第23回 “アルミニューム・デザイン:アクセサリーからジェット機迄”展

第23回: “アルミニューム・デザイン:アクセサリーからジェット機迄”展 (2001/4/11)   “アルミニューム・デザイン:アクセサリーからジェット機迄”展は、このク-パーヒュ-イット・ナショナルデザイン美術館スミソ二アン・インスティテュート(Cooper-Hewitt, National Design Museum, Smithsonian Institution)にて3月20日から7月15日まで開催されています。 ピッツバーグ(Pittsburgh)のカーネギー・ミュージアム・オブ・アート(Carnegie Museum of Art)のSarahNicholsキューレーターの企画で、2000年10月28日から2001年2月11日まで開催された展覧会の巡回展です。その後は、2002年10月から2003年の1月までモントリオール装飾美術館、フロリダのThe Wolfsonian-Florida International University、クランブルック・アート・ミュージアム、ロンドンのデザイン・ミュージアムにて行われる予定の一大展覧会です。 ク-パ-ヒュイット・ナショナルデザイン美術館では、新しい展示設計をNYのデザイン事務所モリス・佐藤(Morris/Sato)スタジオに依頼し、オリジナルの展覧会より、アルミ色を強く出した個性的なインストレーションで話題になっています。 展示会場風景 パーティー風景   展覧会は軽く取り扱われそうな素材の、アルミを歴史的にたどっていて、さすがMUSEUMがまとめた展覧会という印象を受けました。順を追って説明すると、1845年にアルミ素材が紹介され、1855年のパリのワールドフェアーに高級なジュエリーとしてお目見えしたのを最初に、クイーン・ヴィクトリア等フランスのパトロン達の高級な小物、ジュエリーとして、金や宝石のように好まれたとの事です。1880年代後半にはアメリカとフランスで工業生産をする事が可能になり、未来素材として様々なデザインに応用されるようになっていったようです。 ともに展示会場風景 ともに展示会場風景 ともにパーティー風景 ともにパーティー風景   オーストリア人の建築家Otto Wagner がモダンな建築の中で最初に、ファサードやインテリア・家具類までにアルミを使った、Die Zeit Building(1902年)、 そしてウイーンにPostal Saving Bank.(1904-6年)といった建物を建てました。 最初のAir Planeは1910年に、快速電車が1934年に、その同じ年にWally ByamのAirstreamというトレーラーのパーツ、そして自転車のパーツにもアルミを使う試みがなされ、アルミが現在いろいろな骨格に使われるようになった基礎をつくったようです。 カーネギー・ミュージアム・オブ・アートでは、1年以上前にアルミニュ-ム展の為の作品を収集をしていて、ちょうどMOMAの展覧会の時に預かっていた、鋳心工房の増田尚紀氏の作品が選ばれたので、そのお世話をしたのですが、その後の写真などを見ていなかったので、この展覧会がNYで、こんな形で見られる事になり、ほんとうにうれしく思いました。 そして、そのインストレーションも佐藤佳子さんで、クーパーユニオンの学生の頃、夏休みに倉俣史朗のところにいたり、その後ハーバート大を出て、学友の Michael Morris とパートナーを組み活躍しているのを、折りにふれ見ていたので、この展覧会の成功はさすがと感心しました Die Zeit Bild.(1902年)デザイン:Otto Wagner アクセサリーケースデザイン:増田尚紀   マイケル・モ-リスと佐藤佳子 そして彼等のスタジオを訪ね、いろいろインストレーションの苦労話を聞き出しました。このプロジェクトをどうやって頼まれたかをうかがったところ、このク-パ-ヒュイット・ナショナルデザイン美術館は1年前の改造後に出来たパーマネントコレクション部門を改築中で、そのインストレーションの為に選ばれた7~8人のデザイナーの中で、最後まで残り、選ばれたデザイン事務所だったそうです。その後Director が変わったりといまだに実現されていないプロジェクトだそうですが、新しいディレクターになって、Museumに新しい空気をいれたいと思っているらしく、今回のアルミ展、次の展覧会も彼等の設計に決まりました。     このアルミニューム・デザイン展では、NASAのエアークラフト・スペースシップで使われる素材を直接、モリス・佐藤スタジオがコロラド州にあるパネルテック製作所(Paneltec)に交渉し、協力してもらった厚さ10.5cm(4インチ)のアルミ・ハニーコム材を展覧会場の中で間仕切りとして使っています。ハニーコムの隙間がレンズのような役割をして、反対側にいる人を中央だけ写しだす不思議な反応で、観客を驚かしていますが、この素材は展示のあちこちに使用されています。   ←中央だけ反対側にいる人を写しだす不思議な間仕切り     展覧会入り口のタイトルのディスプレイに使われているのは厚さ7mm(1/4インチ)のアルミのハニーコム・パネルです。展覧会エントランスに大自然をかろやかに飛ぶ1930年代の第二時大戦時の飛行機を選び、雲が浮いていて、オプティカルイメージとプロペラ。この最初のイメージから展覧会に入っていくシーン。これがモリス・佐藤スタジオのデザイン・コンセプトだそうで、ニュージーランドの Outer Aspectがつくりました。ところがこのパネルがプレス・オ-プニング当日に着かなくて、急遽、カンをいくつもグルーガンでのり付けしたそうです。しかし、これはこれで存在感のある壁になっていて1日だけの美しい幻の壁になってしまいました。このテクニックはロタンダの休憩所でも使っていて、ここではVIDEO等を見せる為、サンスクリーンもかねて、Alcoa社からの5000個のカンがWave のあるカーブで積み重ねられたスクリーンは壮観です。このグルーガンの作業では腕が動かなくなってしまうほどの量だったようです。 展覧会入り口 展覧会入り口 急遽カンをのり付けした入り口の壁 動く飛行機のMovie 展覧会入り口   Audi

第22回 NY近代美術館(MoMA)の“Workspheres”展

第22回: NY近代美術館(MoMA)の“Workspheres”展 2001/3/14 NY近代美術館(MoMA)で“Workspheres”と題して、これからのオフィスのニューデザインの展覧会が2月8日から開催されました。MoMAは6つの国際的なデザインチームに、このプロジェクトを依頼して『近未来の仕事場のための革新的なデザイン』を提案してもらい、IT時代の仕事場、その環境と道具などコンセプトからプロトタイプ、実際のプロダクト迄の200点以上を4月22日まで展示します。 MoMAの建築部門のキューレーターPaola Antonelli(パオラ・アントネリ)が、国際的なそれぞれの専門家に顧問になってもらい、MoMA Web サイト(www.moma.org/survey/survey.html)で展示会のための研究の一環として、労働経験の調査を行ったそうです。 パオラ・アントネリ女史いわく、「今や仕事は、どこにいても出来、また、ツールのヘルプの有無にかかわらず ON・OFFすることが可能で、自分の仕事に集中する事が出来る様になりました。この展覧会は、個人的、又は個別のワークスペースに、仕事のツールでもっと良く対話をし、未来を可能にするというコンセプトからタイトルをつけました」とのこと。 私の長年気になる事の一つで、アメリカでは日常的に目にするコーヒーカップを書類の上においた時にできる、輪のマーク。この展覧会では、このコーヒーカップのマークが招待状になっていて、ロゴとしても使われています。 抑制された企業色から遠のいて、選択の自由とカスタマイゼーション、オフィススペースの中に快適なリビング・スペースや、服装規定もカジュアルになり、それらは建築家にも影響を与えつつあります。 今までのメッセンジャーサービス、ファックスが電子メールなどに変わっていくように、ますますテクノロジー で、快適な仕事場を要求していくわけで、これらを6つの国際的なデザインチームがデザインした作品が展示されています。この久しぶりの大きなデザイン展はオープニングには、沢山の人で満員の盛況でした。 MoMA workspheres https://assets.moma.org/documents/moma_catalogue_168_300133807.pdf “Workspheres”展ロゴ “Workspheres”展示風景 “Workspheres”展示風景 展覧会入口   Inspiro – tainer ■その1:Inspiro – tainer Ada Tolla and Giuseppe LignanoイタリアのデザイナーとLOT/ EKarchitecture社(ニューヨーク)のチームによって開発されたプロジェクト 創造のためのスペース(Space for Creativity)として、飛行機貨物用コンテナの内部スペースに、DVDシステム、コンピュータ、ステレオ、電話、後部映写機と大きい投影スクリーンが設置されています。 さらに、1つの壁の上のプレキシガラス(Plexiglas)パネルがスクリーンになり、外からも見られるようになっています。後ろへ角度を変えられる長椅子と、コンピュータ、キーボードとマウスのあるミニマムな机があり、防音装置、移動無線装置等を装備し、過去の伝統的なオフィス環境から離れ、私的なスペースで、創造力、隔離と休養のために使われるものとして、この移動可能なエンターテイメント空間を提案しています。   ■その2:Redesigning Time MIT メディア研究室 のジョン・前田 とジョー・パラディソ 彼等によって開発されたプロジェクトは、コミュニケーションと組織化、部屋を横切って張られた広いスクリーンに3つの手で操作するナビゲーター。このナビゲーターの操作ひとつで、内蔵保管している沢山のインフォメーションから、雰囲気、時間の管理、予定表のデータが取り出せます。 インフォメーションインタフェースの中に技術を改造してある多岐なコミュニケーションツールです。 ナビゲーター スクリーン   Mind Space 1997年のハワース の展示会でIdeation グループが展示したプロトタイプ ■その3:Mind Space ジェフ・ラッシェルと ルナ・アレクサンダー (ハワース社)、ブライアン・アレクサンダー (オプチカ・スタジオ) 、クリストファー・バッド とケビン・エストラダ (スタジオ・ アーキテクチャ)とブラッド・ペイリー と Hai Ng (デジタルイメージデザイン 社) 同じような提案を異なった会社からの数人のデザイナーが、一緒に新しいワーク・ステーションを設計したプロジェクト。展示されている貝殻型のプロトタイプは、1997年のハワースの展示会でIdeationグループが展示したもので、その中身に様々なインフォメーションをストアし、Mind Spaceがメモリ、記録、貯蔵して取り出す能力、より優れたワークスペースとしての機能を持ち、ビデオ/コンピュータ・スクリーンを通してオフィスの資料のバックアップ等も、簡潔に最も適切な時につかえる、ユーザー思考のオフィス・システムを展示しています。

第21回 (1)NY インターナショナル・ギフト・ショー「Accent on Design」 (2)TOTEM Galleryのオープン (3)デザイナー Lloyd Schwan ロイド・シュワンの死

第21回:  (1) NY インターナショナル・ギフト・ショー「Accent on Design」  2001/2/14 インターナショナル・ギフト・ショーの140回目が1月21日から2月25日まで慣例のジャコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで行われました。 今年のアクセント・オン・デザインは初日に大雪にみまわれたせいか、アメリカの曇り景気のせいか、人手が少なく、あまり活気のあるショーとはいえなかったようです。通常の商品や、バスまわり、自然志向商品などは、今まで通りの売り上げだったようですが、ハイデザインの商品は不調で、皆首をかしげていました。 Gallery 91のブース   Gallery 91のブースでは、川上元美氏のシリコンボを展示 Gallery 91ブース、他に、日本からの展示では、イオスコレクションの渡辺力氏のRIKI StoolとKIKI テーブルも人目をひいた アクセント・オン・デザイン全景   Best Boothに選ばれたjewelryデザイナーJeanine Payerのブース Zona Alta の商品 The Loom Companyの新素材のLuisa Cevese-Riedizioni作の商品 いくつか新しい試みのブースや商品が出展されていて、今年もアクセント・オン・デザイン・アワードの賞が以下の人達に与えられました。   ■ベストプロダクト賞にDMD Incオランダの 建築家 NL Architectのポリプロピリンのサスペンション・ストラップ。ゴムのように伸縮するベルトを壁に何本も横に張り、その間に好きなものをはさむことができる、新しいアイディアの洋服かけ。 ■ベストブース賞は、サンフランシスコのジュエリーデザイナーJeanine Payerの真っ赤な展示。 ■継続して良いデザインを見せている賞が、Lexonのコレクションの販売元である、フロリダのZona Alta Projectsに。 ■新素材開発デザイン賞は、The Loom CompanyのLuisa Cevese-Riedizioniに。リサイクル・ファブリックをうめこんだゴムの様なプラステック製品のコレクション。     賞ではないのですが、雑誌や新聞社のプレスが毎回新製品をさがして見に来てくれるのは、大変な励みになります。 今年はGallery 91のブースから2点が選ばれ、一つはIDNFで続けているデザイン・コンペのグランプリ作品が商品化された新製品で、ゴミを中にためられるPeeler(皮むき器)。それとRIKI Stoolでした。 Peelerの方はカラーで2月7日版のNYタイムスに出て、電話の問い合わせとオーダーにうれしい対応でした。NYタイムスに取材されるというのは1、2万ドルの広告と同じ位の効果がありますが、いつでもピック・アップされるわけではなく、記者とのコミュニケーションや幸運が左右します。日本の様な買収は絶対効かず、必要外のプレゼントは返してきますし、印刷寸前まで何度も細かい校正の問い合わせがあるのは、さすが、NYタイムスです。 RIKI Stoolの方も校正の問い合わせが来ていて、15日か22日のHOMEセクションに出るそうで、楽しみです。 NYタイムスに出たPEELERの記事 新製品のゴミを中にためれるPeeler   第21回: (2)新しくアメリカ・デザインを啓蒙するTOTEM Galleryのオープン  2001/2/14 TOTEMは1997年にトライベッカにオープンしてから、若手デザイナーの発表の場として、家具デザインの人気を集めてきましたが、昨年12月にGrand StreetのGallery 91の3軒隣りにTOTEM Galleryをオープンしました。 オーナーはDavid Shearer(デビット・シェアー・34歳)。ミネソタ大学で建築とデザインを学び、ミネアポリス・ギャラリーで20世紀デザインを担当、1990年にNYに移り、ヨーロッパ・デザインのModern Ageストアーを任されていました。 彼はレイ・イームズ(チャールス・イームズ夫人)と13年前に会話したとき、イームズ・スタジオのコレクション について、レイが「世界中から集めたトーテムみたいでしょう」と説明したのが印象に強く残っていて、その時のイームズ・スタジオからの影響やスピリットを元にこのTOTEMを作ったそうです。そしてイームズ達のアメリカの良きデザインの時代のような、活気のある時代をもう一度という夢をかけたようです。

第20回 (1)画家、ハント・スローネンの優雅なライフ・スタイル (2)ニューヨークの地下鉄と宇多川 信学氏

第20回:(1)鳥を描き続ける画家、ハント・スローネンの優雅なライフ・スタイル  2001/1/17 21世紀の幕開けは、久しぶりの大雪で始まりました。大晦日のタイムズ・スクエアーの興奮とは裏腹に、NYの正月休みは一日だけでした。 今回は、デザイナーではないのですが、友人のハント・スローネン(Hunt Slonem)氏を紹介します。1992年に新宿京王デパートで行なわれたニューヨーク展で、彼を日本に初めて紹介したことが知り合ったきっかけでした。その頃彼は、SoHoのイーストハウストンのロフトに70羽近いトロピカルバードと一緒に暮らしており、鳥の絵を描く作家として注目され始めていました。 大変大きな鳥カゴは、子供部屋程もあります。彼の毎日は2時間かけて作った餌を鳥に与えることから始まります。これが彼の作品の素材の元でもあるのです。カラフルな彼の鳥の作品は観る者に不思議な安堵感を与えるのです。その頃から彼の作品は人気が出ると思っていました。 そして6年程まえ、チェルシーに1万スクエアーフィートのスタジオを構え、トロピカル・バードと彼の収集しているクラシカルなフレームや椅子などを置き、制作の場としています。 彼の好きな物で溢れているこの部屋は、訪問者を驚かせます。部屋に入るとまず、廊下にずらりと並んだ椅子のコレクションが目に入ります。キッチンから見えるマンハッタンの景色は素晴らしく、廊下づたいに、赤、グリーン、黄色、ピンクで色分けされた部屋がならび、それぞれの部屋には、彼の作品がお気に入りのフレームに入り壁いっぱいに飾られています。その部屋を通り廊下を抜けると見えて来る広々としたリビングルーム/スタジオは、また圧巻です。鳥のためのスペースと、制作のための場所が十分にあります。彼の個人的な趣味だけで構成された空間です。 ハント・スローネンの水彩画 チェルシーのハント・スローネンのロフトのキッチンから。ダウンタウンとNew Jerseyの景色が見渡せる ガラスのコレクションと彼の絵 スタジオの一部。奥がジャングルの様な景色。   廊下のview レッド・ルーム グリーン・ルーム イェロー・ルーム ピンク・ルーム リビングルーム/スタジオ 鳥かごと鳥 キャンドル・スタンド・コレクション 鳥かごコレクションのひとつ ジャングルの枯葉をとったり、様子をみるハント ハント・スローネンの油絵 レッド・ルームに飾られているハントの絵   このような個性的な部屋は、ニューヨークでも注目の的となり、DKNY(ダナカラン・ニューヨーク)のカタログの舞台として撮影が行なわれました。こうしたお洒落な住いは、度々雑誌の撮影に使われます。 しかし、ハントの部屋には、流行等とは関係なく、彼自身の幸福の為の空気が流れています。そもそも子供の頃に住んでいたハワイで両親に買ってもらった鳥が、彼と鳥との出会いであり、彼の最初の友達だったそうです。それから鳥をコレクションし始め、後には、彼の作品の糧になったのです。毎日抜け落ちる羽根を集め、展覧会の時のギャラリー会場の壁に突き刺したインスタレーションは印象的です。そしてオープニングの時に感じるのですが、日本で感じる画家や先生と違って、彼はニューヨークの社交界に溶け込んでいます。 鳥という一つの素材にこだわり続ける彼は、自分の好きなものだけに囲まれて、自由に生きているように私の目には映りました。今年からは私も好きなことにだけ集中して暮らせる様な人生を送りたいものだと、事始めに思った次第です。 DKNYのカタログのカバーからすべてハント・スローネンのロフトで撮影   第20回:(2)ニューヨークの地下鉄と宇多川 信学氏  2001/ 1/17 1日500万人が利用するという24時間フル稼働の、ニューヨークのサブウェイ。ニューヨークっ子なら誰でも利用するこの地下鉄車両が、新しく川崎重工から納入されました。 この車両のデザインは、ニューヨークで活躍する日本人デザイナー、宇多川 信学(うだがわ まさみち)氏(35歳)によるもので、話題を呼んでいます。この1、2年、ニューヨーク市民のなくてはならないものになってきた、メトロカード(代金先払いカード)の自動販売機のデザインも彼が手掛けました。 この地下鉄も、日本の会社と日本のデザイナーという繋がり方ではなく、ニューヨークのメトロポリタン交通局(MTA)が落札したのが、川崎重工の米国現地法人、カワサキ・レール・カー社(Kawasaki Rail Car,Inc.)の車両で、公募の中から採用されたデザインが、たまたま宇多川さんのデザインだったという偶然が重なったためです。肩書きやスタジオの大きさなどでなく、良いデザインと良い製品を、採用するアメリカ行政の懐の深さを感じます。 彼は、千葉大学の工業デザインを卒業後、87年にヤマハに就職し、シンセサイザーなどの電子音楽機器のデザインを担当しました。その後89年にクランブルクアカデミーに留学し、工業デザインを再勉強して、卒業後、92年から95年までアップルコンピュータ社で働いて、同社のパワーブックやプリンターをデザインしました。退社後、IDEOのニューヨーク支店長として赴任し、その後、パートナーのシギ・モスリンガーと、アンテナ・デザイン・ニューヨークを設立して、インターラクティヴロゴ、IBMやソニー向けインターフェースのデザイン、リモートコントロールのデザインなどを手がけて、数々のデザイン賞を受賞しています。 今回の大抜擢は、実力主義アメリカならではの出来事ではないでしょうか。輝きを増してゆく彼の姿と活躍振りは、NYに住む我々日系人にとって大変な誇りです。ニューヨークのシンボルであるサブウェイには、2001年12月までに彼のデザインした車両が400両納入されるそうです。ニューヨーカー達は、新鮮な気持ちで新世紀の新車両を歓迎しているようです。 Antenna Design New York http://www.antennadesign.com 地下鉄車両エクステリア 地下鉄車両インテリア メトロカードの自動販売機

第19回 (1)Ingo Maurerが、ハーレムの子供達を指導してのランプの展覧会 (2)『ONE』創刊号の派手なパーティー (3)インテリア・デザイナー『CLODAGH』のパーティー (4)ギャラリー91

第19回:(1)Ingo Maurerとハーレムの子供達の照明展  2000/12/13 インゴ・マーラー(Ingo Maurer)がイースト・ハーレムの学校の小学生12人と照明展をしていて話題を呼んでいます。 この展覧会は『Twelve Youngsters from the East harlem School reflecting on Light』と題して、11月17日から12月16日まで、インゴ・マーラーの地下ショールームで開かれています。12人のイースト・ハーレムの学校に通う子供達(小学生)に、インゴ・マーラー他、有名なアーティストが6カ月にわたり一週間に2回、照明についてレクチャーをしてきました。子供達は、クラスルームとしてSoHoのインゴ・マーラーのショールームに通い、各々自由な発想でスケッチをし、作品づくりでは材料などのアドバイスをもらいながら、自分達の手で作品を作りました。オープニングではNYデザイン・シーンの著名人やプレスの集まる中、自分自身の作品の前で説明をしたり、子供達にとって貴重な体験だったようですが、参加したプロのデザイナー達にとっても大変良い機会だったようです。 インゴ・マーラーと参加した小学生Bobby Thomas Twelve Youngsters from the East Harlem Schoolのポスター インゴ・マーラーのショールームでオーダー待ちが続く現代版シャンデリア?(Porca Miseria) Rasshaad Butlerと作品のランプ Janelle Willamsと作品のランプ Jaques Wardと作品のランプ Barry Clarkeと作品のランプ   第19回:(2)Gallery 91「2000年展」最後となる『Everyday Things』  2000/12/13 Gallery 91 の今年最後の展覧会『2000 Objects for New millennium Part 6 : Everyday Things』が12月28日まで行われています。ニューミレニアムを記念に始めた『2000個のオブジェ展』もいよいよ最終のパート6に入りました。一年間続いたこの展覧会の最終パートは、日常生活で使えてライフスタイルを楽しくさせるような作品群で、プロトタイプから即売品まで12月終りまでに2000個がそろいます。今回は椅子も数点出品されています。また作品も素材もいろいろで幅広くバラエティーもあり、日本からも多数、出品してされています。作家名をあげますと、川上元美、黒川雅之、川崎和男、池上俊郎。NYのKarim Rashid、Harry Allen、BenzaのG.Pellone & Bimamura . Means、Todd Capron、Anne Gant、VanDyke Tsubota。増田尚紀(鋳物の香たて)、林久雄(欄間のテクニックのコースター、ランプ)、Niccolas Roseillier、Paula Almedia。相川繁隆(ボトルキャップ)、今村えつみ(ノートブック一式)、imone A. Bailey(卓上アラーム時計)、Ted Capron(CDオーガナイザー)、Tim Kennedy(OXOのツール)その他。前回とガラリと変えた明るい会場に、クリスマスシーズンの雰囲気も出して、ショッピングを楽しめる感じのショーにしました。 展示全景 正面から 展示全景 後から 展示風景 上段は池上俊郎のSilver

第18回 (1)カリム・ラシッドのアート展 (2)ハロウィン・パレード2000年 (3)ブラックタイ・パーティー (4)ワールドデザインコンペ・JAN KEN PON授賞式、受賞者発

第18回:(1)カリム・ラシッドのアート展  2000/11/22 ●カリム・ラシッドのアート展 NYのホットなプロダクト・デザイナー、カリム・ラシッドの2度目のアート展がソーホーのSandra Gering Galleryで行われました。カリム・ラシッドがコンピュータで描く流線形の型に、特長のある蛍光色を中に塗った白いオブジェを組合わせたものが床一面に設置されて、作品が部屋いっぱいに展示されています。 壁には、紙やキャンバスの代わりにコンピュータで描かれた彼のスケッチが2つの壁に展示されています。一つは静止画像をいくつかつなげてフィルムに印刷したものを薄い光の板をバックにして投影し、コンピューター上の画像で見るのと同じような効果を出しています。もう一つは、動きのあるスケッチをピクセルを荒らくしてゆっくりと動かしたものをコンピュータからビデオに移して、それを壁に映写していますが、壁に描かれた顕微鏡の描写のごとく不思議なアートになっています。 何よりも、彼の周りに集まる今風でファッショナブルなNY Peopleの仲間たちに囲まれて、適材適所を得た現代アートとしての存在を感じさせています。       第18回:(2)ハロウィン・パレード2000年  2000/11/22 ●ハロウィン・パレード2000年 今年もニュ-ヨ-カーが楽しみにしているハロウィンがやってきました。仮装コスチュームを売る店では、盛大に売り出しに力を入れていましたし、お客も入っていたので、さぞかしパレードはすごいのではと期待しましたが、思ったほどではなく、例年のごとく今年も個人的パーティーが多く、そちらの方で盛り上がったようです。 それでも毎年、オリジナル・アイディアの仮装には感心させられます。今年のアイディアでは優雅な透明人間カップルが目をひきました。   地下鉄内にもあふれる仮装   コーヒーショップで休む一行 アルミホイルを利用した衣装 透明人間 ハロウィン行列     第18回:(3)ブラックタイ・パーティー  2000/11/22     ●ブラックタイ・パーティー ハロウィンが終わって、11、12月のNYは、オフィシャルなパーティーがめじろ押しで、各美術館は、これでもかこれでもかと企画(作戦)のためのパ-ティ-を開きます。 メトロポリタン美術館からは毎週のごとく、一人最低$500のパーティー招待状が届きますし、MoMA、グッゲンハイム美術館、アメリカン・クラフト美術館など他の美術館も‘ギャラ・パーティー’と称していろいろなアイディアで基金集めのパーティーをします。 だいたいは、ギャラ・パーティーというとアーティストやデザイナーの著名人の名をあげて賞をあげるとうたったものが多く「ブラックタイと正装で」と服装制限をして、それぞれのソサイティの人たちが、自分達がミュージアムやアーティストをサポート、後援しているのだという満足感と楽しみのために参加し、お洒落と会話を.楽しみます。 メトロポリタンは、いくつもある広大なスペースの空間の中庭を使って、メンバーランク別に分けてのオープニングから、ホリデイパーティーまで。美術館主催のパーティーを次々と月2~3回は行っていますが、他にもサポートメンバー等のためには個別なパーティー会場も提供し、基金集めをします。これらの会場には、いつでも日本の企業の姿が見えないのですが、その割にはミュージアムの方達にアポをとりたがったり、会いたがる人達もしばしばいます。 ミュージアムとつながりたかったら、まずメンバーになるのが最初のおつき合いの常識のような気がします。こういった文化的でソーシャルなおつきあいができるようにならないと文化人とはいえず、NYで肩身のせまい思いをします。     第18回:(4)ワールドデザインコンペ・JAN KEN PON授賞式、受賞者発表パーティー  2000/11/22 ●岐阜ワールドデザインコンペ・JAN KEN PONの授賞式、受賞者発表のパーティー 岐阜県が主催し、IDNFが2年かけて行った「岐阜ワールドデザインコンペ・JAN KEN PON」の授賞式、受賞者発表のパーティーが行われました 受賞者全員と関係者が舞台に、バックには2等の作品スライド 審査風景 デザインコンテスト審査員   「ワールドデザインコンペ・JAN KEN PON」は、ジャンケンポンという国際的に通用する遊びをタイトルとして、岐阜の地場産業の紙、刃物、陶磁器、木工等で作ることができる、若く新しいアイディアやデザインを募集した国際コンペで、19カ国から110名の応募がありました。その中から2等2名、3等1名、佳作3名、企業賞4名が選ばれ、54丁目とレキシントン・アベニューの角にそびえる超モダンなマシモ・ヴィニアリのデザインした教会を授賞式の会場にして行われました。はるばる各国からの受賞者10名と岐阜県から6人が出席し、お互いに親睦を深め盛り上がりました。こういったパーティーも参加者それぞれにとって、将来につながる大切なデザイン界の出会いとなり、大切なことだと思います。   2位受賞者 井田志乃と作品 2位受賞者 Melonie Higashiと作品 3位の賞状を受けるFleur Grenier   ♦受賞作品 受賞作品2位 [Knitting Bag] 井田志乃/日本 受賞作品2位

第17回 2000 Objects for New Millennium 第5部『ニューメディア』展

第17回: 2000 Objects for New Millennium 第5部『ニューメディア』展  9月26日から10月28日まで Gallery 91 New Media展全景 A. ドロール・ベンシェトリットの植木鉢      B. ドロール・ベンシェトリットの温度と比重で一定の時間がくると、くるり回転するランプ テクノロジーは日々の生活に様々な影響を与えています。ニューヨークSOHOのギャラリー91では、ミレニアム展第5部として、このような時代をコンピューターエイジとして、ニューメディア展を開催しました。ドロール・ベンシェトリットは、植木鉢のプレゼンテーションをヴァーチャルな方法で行なっています。本来、作品モデルを制作するところを、植物の成長過程と共に、実に効率良く模擬演習させています。 カッティングエッジ社のシェイプCD(Shape CD)は、その輪郭をあらゆる形に変え表現可能であることを、ギャラリーの壁いっぱいに見せています。実際に、名詞かわりにそれぞれのプロモーションに音楽入り、映像入りの名詞や変形CD-ROMが、それぞれの表現の幅を広げたと言えるでしょう。 Cutting Edge Shape CD社のCD見本 CD見本、自動車 CD見本、ひまわり Alexander Gelmenと佐藤かおりのデザイン・マシン・スタジオのCDアルバム   米国販売前のSHARPのスリムなLCD AVCフラットパネルモニターが6台会場に展示され、東芝からもポータブルDVD・CD-ROMプレーヤーの11月から発売予定の新製品が鮮明な映像を映し出しています。 左:シャープのLCD-AVCフラット・パネル・モニター 右:東芝のポータブルDVD/CD-Romプレイヤー   4才児から13才までをターゲットにデザインされたウェッブサイトで有名な、ママメディア(MaMaMedia)は、子供でも楽しめるインターラクティヴなインターフェース、”ジグザグジッパー”を紹介していて、ギャラリーに常時つながれたインターネット上で楽しめます。ジェイムス・ホングは、箱をのぞいて丸だしのコンピューターをそのまま展示し、かつ、コンピューターによって簡略化された社会を、3つの大文字、“Three’s Company”(テレビ番組のタイトルをもじって)というタイトルを用いて、グラフィカルな表現の可能性を発表しています。 MaMaMedia digital playground for children James Hongのコンピュータープレゼンテーション、3つの大文字   GASBOOK、Tokyo Assassin、相馬一夫、佐々木隼、森野和馬、など日本からもメディア・アーティスト達が、ヴィジュアルイメージを出品し、岐阜県のIAMAS(International Academy of Media, Art and Science)の卒業制作を収録した、IAMAS Anual 1999には、インスタレーション、映像や音と共演するパフォーマンス、VR作品など、今後の情報化社会を担う、新しいメディア・クリエーターの作品がCD-ROMに収められています。 佐々木準のCD作品 IAMASの学生作品集   プロダクトでは、黒川雅之のチタン腕時計、志津刃物(岐阜)のセラミックナイフ。そしてモド(MODO)のハンディーなナビゲーション・システム“NEPTUNE”は、同じ機器で、その都市の最新情報が小型画面に映し出されるしくみで、現在ニューヨーク、サンフランシスコ、シカゴがアクセス可能。交通、娯楽、美術館、催し等の最新情報が外国人にもすぐ分かりやすいようなナビゲーションになっている。 黒川雅之チタン腕時計 志津刃物のセラミック・ナイフ Modo -Scout Electromedia社のナビゲーション・システム   ハリガネTOY Cranky キッカーランド社の歯車をむき出しにした外観とぎこちない動きとのギャップが愛らしい、バラエティーに豊んだ形態のメカ虫には、各々個性的な名前が付けられており、大人にも子供にも人気の商品です。 ハリガネTOY Jetz   Core 77デザインのハーマンミラー社(家具)用の

第16回 慣例NYのインターナショナル・ギフトショーあれこれと この夏NYをわかせたCow Paradeのこと

第16回: 慣例NYのインターナショナル・ギフトショーあれこれとこの夏NYをわかせたCow Paradeのこと   2000/9/13 ●今夏、NYでもっとも話題を集めたCow Parade ニューヨーク市、夏休み観光キャンペーンとして、ジュリアーニNY市長の協力と各企業、地元レストランなどのスポンサーがついて、約500のデザインされたグラスファイバー製の実物大の牛が、NYのあちこちに6月15日から展示されています。 観光客はもとより、仕事の行き帰りの人たちにも、微笑みを誘うこの楽しい催し。ことの起こりは1998年の夏、スイスのチューリッヒでした。 地元アーティストの手によってペイントされた牛400頭が並ぶイベントに、スポンサーが付き寄付金が集まり、イベント終了時には800頭に増える大反響を得ました。そのとき、出張でアテンドしていたシカゴの小売店協会の会長が、この企画に魅せられ、1999年の夏にはシカゴでCowParadeが実現しました。シカゴ市全体で5億ドル近くのお金が動き経済活性化に貢献したそうです。 主催者のカウパレード・ホールディング・コーポレーションが「やはり世界の中心、ここNYで」と話を持ち込み、NY市、市公園局の許可を得てこの夏のイベントとなったわけです。 今年の初め『牛にペイントしたいアーティスト募集』の告知が行われ、約1200のデザイン画の中から、スポンサーは1頭に付き7500ドルを払い好きな牛(デザイン画)を選び、それぞれの広告スペースに展示しました。 独自のデザインをすることもできますが、‘ずばり宣伝’は許されず、あくまでも芸術的、創造的な方法でビジネスにつなげることのみ許可されました。 人通りのあるような場所、たとえば、グランド・セントラル駅構内、バス停、5番街、貿易センター近辺、ミッドタウンのオフィス街からVillage、Sohoと外を歩くと必ずどれかにあたり、楽しくなるこのパレード。牛たちは9月4日に取り払われて、9月28日にオークション・ハウスでオークションにかけられ、その売り上げは芸術、教育福祉団体に寄付されることになっているそうです。 「なぜNYで牛なの?」ということはあまり気にせず、何にしろ、作る人、見る人、町全体が明るく活気がでて、楽しいこのイベントに、気持ちよくスポンサーになり、すんなり許可を上げたNY市をさすがと思います。 これが日本ではと思うと、まず前例がないにはじまり、会社の利益につながらないスポンサーが、はたしてつくのかなと考えてしまいます。皆が自分で感じ、楽しめる文化に投資をする日が近いことを祈ります。 今回のアクセント・アワードで4社が受賞。ベストコレクションで受賞したGallery91のブース ベストコレクションの中のD-Brosのステーショナリー・グッズ   ペストプロダクトに選ばれたサンフランシスコのPablo のデスクランプ 総合ですぐれた商品揃えとして2社が受賞、一つがVITRAのMuseum Qualityプロダクトが受賞 もう一つはテーブル、ベッドまわりのリネンで受賞したNYのAREA社 1月の受賞者と今回を一緒に受賞パーティーが開かれ、新しくAlan Hellerがデザインしたトロフィ ーを手にするEastern Accent 村松氏夫妻(1月受賞)とGallery 91海老原嘉子   このギフト・ショー、『アクセント・オン・デザイン』以外は今まであまり紹介していませんが、今回はハンドメイドなどで個人作家の面白いものが出てきているように思いました。『インターナショナル・ハンドメイド』のおおがかりなテントの展示会場は、玉石混合のところもありますが、中には優れた作家もいて、がんばっています。 海外からのHand Madeをまとめたテント張りのおおきなブース 毎年日本から出品しているMittskoのオリジナル手作りフェルト   アメリカ人による紙の手作りランプ ドイツ政府が力を入れて後援しているハンドメイド特別展示会場の中の陶芸家 Gallery91も毎回出展しているのですが、今回、特に印象に残っているのは、NYで活躍しているハイ・デザイン・ジュエリーの石山れいこさんと、日本から出品しているMittskoのオリジナル手作りフェルトの垂井三津子さんなどの作品が、際立っていたことです。 他に、今年は『MuseumSoures』部門が力を入れて、ジャビッツ・コンベンション・センターのガラス張り天井のクリスタル・ルームの下に大がかりな特別展示を行いました。 メトロポリタン・ミュージアム、グッゲンハイム、アメリカンクラフト、ウイットニー、自然博物館…、と各美術館のミュージアム・ショップの特徴が表れた品々を並べて演出していました。 日本にはなかなか浸透していないMuseumShopですが、アメリカでは長い歴史があり、生活に密着しています。日本ではこれからなのでしょうか。生活がほんとうに文化的になったとき、定着するように思います。実際の『MuseumSoures』のブースは、案外に地味で小物が多く、『KidsStaff』と隣り合せのブースになっていて今ひとつの感はあります。   (1)メトロポリタン・ミュージアム (2)アメリカン・クラフト・ミュージアム (3)ウイットニー・ミュージアム (4)グッゲンハイム・ミュージアム (5)アメリカン歴史博物館   ●今夏、NYでもっとも話題を集めたCow Parade ニューヨーク市、夏休み観光キャンペーンとして、ジュリアーニNY市長の協力と各企業、地元レストランなどのスポンサーがついて、約500のデザインされたグラスファイバー製の実物大の牛が、NYのあちこちに6月15日から展示されています。 観光客はもとより、仕事の行き帰りの人たちにも、微笑みを誘うこの楽しい催し。ことの起こりは1998年の夏、スイスのチューリッヒでした。地元アーティストの手によってペイントされた牛400頭が並ぶイベントに、スポンサーが付き寄付金が集まり、イベント終了時には800頭に増える大反響を得ました。そのとき、出張でアテンドしていたシカゴの小売店協会の会長が、この企画に魅せられ、1999年の夏にはシカゴでCowParadeが実現しました。シカゴ市全体で5億ドル近くのお金が動き経済活性化に貢献したそうです。主催者のカウパレード・ホールディング・コーポレーションが「やはり世界の中心、ここNYで」と話を持ち込み、NY市、市公園局の許可を得てこの夏のイベントとなったわけです。 今年の初め『牛にペイントしたいアーティスト募集』の告知が行われ、約1200のデザイン画の中から、スポンサーは1頭に付き7500ドルを払い好きな牛(デザイン画)を選び、それぞれの広告スペースに展示しました。独自のデザインをすることもできますが、‘ずばり宣伝’は許されず、あくまでも芸術的、創造的な方法でビジネスにつなげることのみ許可されました。人通りのあるような場所、たとえば、グランド・セントラル駅構内、バス停、5番街、貿易センター近辺、ミッドタウンのオフィス街からVillage、Sohoと外を歩くと必ずどれかにあたり、楽しくなるこのパレード。牛たちは9月4日に取り払われて、9月28日にオークション・ハウスでオークションにかけられ、その売り上げは芸術、教育福祉団体に寄付されることになっているそうです。 「なぜNYで牛なの?」ということはあまり気にせず、何にしろ、作る人、見る人、町全体が明るく活気がでて、楽しいこのイベントに、気持ちよくスポンサーになり、すんなり許可を上げたNY市をさすがと思います。これが日本ではと思うと、まず前例がないにはじまり、会社の利益につながらないスポンサーが、はたしてつくのかなと考えてしまいます。皆が自分で感じ、楽しめる文化に投資をする日が近いことを祈ります。 ロックフェラーセンター前 メトロポリタン・ミュージアム裏セントラルパーク 59丁目ゼネラルモーター広場のエンジェルCow 大人気の5番街プラザホテル前のパーティーで踊り狂う2頭 9丁目ゼネラルモーター広場のガウンにカールの牛 タイムズ・スクエアー

第15回 岐阜で行われたNYデザイナー10人展

第15回: 岐阜で行われたNYデザイナー10人展 2000/8/9 ●岐阜で行われたNYデザイナー10人展 岐阜から世界への情報発信をテーマに、岐阜駅高架下にワールドデザインシティ・Gifu(アクティブG)が、7月7日オープンしました。ワールドデザインシティ・Gifuのショウルーム・ギャラリーの為に、 岐阜県の依頼により、IDNFの企画、Gallery 91の運営で、NYで活躍している最もホットなデザイナー10人の作品展をすることになり、120点余りの作品を運び込み、NYスタイルで展示準備を進めてきました。     NYデザイナー10人展ポスター 日本の展示場やギャラリーというと、いつもクギひとつ打てずに困るので、今回はそれがないように、特にお願いしました。そして、NYでは2カ月に1回は展示を変えていて、ペンキを塗り変えたり、ちょっと工夫して、まったく違うセッティングにしたりできるのですが、日本では何々工芸社やその下請け、又々そのプロデューサーまで入って、高価な設置費用になるようで、あきれます。 会場風景 会場風景 会場風景   NYでは一般家庭の人はもちろん、弁護士さんの高級宅でも子供部屋のペンキ塗り位は、御主人の仕事です。ですから誰でもペンキ塗りやクギが打てるので、アーティストなども手伝って、セッティングができます。(アメリカ人が不器用のように、言われていますが、お金をかけずにやろうと思う人は、何でもできるようになっていて、材料も手に入ります) 日本の棚や展示台(ペデスタルと呼びます)は、まるでそれ自身が作品のように、素晴しい材料で、画錨一つ入らないような一生ものに仕上げてしまいます。作品が引き立てばよいので、もっと気楽に釘が打てたり、穴が開けられたり、後でペンキを塗って、修正できた方がやりやすいと思うのですが、完璧主義の日本の習慣でしょうか? でも必要でないところにお金がかかりすぎるのは、考えものです。 今回はファックスのやりとりで、展示台から棚まで色々お願いして、わがままを言いながら協力して頂き、岐阜に入ってからは‘ほとんど物を置くだけ’位に助けて頂きました。それでも着いてすぐさま、NYから来たのデザイナーの一人ガストン・モティコレナは、自分の仕事の様に細々とセッティングを手伝ってくれました。それに、彼の作品の一つの「わらの椅子」が、税関にかかってNYから持ち出せなかったので、岐阜でそろえたワラを使い、その場で作りあげる作業も同時にしていました。   ♦左、Karim Rashid のガラス器(菓子皿などのボールとしても、逆さまにすると花器になる新製品)♦中央、Karim Rashidの新作フロアーランプ、♦右、Harry Allanのワイヤー・プレート     7日のオープニングまでに、IDNFの会長、アメリカン・クラフト美術館館長、NYからもう一つ出展した「マテリアル・コネクション」の社長夫妻、他関係者、総勢12人がNYから岐阜に入り、テープカット等参加しました。思っていたよりも、大がかりで立派な施設。大勢の観客でごったがえし、見積もった数をはるかに上回る15万人の人出だったそうです。以降も、一日平均2万人以上の入りで大成功のようです。     我々のショウルーム・ギャラリーの他にも、いろいろな素材のライブラリーとしてNYのデザイナー愛用の「マテリアル・コネクション」ではNYそのままが見れますし、イタリア工房、イギリス工房、アフリカ工房、中国工房、他、インターナショナルな作家達のショップが出ていて、見応えがあります。 NYに行かなくても、こうした世界のデザインが見れるのですから、ぜひ一度、岐阜駅で途中下車することをお勧めします。NYからの12人が参加した5日間の岐阜県見学ツアーに、私も同行しました。「初めての日本」というデザイナーもいて、いろいろな反応が勉強になります。まず、日本がこんなに大きいと思っていません。ハイテクから飛騨高山の秘湯まで、奥深い日本を知ってもらったのですが、日本は本当に知られていなくて、宣伝が下手だと思いました。それなのに、どこへいっても公共の場でアナウンスがうるさく流れ、繁雑な色のポスターがべたべたと、どこにでも貼ってあり、でも、人々はとても静かなのが、不思議だそうです。たしかに外国では、うるさいのは人の会話ですから。 私も感じたのは、繁雑なポスターがたくさん目につくのに、いざ我々のスマートなポスターを貼りたいと思っても規制があったり、平らな壁がなかったり…、と釘を打てない壁と同様に不思議でした。以上岐阜滞在日記でした。   ●2000個のオブジェ展 PART 4 「ユニバーサルデザイン」展 NYの Gallery 91では、ニューミレニアムに向けて2000個のオブジェ展、Part 4: 「ユニバーサルデザイン」展が7月25日からはじまりました。「ユニバーサル」なテーマとして、エコロジー、及びリサイクル環境にやさしいデザイン、日常に使いやすく、周りにある物をどこまで優れた使い勝手があるかを見て頂きたいと思います。   出品者、デザイナーの一部を紹介しますと、日本でユニバーサル・デザインとして知られているマーナ社の多数の小物が展示されています。人に優しく、赤ちゃんからお年寄の方まで使える、やわらかいシリコン素材を使用したグリップのスプーン、コップ、気配りを考えたキッチンアイテムから、リラクセーションの為の頭のマッサージャーなどの、カラフルで楽しい数々のアイテム。 その他には、竹の一輪挿し、交通標識をリサイクルしたタイルや、鈴木勝美の新しい形の漆箸、ロリーワイズナーの旅行枕、そしてステーブ・ヴイスラーの未来的なサングラスも初お目見えです。三宅道子のペーパーウエイト、ドアノブ等、思い出のガラスビンやリサイクル・ガラス・ボトルを使った作品群が出品されています。その他、益田文和のアルミのペンチ、岐阜関刃物の特殊なハサミ数種、岡本善彦のムードランプや森本尚則の自然に風化したような木のユニークなランプ、出口普子の手織り小物、安次富隆の竹のカトラリー(タケトリー)、スタンダード・デザイン社の木の表紙のノートやスポンジ・ポストカードなど。 一つ一つの作品の素材、色、手触りが違う、ユニークな経験ができます。ユニバーサルであり、日常生活に使える無限の可能性があるオブジェを250点を集めた展覧会で9月2日まで開かれます。 — 海老原嘉子

第14回 ガラス展で凉しさ漂うNY

第14回: ガラス展で凉しさ漂うNY 2000/7/12 2000年6月は世界ガラス会議が行われたので、会議の盛り上げと協力ということもあり、NYではあちこちのギャラリーがガラス展を行いました。 ●2000個のオブジェ展 PART 3 「ガラス」展 SohoのGallery91でも2000年ニューミレニアムに向けて『2000個のオブジェ展 PART 3 「ガラス」展』が6月1日~7月15日まで行われています。夏らしい涼し気な装いで、今回は日本から多数のガラス作家の出展もあり、40人以上200点余りの作品が集まりました。 また、NY注目のプロダクト・デザイナー、カリム・ラシッドの新作ガラス作品、若手イタリアのチアラ・グリゴッティ等ほかの作品が展示されています。日本からのデザイナーでは日本クラフト賞の受賞者、三宅道子の“光の四角柱”というペーパーウェイトを展示。素材に網入板ガラスを使い、何層にも重ね、網目の微妙なずらし方で、美しい光の拡散、屈折、反射を実現しています。ビルディングのようにも見えるペーパー・ウェイト。大小取り混ぜた作品群は、都市の風景を思い起こさせます。 光の四角柱 Gallery91「ガラス展」全景 小石のようなガラス一輪挿し   辻和美は、日本の伝統的なスタイルの食器をガラスで作りあげています。そして渡瀬和恵、安次富隆の手による小石のようにも見える不思議な色あいのガラス一輪指し。メタルや様々な素材をガラスに混ぜ、微妙な模様を作り出しています。ブローグラスの伝統的な技術を使って、ひとつひとつ作品の色や形の違う手つくりのよさをだしています。   2000個のオブジェ展 PART 3 「ガラス」展 PABLO POSADA PERNIKOFF 秋野ヨーコ 三宅道子 辻和美 松岡洋二 大高冷香 松崎隆   CHIARA GREGOTI 安次富隆 近岡令 TERRENCE MAIN   Heller Gallery オーナーのダグラス ●Sohoからチェルシーに移った、 ガラス専門の老舗ギャラリーHeller Gallery ガラスといえばHeller Galleryが専門の老舗です。Heller Galleryは、Sohoからチェルシーにいち早く移って話題になったのですが、広くなった会場では、1970年の大阪万博でも展示された色を使わないガラスの大きな作品で展覧会も行われました。 現在は、大御所のLibansky夫妻の現在までの回顧展をし、このオープニングにガラス会議の参加者を招待して行われました。Heller Galleryオーナー・ダグラスに、チェルシーに移った事情なども聞いてみましたが、「Sohoの土地の値上がりと、ファッションや家具、インテリアの店がどんどん入り込んで、本来のギャラリーのお客でない人達が増えて、対応が困難になっていた時で。ちょうど契約が切れるので、少し早い時期だったが、思い切ってチェルシー移りました」とのこと。 周囲には、まだミートマーケットなど倉庫街が並び、ちょうどSohoの始まりの時のような所にHeller Galleryがあり、一歩入るとミニマムで格調のある静かな空間です。 外との対照がクライアントに驚きと楽しさを与え、オーナー好みのガラスの作品を鑑賞してもらえるので成功だった、とのこと。ただ、近々GapShopが店を出すそうで「あまり早く開発してほしくない」とも話しています。   3人展 ウィンドーギャラリー ●日本のガラス作品『3人展』 Sohoでもう一つ、アートとしての日本のガラス作品『3人展』がISEギャラリーで行われていますが、チェルシーでも充分取り上げられそうな、日本の現代作家の力強い作品が展示されています。 ●24時間営業のウィンドーギャラリー ガラスではないのですが、いつも車で通ると気になっている24時間オープンのウインドーギャラリーが、クリスタルのような気になる作品を並べていたので、紹介します。このウインドーギャラリーは、1984年からニューヨーク大学(NYU)のギャラリーの一つとして開いていて、いろいろ実験的な展覧会をしています。 今回はNorman J. Mercerの「Refractions and Refractions」という題で、倉俣史朗を思わせるカラフルなアクリルの彫刻が、5つのウインドーに分けて展示され、通る人の目を引きとめています。     暑い夏、これらの涼し気な作品群を鑑賞して、クールになってください。 ※Gallery91の次のスケジュール、パート4「ユニバーサル・デザイン」展は、現在作品受け付け中です。7月20日から9月2日まで展示されます。 興味のある方はご連絡下さい。g91@gallery91.com 海老原嘉子