、桁外れのインスタレーションと彼の相変わらずの個性と盛大な個展に、暑さを吹き飛ばされた思いで楽しみました。